骨は古くなると破骨細胞によって壊され、骨芽細胞によって新しい骨に作り替えられています。骨粗鬆症はこの「骨代謝」の際、破骨細胞の活動が骨芽細胞の活動を上回ることで発症する病気です。今回の研究で、この骨粗鬆症の予防・改善にショウガの成分が役立つ可能性を見つけました。【解説】島田康人(三重大学大学院医学系研究科講師)

解説者のプロフィール

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島田康人(しまだ・やすひと)

医学博士。三重大学大学院医学系研究科統合薬理学分野・講師。2000年に三重大学医学部を卒業後、2004年に同大学大学院医学系研究科修了。県内病院の精神神経科、三重大学、ライデン大学などを経て、2016年より現職。2017年より、同大学次世代創薬ゼブラフィッシュスクリーニングセンターセンター長も務める。ゼブラフィッシュを用いた医学・薬学研究を専門とし、糖尿病や肥満、骨粗鬆症などの予防・改善につながる論文を多数発表している。2007年、第17回日本循環薬理学会Young Investigator Award受賞、2015年、三重大学知的財産優秀出願賞受賞。
▼専門分野と研究論文(CiNii)

ショウガの辛味成分が骨の破壊を抑制

骨粗鬆症は、骨密度の低下によって骨がもろくなる病気です。今回、私たちの研究で、この骨粗鬆症の予防・改善に、ショウガの成分が役立つ可能性を見つけました。

その研究内容を説明する前に、まずは骨粗鬆症が起こるメカニズムについて、簡単にお話ししましょう。

骨は、古くなると破骨細胞によって壊され、骨芽細胞によって、新しい骨に作り替えられています。このしくみは、「骨代謝」と呼ばれています。

骨粗鬆症は、この骨代謝の際に、破骨細胞の活動が骨芽細胞の活動を上回ることで発症する病気です。

実は、2016年の時点で、この破骨細胞の形成を抑える働きが、ショウガの抽出物にあることがわかっていました。これは、辻製油会社が行った研究で、製油工程を応用した技術によって加熱・酸化の過程を経ずに抽出した、ショウガの成分で確認されたものです。

ただ、この時点では、ショウガのどの成分が破骨細胞の形成を抑えるのかまでは、わかっていませんでした。

その後、辻製油会社と三重大学の共同研究が開始。そして今回、ゼブラフィッシュを用いた実験で、それがショウガの辛味成分の一つである「10‐ジンゲロール」であることが判明したのです。

実験で使用したゼブラフィッシュとは、熱帯魚店でもよく見かける小さな魚です。実は、このゼブラフィッシュのうろこは、破骨細胞と骨芽細胞の活動によって、健康な状態を維持しています。

そのしくみは、人間の骨代謝と同じですが、活動の早さは大幅に異なります。人間の場合、骨代謝で体中の骨が作り替えられるのに要する期間は、高齢者で5年以上といわれています。

一方、ゼブラフィッシュの場合は、骨芽細胞の活発な活動によって、1週間で新しいうろこが再生します。そのため、少しかわいそうではありますが、うろこをはがしても、通常はすぐ元に戻ります。

ところが、ゼブラフィッシュの水槽にステロイド(副腎皮質ホルモン)を投与すると、破骨細胞の活動が強くなり、うろこがきれいに再生しなくなります。骨粗鬆症の骨のように、スカスカで穴だらけになってしまうのです。

皮ごとすりおろした生ショウガがお勧め

研究では、このステロイドを投与した、骨粗鬆症型ゼブラフィッシュの水槽に、さらに少量ずつ、さまざまなショウガ由来成分を投与しました。

すると、10‐ジンゲロールを投与した水槽にいたゼブラフィッシュのうろこが、きれいに再生したのです。しかも、その作用は、骨粗鬆症の治療改善薬・ビスフォスフォネート製剤と同等以上でした。

その後、さらにゼブラフィッシュやマウスの細胞を使って実験したところ、10‐ジンゲロールは、次の二つの働きによって、骨粗鬆症を予防・改善する可能性があることがわかりました。

破骨細胞の形成を防ぐ

実は破骨細胞は、骨の中では細胞の状態で存在していません。普段は、単球という白血球の一種になっており、必要に応じて破骨細胞に分化・形成されます。10‐ジンゲロールには、この単球が破骨細胞に形成されるのを防ぐ働きがありました。

骨を分解する酵素を抑える

破骨細胞が骨を分解するのは、カテプシンKという酵素の力によるものです。10‐ジンゲロールは、この酵素の働きも抑えていました。

以上のことから、ショウガに含まれる10‐ジンゲロールには、破骨細胞の過剰増加だけでなく、今ある破骨細胞が骨を分解する原因となる酵素も、抑えることがわかったのです。

つまり、10‐ジンゲロールには、骨代謝のバランスを整えて、骨粗鬆症の予防・改善に役立つ可能性があると考えられます。

もちろん、まだ人体での検証実験は行われていないため、「ショウガを食べれば骨密度が高まる」「骨粗鬆症を防げる」とは断言できません。

ただ、ある程度の期間ショウガを食べ続ければ、この可能性はゼロではないと考えます。

では、具体的な食べ方をお教えしましょう。

画像: ショウガを皮ごとすりおろして食べるのがポイント

ショウガを皮ごとすりおろして食べるのがポイント

10‐ジンゲロールは、ショウガの皮の部分に多く含まれています。しかし、この成分は、空気に触れたり加熱調理したりすると、すぐに別の成分に変化してしまいます。

そのため、骨粗鬆症の予防・改善効果を期待してショウガを食べるのであれば、生のショウガを皮ごとすりおろしたものをそのまま食べるか、常温の水やお茶に溶かして飲むことをお勧めします。

ショウガをすりおろすのが面倒な人は、ショウガの皮の抽出成分が入ったパウダーなどを使うのもお勧めです。

なお、ゼブラフィッシュの1週間は、人間の1年間に相当するといわれています。骨密度が気になる人は、まずは3ヵ月~半年ほど、ショウガを食べ続けてみてはいかがでしょうか。

画像: この記事は『安心』2022年1月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2022年1月号に掲載されています。

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