解説者のプロフィール
石橋輝美(いしばし・てるみ)
柔道整復師。ペインシフト研究会主宰。手の甲を刺激し、痛みを瞬時に消す「ペインシフト療法」を考案。『簡単、すぐ効く「手の甲刺激」』、『巻けばやせるダイエットテープ』(ともにマキノ出版)など著書多数。
不調のサインが手の甲に現れる
手の甲にある、体の各部位と関連するポイントを、ほんの数秒刺激することで、関連部位の痛みや不快症状を一瞬のうちに、魔法のように消し去る。
それが、私が40年にわたり研究してきた「ペインシフト理論」に基づく治療法です。
手の甲のポイントには、不調のサインとして、皮膚の盛り上がりなどが現れます。その部分を、つまようじの頭(丸くなっている部分)などで押してみると、明らかに他の場所と違う特異な痛み(ペイン)が感じられます。
この特異な痛みのあるポイントを刺激して、痛みのない状態に変換(シフト)することから、「ペインシフト療法」と名づけました。
非常に高い治療効果から、ペインシフト療法を取り入れている治療家も多く、全国にその輪が広がっています。
ペインシフト療法の開発のきっかけは、私自身の右足首の骨折でした。右足首の重苦しい痛みに苦しんでいた最中、右手の指の甲になんとも言い難い違和感があることに気づきました。
そこで何気なく、そこをかいたり押したりと刺激していたら、不思議なことにスッと右足首の痛みが消えたのです。
翌日、痛みがぶり返したので、また同じ場所を押してみると、やはり痛みが消えます。「これは何かある」と考えた私は、私と同じようなケガで来院された患者さんにも施術しました。すると、やはり痛みが瞬時に取れたのです。
そこから、体の各部位に対応する手の甲の刺激ポイントを探索する日々が始まりました。
東洋医学のツボ(経穴)と混同されることがありますが、全く異なるもので、臨床の中で見つけていった独自の反応点になります。では、どうして痛みが消えるのでしょうか。
痛みの本質は電気信号です。何らかの信号が脊髄を通して脳に伝わり、それを痛みとして、脳が判断・知覚しています。だからこそ、患者さんの感情や情緒と密接に関係することが知られています。
痛みには2種類あり、一つは原因のはっきりしている急性痛です。これは、体の異常を知らせるための警報で、必要な痛みです。適切な治療で原因を取り除けば解消します。
一方、慢性痛は原因がはっきりしないか、原因は取り除いたはずなのに痛みが続いていることが多く見られます。
慢性痛は、壊れた警報機が本来反応すべきでない刺激に対して、鳴り続けているようなもの。誤作動を恐れて動かさないでいると、その場所の血流が滞りやすくなり、さらに機能が低下していきます。そして、痛みそのものが「病気」となってしまうのです。
1~2秒だけ強めの刺激を与えるのがコツ
私が創始したペインシフト療法は、刺激した瞬間に痛みが減衰する即効性が、最大の特長です。患部に対応する手の甲への刺激が脊髄を通して脳に届くと、反射的に脳から対応部位に向かって、筋肉を弛緩させるなどの反応指令が降り、痛みが瞬時に減衰するのです。
ただし、その効果は永続的なものではなく、最初のうちは早ければ数時間、たいていは翌日にはぶり返してきます。そうしたら再度、手の甲を刺激をして、痛みを消します。
痛みが起こったら消し、起こったら消しをくり返すうちに、しだいに痛みがない時間が長くなり、最終的には痛みを忘れられるようになります。
ペインシフト療法は、刺激に過敏になった脳に、「痛くない感覚」を思い出させて、壊れた警報機を正常化するメソッドなのです。

手の甲への刺激で脳から対応部位に反射的な指令が出る
さて、ここまで「痛み」について説明してきましたが、ペインシフト療法を研究・深化させていくうちに、内臓や器官に対応する手の甲のポイントも見つけることができました。
そして、痛み以外のさまざまな不快症状の改善にも役立てられるようになったのです。
対応できる症状は非常に多数ありますが、今回はその中から耳鳴りやかすみ目、便秘や胸やけ、不眠を改善する手の甲のポイントをご紹介します(下項参照)。
いずれも年配者に多く見られ、深刻に悩んでいるにも関わらず「年のせいだから仕方がない」などと、放置されがちな症状です。
下項の図を参考に刺激するポイントを見つけ、つまようじの頭などで押してみると、他の場所と明らかに異なる鋭い圧痛(押すと感じる痛み)が感じられます。
もし押しても鋭い痛みを感じなかったり、体に変化を感じたりしなければ、ポイントがずれています。あらためてその付近を探り、圧痛があるポイントを見つけてください。
手の甲という限られた範囲の中ですから、何度か行っているうちに「ここだ!」という場所に当たるはずです。
そして、ほんの1~2秒だけ、強めの刺激を与えます。ジワジワと力を込めるのではなく、ギューッと押して「痛い!」と感じたら、すぐ離すのがコツです。
的確にポイントを刺激できれば、瞬時に痛みや症状が減衰しますから、同じ場所を一度に何回もくり返し刺激する必要はありません。また、長く押したり、何度も押したりすれば効果が高まるわけではありません。
いったん消えた痛みや症状がぶり返して来たら、また1回数秒刺激して、痛みや症状を消すのをくり返しましょう。
論より証拠。まずは手の甲を刺激してみてください。
手の甲刺激のやり方
ポイントの見つけ方・押し方
❶つまようじの頭で症状に対応するポイント(下図解参照)付近をつまようじの頭で探り、鋭い圧痛(押すと感じる痛み)やしこりを感じる場所を見つける。

❷その場所をギューッと強く1~2秒間垂直に押し、痛みを感じたら離す。ジワジワ力を込めるのではなく、強く短時間押すのがコツ。

◎的確に押せていれば、鋭い圧痛と同時に、体の痛みや不快症状が消えるなど、瞬時に体の状態に変化がある。変化がない場合は位置が違うため、ほんの少し位置をずらして押してみるとよい。
◎同じポイントを何回もくり返し押したり、長時間押し続けたりしても、一度に数秒押すのと効果は変わらないので、過度な刺激はしない。
◎いったん消えた痛みや症状は数時間~数日で戻ってくるので、その都度手の甲を刺激して、また消すようにする。くり返すうちに痛みや症状がぶり返す間隔が延びていく。
◎つまようじの頭の他、先端が細くて丸いボールペンの先やはしの先を用いて押すこともできる。
「手の甲刺激」治療ポイント図解
耳鳴り
耳鳴りは、キーン、ピーと甲高い金属音がするタイプと、ブーン、ゴーという重低音やジーとセミの声のような音がするタイプがあり、それぞれで刺激する場所が少し異なります。最初のうちはいったん音が消えてもぶり返しやすいのですが、あきらめずに根気よく刺激していたら、いつの間にか音が消えていたという人が多数います。
耳鳴りがしている側の手の甲を刺激する。①は手首に向かって力を込めるように押す。
●キーンと高音の耳鳴り

①薬指と小指の骨の間の溝の行き止まりから5mm手首側に寄ったところ。薬指の骨の上。
※圧痛がなければさらに5mm手首寄りまで範囲を広げて探す。
②薬指の第一関節の中央。
③小指の第一関節の中央。
●ジーと低音の耳鳴り

①薬指と小指の骨の間の溝の行き止まりから5mm手首側に寄ったところ。小指の骨の上。
※圧痛がなければさらに5mm手首寄りまで範囲を広げて探す。
②薬指の第一関節の中央。
③小指の第一関節の中央。
かすみ目・疲れ目
眼筋のこりや疲労をスーッと解消する手の甲刺激です。単純に目を酷使したことが原因の目の不調であれば、①のポイントだけで改善することもよくあります。その場で視界が明るくなったり、目の奥の痛みが消えたりしたという声も多く聞かれます。
疲れ目やかすみ目がひどい側の手の甲を刺激する。両目が同程度であれば、押して圧痛が強い方の手の甲に行う。

①薬指と小指の骨の間の溝の行き止まり
②中指と薬指の骨の間の溝の行き止まり
③こぶしを握ったときに中指の付け根にできる骨の隆起の指先側のふもと
④こぶしを握ったときに人さし指の付け根にできる骨の隆起の指先側のふもと
不眠
不眠に悩む人は、首の筋肉が強く緊張していることが多いのですが、ポイントを的確に刺激できるとスーッとこりがらくになるのが感じられるはずです。この手の甲刺激で、10年以上のしつこい不眠が改善し、睡眠薬や精神安定剤が不要になった人もいます。
昼間に両手に1回、寝る前に左手だけに1回行う。

①小指の第二関節中央から5mm付け根側に寄ったところ。
②こぶしを握ったときに小指の付け根にできる骨の隆起の指先側のふもと
③こぶしを握ったときに薬指の付け根にできる骨の隆起の指先側のふもと
④薬指と小指の骨の間の溝の行き止まり
⑤中指と薬指の骨の間の溝の行き止まり
胃痛・胸やけ
①は「胃点」、②は「潰瘍点」、③は「膵点」とも呼ぶ内臓機能の特効点です。胃痛や胸やけ、胃もたれ、腹部膨満感などの症状や、みずおちのシクシクした痛みには①と②を押しましょう。さらに、わき腹から背中まで広がっている痛みには③を追加して刺激してください。
左手だけに行う。

①人さし指と中指の骨の間の溝の行き止まり
②中指の第二関節の中央から指先5mm寄ったところにあるくぼみ
③①のポイントのすぐ上で、中指の骨の際
便秘・下痢
大腸の反応点で、便秘の人がここを押すと、ビーンと響くような強い痛みを感じます。寝る前に刺激しておくと、翌朝気持ちよくお通じがつくという人が多いのですが、早い人だと押してすぐ腸がゴロゴロと動き出すので、いつでもトイレに行ける状況で刺激するのをお勧めします。
便秘は左手、下痢は右手を刺激する。中指側に向けて押す。

①こぶしを握ったときに指の付け根にできる骨の隆起の、人さし指と中指の間から5mm指の股に寄ったところ。
※手の力を抜き、指を曲げも伸ばしもしないリラックスした状態で刺激する。

この記事は『安心』2022年1月号に掲載されています。
www.makino-g.jp