解説者のプロフィール

中尾健太郎(なかお・けんたろう)
新戸塚病院院長。昭和大学卒業。専門は消化器外科。漢方医学にも精通。病院では総合診療部として患者さんの全身管理を行い、NST(栄養サポートチーム)委員長として漢方医学を取り入れ、患者さんの栄養状態、フレイル・サルコペニアの改善に取り組んでいる。これらの一環としてポリファーマシー(上述)の改善や緩和医療にも取り組み、学会発表・論文発表も多数。
▼新戸塚病院(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
食後血糖値の上昇が緩やかになり最高値も低下
多くの薬の服用で、肝臓の機能障害やめまいといった有害事象が起こったり、薬の効果を打ち消し合ったりする悪影響をご存じですか。これは「ポリファーマシー」と呼ばれる現象です。
高齢になると、高血圧や糖尿病、腰痛など、多くの不調を併発しやすくなります。そして、多くの薬を飲むようになるので、ポリファーマシーが起こりやすくなるともいえます。
そのため、高齢化の進む日本では、ポリファーマシーが問題視されてきています。
だからといって、ただ薬をやめればいいと、短絡的に対応するわけにはいきません。薬の優先順位の見極めや、食事を含めた生活習慣の見直しなどによる、減薬が求められています。
私が注目しているのは「米ぬか」です。米ぬかには、多種類のビタミン、ミネラル、そして食物繊維がたくさん含まれています。
特にビタミンB1は、米や麺類など糖質中心の食事をしている人にとって、重要性が高い栄養素です。糖質をエネルギーに変換する際に、ビタミンB1が使われるからです。
そうしたなか、当院の入院患者さんにご協力いただき、米ぬかの検証を20119年の年末に行いました。対象は45~88歳の男性5名と女性1名で、脳血管疾患や術後廃用症候群(手術後の長期にわたる安静状態で、身体能力の大幅な低下や精神状態に悪影響をもたらす症状)などを患っていました。そのうち3名は、糖尿病を合併していました。
患者さんたちには、まず最初に14日間、普通食を取ってもらいます。その後の14日間は、1回の食事に米ぬかの粉末を5g加え、1日15g摂取してもらいました。すると、主に血糖値と排便回数に効果が現れました。
❶血糖値
糖尿病を合併していたAさんは、血糖値を下げる薬を服用しても、注射をしても、ヘモグロビンA1cは7~7.4%と、うまくコントロールできていませんでした(基準値は4.6~6.2%)。そんなAさんの血糖値が、米ぬかの粉末入りの食事で低く抑えられたのです。

ほかの糖尿病の患者さんでも、朝食後の血糖値の上昇が緩やかになり、最高値も低くなるといった変化が見られました。
❷排便回数
14日間の平均排便回数は、1人当たり5.8回から7.2回に増えました。また14日間の下剤の平均服用回数は、1人当たり1.3回から0.8回となり、下剤を服用せずに排便が促された患者さんもいました。
血中のビタミンB1が増え糖代謝が効率的に
このような結果から、以下のことが推察できます。
この検証では、普通食を14日食べたあとと、米ぬか粉末食を14日食べたあとで、血液検査を行いました。すると、すべての患者さんで血液中のビタミンB1量が、統計的に有意に増加していたのです。

冒頭で述べたように、ビタミンB1は糖をエネルギーに変えるときに使われ、ビタミンB1の増加により、糖の代謝が効率的に行われます。また、食物繊維は腸からの糖の吸収を抑制します。こうしたことが、血糖値の上昇抑制に一役買ったと考えられます。
米ぬかに豊富に含まれる食物繊維は、腸内の善玉菌を育てるエサ、すなわちプレバイオティクスにもなり、腸内細菌叢に重要な働きをします。こうした働きが、排便サポートの一助となったのでしょう。
このように、米ぬかは西洋薬にはない、血糖コントロールや排便コントロールが期待できます。さらに研究が進み、有効な活用法が確立されれば、将来、米ぬかはポリファーマシーの改善に役立てられるのではないか、と私は考えています。
また、日本人がふだん取っている食事だけでは、さまざまな栄養素が不足することが指摘されています。特に不足しやすいのは食物繊維やビタミン、ミネラルで、これらの欠乏は疲労や多種の病気につながります。
こうした観点からも、前述の栄養素を豊富に含み、栄養価が高い米ぬかはお勧めです。私もパスタや野菜炒めなどを作るときに、よく米ぬか粉末を加えています。血糖値の高い人や排便が困難な人はもちろん、病気を未然に防ぐために、ぜひ毎日の食事に取り入れてください。
[別記事:ほんのり甘くてコク深い! 栄養満点!食べる米ぬかの作り方→]

この記事は『壮快』2022年1月号に掲載されています。
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