解説者のプロフィール

田中昭則(たなか・あきのり)
田中整骨院院長。1955年生まれ。柔道整復師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師。ギックリ腰になった際、中国鍼を経験したことがきっかけで、31歳で関西鍼柔整専門学校へ入学。卒業後、1991年に長崎県時津町で田中整骨院を開業。「最短期間で治すことが患者様にとっていちばんの親切」をモットーに、多くの施術だけでなく、自分でできるセルフトレーニングも指導している。
▼田中整骨院(公式サイト)
関節が正しく動くと手指への負担が軽減
私たちの体は、関節が正しく機能することによって、スムーズな動きができています。
その関節がねじれたり、ズレたりした状態で動くと、よけいな負担がかかって、腰痛、ひざ痛、股関節痛、手足の痛みなどが起こるのです。
関節は、筋肉によって支えられています。その筋肉がしっかり働いていないと、関節を正常に動かすことができません。そこで、関節を支える筋肉を活性化させて、正常な関節運動を取り戻すのが、私が施術に取り入れている「JTA療法(関節トレーニング)」です。
JTA療法では、手首、肩、肩甲骨、股関節、ひざ、足首にそれぞれ二つずつある、合計12個の筋肉にアプローチします。12個の筋肉がきちんと働いて、関節が正しく動くようになると、負担がなくなり、痛みが改善していくのです。
なお、当院では私が行う施術のほかに、患者さんに自宅で行っていただくセルフトレーニングを指導しています。毎日コツコツと筋肉に働きかけることで、より早い改善と再発予防につながるからです。
今回は、バネ指をはじめとする手指の痛みに効果を発揮する「手の関節トレーニング」を、皆さまにもお伝えしましょう。
三つの筋肉を意識してしっかり力を入れる
まず、関節を支える12個の筋肉のうち、手指の痛みに関係するのは、手首を支える二つの筋肉です。
一つは、ひじの内側から親指の方向についている「橈側手根屈筋(とうそくしゅこんくっきん)」。もう一つは、ひじの内側から小指の方向についている「尺側手根屈筋(しゃくそくしゅこんくっきん)」です。
この二つの筋肉に加えて、手指に関しては、手内在筋の一つである「虫様筋(ちゅうようきん)」も大きく関係します。虫様筋は手のひらにある中手骨についている筋肉で、これがしっかり働いていないと指の動きが悪くなり、痛みなどのトラブルにつながります。

手の関節トレーニングで鍛えられる筋肉
これらの筋肉の働きが悪くなる原因の一つは、手指の使い過ぎによる疲労です。
例えば、焼き鳥屋さんのように毎日串を刺す作業をしたり、裁縫をしたり、重い物を持ったりなど、手指をよく使う人は当然、それに関連する筋肉が疲れます。
筋肉は疲れるとかたくなります。かたくなると働きが悪くなり、筋力も低下します。すると、関節が正しく動かなくなり、指の痛みにつながっていくのです。
もう一つは、女性ホルモンが関係するといわれています。妊娠中や出産後、更年期の女性は、ホルモンバランスの乱れが影響して、手指に痛みが出ることが多いようです。
この場合も同じく、橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、虫様筋を活性化させることで、関節の動きがよくなり、痛みの改善が期待できます。
手の関節トレーニングの詳しいやり方は、下項を参照してください。効果を得るための大事なポイントは、正確なフォームで行うこと、そしてターゲットとなる筋肉を意識し、しっかり力を入れることの2点です。
手の関節トレーニングのやり方
これらの関節トレーニングは、それぞれ10秒ずつを3〜5セット行います。朝・晩もしくは朝・昼・晩など、1日2〜3回行うとより効果的です。
橈側手根屈筋
橈側手根屈筋を活性化させる手の関節トレーニングでは、親指・人差し指・中指の3本の指をくっつけることで、腕の親指側の筋肉に意識を向けます。そして、手首を曲げるときは斜めになったりしないよう、必ず真下に向かってまっすぐ曲げてください。

❶両手の人差し指と中指を親指につける。

❷手の甲が真上を向くように、両腕のひじを伸ばし、手首を真下に向けて倒す。その状態で10秒キープする。
尺側手根屈筋
尺側手根屈筋を活性化させる関節トレーニングも、手首を曲げる方向をきちんと守って行いましょう。このときは、腕の小指側の筋肉に力が入っていることを意識してください。

❶両手の拳を、親指で人差し指を押さえるようにして軽く握る。すべての指の第1関節は曲げていてOK。

❷手の甲が真上を向くように、両腕のひじを伸ばし、手首を真下に倒し、腕を内旋させる(内側にひねる)。その状態で10秒キープする。
虫様筋
虫様筋を活性化させる関節トレーニングは、指の第1関節ではなく第3関節を曲げることが重要です。第1関節は曲げてはいけません。
やりづらいと感じる人は、小さめのタオルなどを握って行うとよいでしょう。腕を外旋または内旋させるときは、手首を反らすことも忘れずに。手首をまっすぐにしたまま腕をひねると、虫様筋ではなく腕の筋肉が働いてしまいます。

❶両手の拳を、親指で人差し指を押さえるようにして軽く握る。このとき、親指以外の第1関節が曲がらないようにする。

❷手の甲が真上を向くように両腕のひじを伸ばし、手首を真上に向けて反らし、腕を外旋させる(外側にひねる)。その状態で10秒キープする。

❸手の甲が真下を向くように両腕のひじを伸ばし、手首を真下に向けて反らし、腕を内旋させる(内側にひねる)。その状態で10秒キープする。
手根管症候群やヘバーデン結節にもおすすめ
一般的な筋トレと違って、関節トレーニングは、関節を支える筋肉だけを単独で働かせます。地味な動きではありますが、まじめにやれば確実に効果が得られるトレーニングです。
テレビを見ているとき、お風呂の中、バスや電車に乗っているときなど、いつでも、どこでもできるのがいいところ。疲れない程度に、やればやるほど、筋肉は活性化します。
早い人なら2週間、多くの人は1ヵ月もすれば、なんらかの変化が感じられるはずです。
橈側手根屈筋・尺側手根屈筋・虫様筋を活性化させることで改善が期待できる疾患は、バネ指、腱鞘炎、テニス肘、野球肘、TFCC損傷(小指側の手首が痛む疾患)などがあります。突き指の治りも早くなります。これらよりも少し時間はかかりますが、手根管症候群にも効果が見込めるでしょう。
ヘバーデン結節やブシャール結節で、変形してしまった関節を元に戻すのは困難ですが、関節が固まるまでに生じる痛みの改善には有効です。
また、全身はつながっているので、手指のケアを行っていたら、肩こりや頭痛がよくなった人もいます。
逆もまた然りで、重症のバネ指などを改善するには手首だけでなく、肩や肩甲骨を支える筋肉へのアプローチが必要な場合もあります。
セルフトレーニングとしては、まず今回紹介した3つの筋肉に働きかける関節トレーニングから、お試しください。

この記事は『壮快』2022年1月号に掲載されています。
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