夜間頻尿は、転倒の危険や、隠れた病気のリスクを考えると放置は危険です。睡眠不足や慢性疲労から、集中力の低下やイライラを引き起こし、悪化するとうつ状態を招くこともあります。生活の質(QOL)を著しく低下させる症状ですから、原因を確かめるとともに、できるだけ改善に努めることが大切です。【解説】平澤精一(マイシティクリニック院長)
解説者のプロフィール

平澤精一(ひらさわ・せいいち)
泌尿器科医。日本医科大学卒業。日本医科大学付属病院、三井記念病院、河北総合病院などの勤務を経て、1992年に「マイシティクリニック」を開業。2014年から東京医科大学地域医療指導教授として医学生の教育にも関わる。現在は新宿区医師会会長を務め、東京都医師会、新宿区医歯薬会、新宿医療行政関連の委員、役員を兼任。健康寿命に深く関わる「テストステロン」の臨床研究者として、「熟年期障害」の治療、高齢者の健康を守る取り組みを数多く実施。近著に『朝までぐっすり! 夜中のトイレに起きない方法』(アチーブメント出版)がある。
▼マイシティクリニック(公式サイト)
「年だから仕方ない」で済ませてはいけない
「睡眠中に、何度かトイレに行きたくなって目が覚める」
「夜間、トイレに行った後、眠れなくて困る」
「夜間の排尿のために睡眠不足になり、日中眠気に襲われる」
これらの状態を「夜間頻尿」と呼んでいます。一般的な定義としては、「就寝後、排尿のために1回以上起きなければならず、それによって日常生活に支障をきたして困っている状態」が夜間頻尿とされています。
夜間頻尿は、年齢が高くなるほど起こりやすくなります。日本排尿機能学会の調査によると、50代では5人に1人(20.6%)、60代では5人に2人(39.7%)、70代では5人に3人(62.0%)、80代では5人に4人(83.9%)にみられ、まさしく加齢とともに増加しています。
夜間頻尿が加齢とともに増えることは、一般的にも広く知られているので、「若い頃より夜のトイレの回数が増えたけど、年だから仕方ないか」と思っている人も多いでしょう。
しかし、ちょっと待ってください。夜間頻尿には、「年だから仕方ない」では済ませられない危険性が潜んでいるのです。
夜間頻尿と死亡率に関する近年の国内の研究結果によると、夜間の排尿回数が2回以上の人の生存率は、1回以下に比べて10%ほど低いという結果が出ています。これは、死亡率に換算すると1.98倍、つまり約2倍です。

Nakagawa H et al.: J Urol. 2010: 184, 1413-1418より引用改変
正しい対策で改善が可能
夜間頻尿があるだけで、このように死亡率が高くなるというのは衝撃的なデータですが、これには、いくつかの理由が考えられます。
1つは、夜間頻尿があると、転倒の危険性が高まるということです。睡眠中に尿意で目覚めると、脳も体もまだ十分覚醒していない状態で、トイレに行くことになりがちです。そのため、転倒しやすくなります。すると、頭を打つなどして死亡する率も高まると考えられます。
アメリカの研究機関によると、1晩に3回以上の夜間頻尿がある場合、転倒のリスクが1.28倍になると報告されています。別の海外の研究では、75歳以上の高齢者の偶発的死亡の7割は転倒によるものというデータもあります。これらを見ても、やはり夜間頻尿は、重大な転倒事故につながる危険性を高めるといえそうです。
高齢者の場合、転倒すると大腿骨頸部(太ももの付け根の骨の細くなった部分)の骨折を起こしやすく、それによって入院すると、寝たきりなどを招いて、結果的に死亡につながる場合もあるでしょう。
転倒にまつわる危険以外に、夜中に寒いトイレに行くことにより、急激な温度変化で、脳卒中や心筋梗塞(心臓の血管が詰まって起こる病気)を起こすというリスクも考えられます。
以上のような夜間頻尿自体が招くリスクとは別に、そもそも糖尿病、心臓病、腎臓病などの生活習慣病を持っている人が、それらによって夜間頻尿になっているケースもあります。生活習慣病、特に糖尿病は、症状として夜間頻尿を起こすことが多いからです。
その場合、各病気によって死亡率が高まると、結果的に夜間頻尿を持っている人の死亡率を高めることになります。つまり、夜間頻尿は、病気のサインや病状のバロメーターとなる場合もあるのです。
いずれにしても、夜間頻尿は、「年だから仕方ない」といって済ませられない、重大な症状であることがおわかりいただけたと思います。
中には、夜間に2〜3回排尿で起きても、比較的すぐ眠れるから問題ないと思っている人もいるかもしれません。しかし転倒の危険や、隠れた病気のリスクを考えると放置は危険です。
死亡率の問題を別にしても、夜間頻尿は、睡眠不足や慢性疲労から、集中力の低下やイライラを引き起こし、悪化するとうつ状態を招くこともあります。夜間頻尿は、生活の質(QOL)を著しく低下させる症状ですから、原因を確かめるとともに、できるだけ改善に努めることが大切です。
夜間頻尿はいくつかの原因から起こりますが、ほとんどの場合、正しい対策を行うことで改善できます。諦めずに、ぜひ対策を実践しましょう。
なぜ「夜間頻尿」が危険?
①転倒の危険性が高まる
②脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まる
③糖尿病や心臓病などの生活習慣病のサインの可能性がある