解説者のプロフィール

南雲吉則(なぐも・よしのり)
医療法人社団ナグモ会理事長、ナグモクリニック総院長。医学博士。乳腺専門医。1955年生まれ。東京慈恵会医科大学卒業後、東京女子医科大学で形成外科を、癌研究会附属病院外科でがん治療を学び、東京慈恵会医科大学第一外科乳腺外来医長を経て開業。乳がん手術、乳房再建術を行うかたわら、「1日1食」「ゴボウ茶」など独自健康法を展開。がんから命を救う食事と生活の指導・講演にも力を注ぐ。
▼ナグモクリニック(公式サイト)
現代人に不足しがちな栄養素を補うことができる
皆さんは、ふだんの食事でどんな主食を取っていますか? 白米を食べている人、あるいは食パンや麺類など、白い(精白した)小麦粉が原料の食品が好きな人は、ぜひとも「米ぬか」を食生活に取り入れていただきたいと思います。
米ぬかは、「米の命」である胚芽と、それを守る種皮と果皮(ぬか層、下図参照)が原料です。「玄米-白米=米ぬか」ですから、その機能性成分は玄米と同じ。ビタミンCを除く、すべての栄養素が含まれています。

米ぬかを除いた白米ばかりを食べていると、健康にどんな影響が出るかは、歴史を見れば明らかです。
もともと日本人は玄米や雑穀米を主食としてきましたが、江戸時代の元禄年間から、精製した白米を食べるようになりました。
そのころから、参勤交代で江戸に滞在する武士は「江戸わずらい」に悩まされます。地方にいるときは雑穀を食べているので元気ですが、江戸に1、2年いると足腰が弱まって立てなくなり、最悪の場合は心不全で死んでしまうのです。同じく白米を主食とした明治時代の陸軍の兵士にも、同じような死亡者が多数出ました。
これは、ビタミンB1の不足による脚気が原因と見られています。ビタミンB1は炭水化物の代謝にかかわる重要な栄養素で、不足すると末梢神経の障害や心不全が発症します。米ぬかはビタミンB1が豊富ですが、白米にはほとんど含まれないため、脚気が流行したわけです。
米ぬかにはビタミンB1をはじめとするビタミンB群のほか、ビタミンE、リン、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄など多くのビタミンやミネラルが含まれています。これらはビタミンB1と同様に、私たちの健康に欠かせない必須栄養素です。
例えば、ビタミンEは老化や病気の元凶となる活性酸素の害を防ぐ抗酸化物質として働き、血管を若々しく保ちます。リンは骨や細胞膜、遺伝子を正常に保つのに必須の栄養素ですし、カルシウムも骨や歯を丈夫にするのに欠かせません。
マグネシウムは、体内で行われる350種類以上の酵素反応に補酵素として働きます。不足すると、こむら返りや肩こり、頭痛が起こりやすくなります。また、不整脈の一種である心房細動を招くこともあります。
米ぬかを1日50gとるだけで、これら必須栄養素の1日の必要量がほぼ補えるといわれています。米ぬかを食べることは、白米の欠点をカバーし、現代人に不足しがちなビタミンやミネラルを補うために、極めて有効な手段です。
腸内環境が改善して血液や血管が若返る
米ぬかに含まれる栄養素は、ビタミンやミネラルだけではありません。長期的にとることで、生活習慣病やがんの予防につながる栄養素を補給できるのです。
例えば、米ぬかに含まれるフェルラ酸という成分は抗酸化作用があり、大腸がんの予防効果が期待されています。
また、米ぬかには水溶性食物繊維と不溶性食物繊維が豊富に含まれています。両方の食物繊維を継続的にとることで、腸内環境が改善され、これも大腸がんの予防につながります。
さらに、米ぬかに含まれるフィチン酸という成分には、有害金属などを吸着して体外に排出する解毒作用や、抗酸化作用、抗がん作用があり、大腸がん、乳がん、肺がん、皮膚がんを減少させます。
血液や血管を若々しく健康に保つうえでも、米ぬかの栄養素は大いに役立ちます。
米ぬかに多く含まれるオリザノールには血中コレステロールを下げる作用があります。また、フィチン酸やビタミンEには、動脈硬化を改善して血管を若返らせる作用があります。血液がサラサラになり、動脈硬化の促進が抑えられることで、高血圧にもプラスの効果が期待できるでしょう。
こうして見ると、米ぬかは、まさにスーパーフードといえる食材です。継続的な摂取は、特に特定の栄養素不足による生活習慣病や骨粗鬆症、不定愁訴の改善、がんの予防などが期待できるでしょう。
米ぬかをおいしく食べるには、炒るだけなので簡単です。その作り方は、次項をご覧ください。併せてご紹介している「米ぬか茶」や「米ぬかおにぎり」ともども、ぜひご活用ください。
わが家では、炒った米ぬかを小麦粉やパン粉のかわりに肉や魚にまぶして、揚げ焼きにしています。いろいろな食べ方を工夫しながら、米ぬかを上手に毎日の食卓に活用していただきたいと思います。
ほんのり甘くてコク深い! 栄養満点!
食べる米ぬかの作り方

用意する物
・生の米ぬか
・フライパン
・ヘラ
・粗熱を取るための器
・密閉できる保存容器(保存袋)
※米ぬかは、自宅で精米するか、米穀店で購入する。できるだけ、農薬の心配のない物を入手する。
※スーパーなどで手に入れる場合は、精製された「食用」を選ぶこと。
※入手したら、傷まないうちにすぐに炒る。火を通すことで殺菌され、食用が可能になる。
作り方
一度に作る量は、100g程度がお勧め。量を変えたときは、①の炒り時間を調整する。

❶油をひかずに、フライパンに生の米ぬかを入れ、弱火で4~5分、焦がさないように混ぜながら炒る。

❷こうばしい香りがして、全体がきつね色を帯びてきたら火を止める。フライパンに放置すると、どんどん火が入るので、すぐに器に移す。

❸粗熱が取れたら、保存容器に移す。
保存について
・冷蔵で1週間程度は日もちする。
・冷凍で2ヵ月程度は保存が可能。
食べ方
・1日に大さじ2杯程度を目安にとる(大さじ1杯は約4g)。
・そのまま食べるとむせやすいので、ほかの料理にかけたり混ぜたりして食べるのがお勧め。

ご飯のふりかけに!

サラダに混ぜてゴマ風味に!

みそ汁に入れてコク増し!

ヨーグルトに入れてまろやかに!
さらに魅力を引き出す!食べる米ぬか活用法
米ぬかおにぎり

材料(4人分)
・食べる米ぬか…大さじ5杯
・シラス…25g
・サクラエビ(乾燥)…5g
・塩昆布…20g
・ご飯…400g
作り方
材料をすべて混ぜ合わせて、おにぎりを握る。
※食べる米ぬかを用意していない場合は、次の手順でも作れる。
❶生の米ぬか(大さじ5杯)を少し炒ってから、ご飯以外の材料を入れて、混ぜながら炒る。
❷4~5分炒ったら(米ぬか全体がきつね色を帯びてきたら)、ご飯を入れたボウルへ移す。
❸粗熱が取れたら、混ぜ合わせて握る。
米ぬか茶

材料(1人分)
・食べる米ぬか…大さじ1杯
・お湯…200~250ml
作り方
湯飲みに食べる米ぬかを入れて、お湯を注ぐ。よく混ぜながら、米ぬかごと飲む。
※上記の食べる米ぬかの作り方より、さらに米ぬかを深炒りすると、香りやコクが増す。

この記事は『壮快』2022年1月号に掲載されています。
www.makino-g.jp