生命の貯蓄体操は、日常生活でいつの間にか緊張して硬くなったり、縮んだりしている筋肉をゆるめることを目的の一つとしています。筋肉がゆるむことで、骨が正しい位置に戻る余地が生まれて、体のゆがみも改善されます。それは全身の血流をよくし、首や肩のこり、腰痛やひざ痛が解消するのです。【解説】矢野順子(NPO法人生命の貯蓄体操普及会理事長)

解説者のプロフィール

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矢野順子(やの・じゅんこ)

NPO法人生命の貯蓄体操普及会理事長。1976年から鍼灸師として活動。1983年、ワシントン州鍼灸免許取得。シアトル中央コミュニティカレッジ、パシフィック鍼灸カレッジで講師を務める。1988年、生命の貯蓄体操普及会常務理事に就任し、全国の支部で体操を教える講師となる。2011年より生命の貯蓄体操の理事長に就任し、現在に至る。

運動経験のない高齢者がベタッと開脚

生命の貯蓄体操」は現在、全国に約2300ヵ所の教室があります。60代を中心に、上は98歳を超える生徒さんがいて、その総数は2万人に上ります。

初めて教室をご覧になった方は、80代や90代といった高齢の方がきれいに正座したり、ベタッと開脚したりする様子に驚かれます。「私にできるかしら?」と心配になる方もおられるようですが、90代で開脚ができる生徒さんの多くは60代以降にこの体操を始めています。

そして、それ以前は何の運動もしていなかったという方が大半なのです。なぜ、そんなに体が動かせるようになるのか?それはまさに、生命の貯蓄体操が持つ特長によるものです。

生命の貯蓄体操は、日常生活でいつの間にか緊張して硬くなったり、縮んだりしている筋肉をゆるめることを目的の一つとしています。この体操を習慣化して取り組むうちに、筋肉をゆるめるコツが身につき、体がしなやかさを取り戻すのです。

筋肉がゆるむことで、骨が正しい位置に戻る余地が生まれて、体のゆがみも改善されます。それは、全身の血流をよくすることにもなります。その結果として、首や肩のこり、腰痛やひざ痛が解消したという人は数え切れないほどいます。

「血圧、血糖値が下がった」「めまいや耳鳴りが改善した」「たるんだおなかが引き締まり、見た目も若返った」などといった声も多く聞かれます。

ただ一方で、体が硬かったり、痛みがあったりして、「やってみたが、できそうにない……」との声もいただいていました。

そこで、今回は体が痛かったり、運動不足だったりでうまく動作ができない生徒さんが取り組んでいる、生命の貯蓄体操のやり方を紹介します。

今回紹介するやり方は、今でこそ全国の教室で取り組まれていますが、そうなったのはここ10年と比較的最近のことです。まずは、その経緯を手短にお話しします。

生命の貯蓄体操は私の父・矢野順一が「自分の健康を自分で守れるように」と考案したのが始まりです。歴史は古く、50年以上前から普及活動を行っています。

実は、父が指導していた時期は「痛くても我慢しましょう」と、体の硬い生徒さんの背中や足を強引に押したり、開いたりと、形を重視する指導方針でした。

しかし、本来の生命の貯蓄体操の理論では「無理をせずに体を伸ばすこと」が肝要なのです。

また、父が指導していた頃と比べると、生徒さんの平均年齢も、年々高くなっています。無理をして体の痛みが出たら、続ける意欲もなくなるでしょう。そこで、今回紹介しているようなやり方を、全国の教室でも指導するようになったのです(詳しいやり方は下項で紹介)。

筋肉と関節を柔軟にして痛みを改善

生命の貯蓄体操は、「五導術」と「要の操法」の2つで構成されています。

五導術は、昔からある日本の養生術に東洋医学の理論を組み合わせ、全身の気血(体を巡る生命エネルギーと血液などの体液を指す)の巡りをよくする目的で考案された一連の動作です。

一方、要の操法は、上半身と下半身とを結ぶ体の「要」である骨盤を中心とした腰部を整えるのに大変役立ちます。日常生活で負担がかかりやすい腰部の筋肉や関節を柔軟にして、こりや痛みを解消するとともに、全身の姿勢をよくする効果も非常に高い動作です。

この2種類から成る生命の貯蓄体操には、二点の重要なポイントがあります。

一点目は、表面の筋肉ではなく、体の力を抜き、重力と反動を使って体を動かすことです。そうすることで、深層部にあるインナーマッスルが活性化し、関節と体を支える体幹が整います。

二点目は、「丹田呼吸法」です(詳しいやり方は下項で紹介)。これは、下腹にある丹田を意識して深く呼吸する呼吸法のこと。気(一種の生命エネルギー)を取り込んだり、心身をリラックスさせて自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)を整えたりする効果があります。生命の貯蓄体操では、全ての動作を丹田呼吸で行います。

今回紹介している動作のやり方は、先に説明したポイントを押さえつつ、体が硬い方、腰、ひざ、股関節などに痛みがある方でも簡単に取り組めるように工夫したものです。

まず、要の操法では、「壁」や「座布団」を用いることで姿勢を補助し、動作を行いやすくしています。

例えば、「股関節伸ばし」は、床に座って、体の真正面で両足の側面をくっつけた姿勢から始めます。まず、この座り方の時点できついという方がいます。きついと言う方の多くは、腹筋に力を入れ続けて上半身をなんとか起こし続けないと、後ろに倒れてしまう状態にあります。

しかし、股関節は腹筋に余計な力が入っているとゆるまず、上体も前に倒せません。そこから無理に動くと、股関節に痛みを覚える危険もあります。

そこで、壁にもたれかかって座るようにします。すると、自然と腹筋の力が抜け、股関節が開きやすくなります。股関節がゆるむと、自然に上半身も前に倒しやすくなるのです。

「背そらし」は、腹ばいの姿勢から腕を立てて背中を反ることで、おなか、胸、のどをゆるめて伸ばす動作です。腰の周辺の筋肉が硬く、上体を反らしたときに足の付け根が床に付けられず、浮いてしまう人がいます。そのままの姿勢で動くと、余計な力が入って、腰や背中に負担がかかって傷めてしまうことがあります。

それを防止するために、腰と床の間に座布団を挟みます。すると、座布団に体重を預けることができるので、上体がゆるんで姿勢が安定し、負担をかける心配がなくなります。

このようにして、姿勢の補助をすることで、「余計な力を抜きながらも、重力と反動をうまく利用して体を動かす」という感覚を身につけることができます。そうすると、関節周辺がゆるむので、次第に体の動きもよくなります。すると、痛みも消えていきます。

五導術は今回、症状別に5つの動作を紹介しています。

父の時代は、どれも正座で行っていましたが、ひざや足首が痛くて、正座ができない方もおられます。そこで、いすに腰かけるやり方も行うようにしました。いずれも、正座と同様の効果を期待できます。

ポイントは下腹をへこませて息を吐くこと

呼吸についても触れておきましょう。生命の貯蓄体操の中には「イチ!」「ニ!」のように思いっきり声を出しながら行うものがあります。

腹筋を使っておなかの底から声を出すと、自然と丹田呼吸になりやすく、呼吸のリズムを乱さないというメリットもあります。ただ、お住まいの環境などによって大声を出すのが難しい場合、声を出さなくても構いません。

その場合、息を吐くときにしっかりと下腹をへこませるように意識して、「ハアーッ」とため息くらいの音を出すようにしてください。この方法なら、気がねなく行えるでしょう。

どなたでも、いつでも、どこでも行えます。ぜひ、気軽に取り組んでみてください。皆さんの健康と若さを守るお役に立てるでしょう。

丹田呼吸法と生命の貯蓄体操の基本

丹田呼吸法

「丹田呼吸法」は、生命の貯蓄体操に欠かせない基礎の呼吸法です。この呼吸を行うことで自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)が安定し、心身ともにリラックスできます。筋肉の過度な緊張を解消したり、内臓の働きを正常化したりすることにもつながります。

※立ったまま行っても構わない。いすに座って行うのもOK

画像1: 丹田呼吸法

あおむけになって、丹田(へそから5cmほど下)を意識する。下腹に手を軽く当てると意識しやすい。腹筋を使って下腹をグーッとへこませる。正しく行えていると、口から自然と息が出る。息を吐くのではなく、丹田から息を送り出すイメージ。

画像2: 丹田呼吸法

腹筋の力をゆるめて、へこませた下腹を普通の状態に戻す。息を吸うのではなく、鼻から丹田まで息が自然と流れ込んでたまるイメージ。①~②を5〜10分間、自分のペースでくり返す。

壁にもたれかかる際の注意点

壁にもたれる体操を行う際は、お尻を壁につけない。お尻がつくと、伸ばしたい筋肉の動きが悪くなってしまうので、離すことが大切。

画像: 壁にもたれかかる際の注意点
画像: お尻を壁にくっつけるのはNG

お尻を壁にくっつけるのはNG

呼吸と発声のやり方

「生命の貯蓄体操」の体操の中には、1回目に「イチ!」、2回目には「ニ!」といったように数を発声しながら行うものがあります。数え方には決まりがあって、「ジュウ!」まで数えたら、「イチ!」に戻って数え直します。これは、正しい呼吸法のリズムを乱さないために重要です。

ポイントは、腹筋を使っておなかの底から声を出すこと。空手の「エイ!」、剣道の「面!」といった気合の声のようなイメージです。

大きな声を出せない環境の人は、無理に発声はしなくても大丈夫ですが、下腹をへこませて息を吐くことだけは意識してください。

画像: 呼吸と発声のやり方

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