中高年の手や指の痛みの原因として特に多いのが、「ヘバーデン結節」「腱鞘炎(バネ指)」「手根管症候群」「母指CM関節症」の4つです。どれも手や指をよく使う人、更年期の女性などに多く起こります。仕事や家事などでしかたない部分もあるかと思いますが、改善できる習慣がないか見直しましょう。【解説】池上亮介(池上整形外科院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

池上亮介(いけがみ・りょうすけ)

池上整形外科院長。1984年、広島大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属柏病院や、国立東宇都宮病院、第三北品川病院、湘南記念病院副院長などで、整形外科医長として、年間500症例の手術を経験。2012年、池上整形外科を開院後は、日本手外科学会が認定する「手外科専門医」として、痛みを和らげ、運動能力を向上させる治療や手術を数多く行っている。
▼池上整形外科(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

女性ホルモンの影響と指の使い過ぎが主な原因

中高年になると、手や指の痛みに悩まされる人が増えます。その原因として特に多いのが、「ヘバーデン結節」「腱鞘炎(バネ指)」「手根管症候群」「母指CM関節症」の4つです。ここでは、それぞれの特徴や、どんな対策を取ればいいかをお話ししましょう。

へバーデン結節

画像: へバーデン結節

痛む場所

指の第1関節に痛みが生じ、腫れたり、骨が変形したりします。ちなみに、指の第2関節に同じ症状が出る病気は「ブシャール結節」と呼ばれます。この二つの違いは痛む場所だけで、原因や対策に違いはありません。患者数としては、ヘバーデン結節のほうがかなり多いといえます。

どんな病気か

へバーデン結節の国内の患者数は、300万人以上といわれています。ハッキリとした原因は不明とされていますが、発症しやすくなる要素は2つあります。

まず、指の使い過ぎです。音楽家、植木屋、大工等々、指を酷使する人に、ヘバーデン結節がよく見られるのは間違いありません。そうした人の場合、若いうちから発症するケースもあります。主婦が、料理や家事で手指を使い過ぎて発症するケースも少なくありません。

また、ヘバーデン結節は女性ホルモンとも関連が深いとされています。閉経前後や、妊娠中、産後の女性などにしばしば見られます。

この2つの要素は、今回取り上げる残りの3つの疾患にも当てはまります。

どんな対策を取ればいいか

私は、へバーデン結節に悩む患者さんには、「悲観的にならないでください」とお話ししています。指が変形してしまうと、患者さんの心理としては、どんどんひどくなるのではないか、と心配になるものです。

しかし、この病気は、ほとんどの場合が1年程度、長くて2年ほどで症状の進行が止まります。手が完全に使えなくなるまで進行してしまうことは基本的にないので、その点は安心してよいのです。

痛みを感じるのも、変形が進んでいる期間だけです。そのため、変形が一段落してしまえば、痛みもなくなります。

ただし、変形してしまった指は元に戻りません。悲観的になる必要はありませんが、できるだけ変形を進行させないように心がけることは重要です。

そのために、有効なのがテーピングです。また、セルフケアとして、指のマッサージもお勧めしているのでお試しください(やり方は別記事参照)。

指を酷使すると、それだけ変形が進行します。指を酷使しないために、日常生活を送っていくうえでの重要なポイントは、別記事で解説していますので、そちらもご参照ください。

[別記事:ヘバーデン結節や腱鞘炎によく効くテーピングとマッサージ、グーパー体操→

腱鞘炎(バネ指)

画像: 腱鞘炎(バネ指)

痛む場所

手のひら側の指のつけ根や指に痛みが生じます。親指、中指、薬指に多く見られます。

どんな病気か

手のひら側の指のつけ根に、腱の通り道となっている「鞘」があります。これが、「腱鞘」と呼ばれます。この鞘に炎症が起こるのが、腱鞘炎です。

腱鞘炎が悪化すると、腱鞘の内部が腫れて厚くなり、腱の通り道が狭まってしまいます。このために、腱がそれまでのようにスムーズには動けなくなり、すれて痛みが生じます。

また、中の腱がスムーズに動けない結果として、指の曲げ伸ばしがうまく行えず、少し力を入れただけで、バネのように跳ねてしまうことがあります。これが、バネ指といわれる由来です。

こちらも、手や指をよく使う人、更年期の女性などに多く起こります。

どんな対策を取ればいいか

まずは安静にしつつ、セルフケアとして、マッサージを試すといいでしょう。

セルフケアを行っても改善が見られない場合、ステロイド剤の注射による痛み止めという手もあります。

最後の手段が、手術です。手術は10分程度ですので、日帰りで行えます。一度手術を行えば、基本的にそれ以降はバネ指とは無縁で暮らせますので、選択肢の一つとして考えてもいいと思います。

また、手や指の使い過ぎが原因で発症している場合、生活習慣を見直す必要があります。仕事や家事などでしかたない部分もあるかと思いますが、改善できる部分がないか見直しましょう。

手根管症候群

画像: 手根管症候群

痛む場所

親指、人差し指、中指、薬指にしびれを感じます。このうち、中指と人差し指のしびれを訴える人が多いです。夜中や明け方に痛みやしびれが強くなることがあります。

どんな病気か

手根管とは、手首にあるトンネル状の腱鞘で、ここに1本の正中神経と、指につながる9本の腱が通っています。この腱鞘に炎症が起こり、神経を圧迫すると、しびれや痛みが生じます。

ちなみに、正中神経が通っているのは、親指、人差し指、中指、薬指の半分(中指側)です。この部分以外に症状が出る場合は、手根管症候群ではありません。

やはり、指を酷使する人や、更年期および、妊娠中、産後の女性などに多く見られます。

どんな対策を取ればいいか

ステロイドの注射が有効な場合が多く、約半数くらいは注射で完治します。超音波治療も有効です。

それでも状態が改善しない場合、手術を検討します。手術は、圧迫されている正中神経の圧迫を解放するもの。手術の時間は、30分程度。こちらも日帰りで行うことができます。

母指CM関節症

画像: 母指CM関節症

痛む場所

CM関節と呼ばれる親指のつけ根の関節が痛み、腫れます。その原因は軟骨の摩耗です。

どんな病気か

先述したとおり、へバーデン結節の場合は、1~2年程度で変形が止まるケースがほとんどです。

これに対して、母指CM関節症は、進行性の病気です。1~2年を過ぎても、進行は止まりません。だからこそ、指を変形させないような配慮が必要になります。

更年期を迎えた女性や、仕事や趣味で指をよく使う人で、親指の痛みや変形に自覚症状がある場合は、整形外科で診察を受けることをお勧めします。

どんな対策を取ればいいか

母指CM関節症の場合、装具を使い、それ以上の変化が進むことをできるだけ阻害します。また、テーピングを併用することもあります。

治療としては、ステロイド注射を打つと、しばらく痛みが消えることがあります。人によって、その効果に差があり、数ヵ月しか持たない人もいれば、半年ほど効果が持続する人もいます。

薬物療法でも緩和せず、強い痛みがある場合、手術を行うことになりますが、ほかの症状と異なり、数日の入院が必要です。さらに、1ヵ月程度は親指が使えなくなります。その間の日常生活は不便を感じるでしょう。

関節リウマチとの混同には注意が必要

これらの4つの症状については、痛む場所や症状が異なるので、問題なく判別できるかと思いますが、リウマチとの混同には注意が必要です。

関節リウマチは、自己免疫疾患の一つで、へバーデン結節とは全くの別物です。特に異なる点は、関節リウマチは全身性の病気であることです。

朝、指がこわばることは共通の現象ですが、関節リウマチの変形は、手指の第1関節に限らず、手首や足首などにも起こります。体の左右の同じ箇所に症状が起こりやすいことも特徴の一つです。

関節リウマチかもしれないと思った場合は、一度なるべく早く、医療機関で検査を受けることをお勧めします。

画像: この記事は『壮快』2022年1月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年1月号に掲載されています。

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