玄米は白米と異なり胚芽や米ぬかの栄養も摂取できます。白米の甘酒も十分に栄養豊富ですが、玄米甘酒はさらに優秀で食物繊維も豊富です。良質なたんぱく質と脂質を含む豆乳で割ったり、ミネラルやビタミンの豊富な雑穀を加えると、より栄養バランスがよくなります。【解説】松嶋大(なないろのとびら診療所所長・総合診療医)

解説者のプロフィール

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松嶋大(まつしま・だい)

なないろのとびら診療所所長・総合診療医。岩手県盛岡市に生まれる。2000年、岩手医科大学医学部卒業。同年、自治医科大学地域医療学教室に入局。09年、自治医科大学大学院を卒業。全国各地の医療施設に勤務したのち、15年4月に診療所を開設。現在、岩手県盛岡市で「なないろのとびら診療所」を運営。内科・老年内科を標榜。総合診療をベースに認知症治療と在宅医療、終末期医療に集中する、自称「患者バカ町医者」。

高齢者の腸にもやさしい日本古来の発酵食

私は、岩手県盛岡市の診療所で総合診療医として、主に地域の患者さんの認知症治療と在宅医療に当たっています。

自分で「町医者」と名乗っていますが、その内実は医者の枠にとどまりません。カフェのプロデュース、シニア向け賃貸住宅の経営、農園や地域交流スペースの運営、サロンの開催など、幅広く活動しています。

そんな私が「食」の重要性を考えて、たどり着いた食べ物があります。それが、玄米こうじから作った「玄米甘酒」です(白米のこうじで作る玄米甘酒の作り方は下項参照)。

先述したさまざまな活動は、医者の仕事とかけ離れて見えるかもしれませんが、私にとってはすべて、医療の延長線上にあるものです。患者の誰々さんがこんなことで困っている。それなら、こんなサービスがあったら助かるんじゃないか。そうして必然的に着手した事業が展開した結果、今に至っています。

そうした発想から、私たちは昨年来、玄米甘酒を健康食として商品化するプロジェクトに取り組んでいます。

きっかけの一人は、70代の男性患者Aさん。長く続く便秘と突然の下痢をくり返していました。治療するも実を結ばす、西洋医学の限界を感じました。

そしてもう一人は、90代の男性患者Bさん。大腸が悪く、私が診たときにはかなり衰弱して血便も出ていました。食欲もなく、もって数日。しかし入院を拒まれたため、スタッフが、考えられる限りのおなかにやさしい食事を用意して日参しました。結果、数ヵ月がんばり、Bさんは天寿を全うしたのです。

これらの経験から「やっぱり腸は健康の要で、それには食が肝心なんだよな」と実感。消化機能の落ちた高齢者の弱った腸にもやさしく、効率よく栄養補給できる食べ物といったら、どんな物が最適か検討を重ねました。そして導かれた結論が、日本古来の発酵食である、こうじ甘酒です。

血糖値のピークが低く緩やかに下がるのが特長

市販のこうじ甘酒は、蒸した白米の周りにこうじ菌をつけて繁殖させたこうじで、白米のおかゆを糖化させて作った商品がほとんどです。しかし、米にしろ小麦にしろ、精製された穀物は栄養価が下がります。

せっかくなら玄米にこだわり玄米こうじを使い、白米を入れず、オール玄米で甘酒を作りたい。玄米こうじを探すのに苦労しましたが県内のこうじ屋さんから理解と協力が得られ、なんとか商品化にこぎつけました。

家庭で玄米甘酒を作るなら、玄米でおかゆを炊き、スーパーなどで売っている白米のこうじを使う形でも十分でしょう。

玄米甘酒には、主に三つのメリットがあります。

腸内環境の改善
栄養価の高さ
血糖値上昇の抑制

ご存じのとおり、発酵食品は腸にいい作用を及ぼします。こうじ菌がそのまま腸に入るわけではありませんが、発酵で生まれた乳酸菌やオリゴ糖などが腸内で善玉菌を増やし、腸内環境を改善します。

高齢になると食欲が落ち、意識しないと食事の質も低下しがちで活動量も減り、便秘を招きます。そうしたかたの便秘対策にも、玄米甘酒は有効です。

また、栄養価の高さは、折り紙つきです。玄米は白米と異なり胚芽や米ぬかの栄養も摂取できます。白米の甘酒も十分に栄養豊富ですが、玄米はさらに優秀で食物繊維も豊富です。

その玄米の食物繊維が及ぼす作用が、血糖値上昇の抑制です。白米から作られた市販の甘酒と、私たちの作った玄米甘酒を比較する実験を行いました。

生活習慣病のない40歳未満の元気な被験者6名を、無作為に2つの群に分けます。片方の群は玄米甘酒、もう片方には白米の甘酒を、1日に75g程度、それぞれ摂取してもらいました。

摂取前から120分後までの5回にわたり血糖値を測定し、群ごとに平均値を出して結果を比較しました。

すると、いずれも摂取30分後に血糖値のピークを迎えるのは同じですが、玄米甘酒群のほうが、最大値が低く抑えられました。血糖値が下がるのもゆっくりで、実際、白米甘酒群は、摂取後90分ごろから空腹感があったといいます。玄米甘酒群は、変動が小さいせいか、一貫して空腹感がなかったそうです。

このように魅力的な玄米甘酒と相性がよく、さらに栄養価を高める食材も検討しました。次項で紹介しましょう。

食事が偏りがちな高齢者のおき換え食に

画像: 松嶋先生の開発した甘酒「玄米甘糀」

松嶋先生の開発した甘酒「玄米甘糀」

前項では、玄米甘酒のメリットについてお話ししました。

私たちが開発した商品としての玄米甘酒は、玄米こうじを使います。玄米がゆに、玄米こうじを入れて発酵させた物です。

玄米こうじは入手が難しいので、家庭で作る場合は、玄米がゆに乾燥した白米こうじを入れるという作り方になるでしょう。厳密にいえば私たちの玄米甘酒と多少異なりますが、それでも、すべて白米で作った甘酒と比べ、ずっと栄養価が高いのは、いうまでもありません。

ですから、医者としては白米より玄米を勧めたいところですが、高齢のかたのなかには「玄米は苦手。食感がかたいし、おいしくない」というかたが、少なからずいらっしゃいます。

加えて、高齢になると好みが固定化したり、作るのがおっくうになったりで、食事の内容が偏りがちになります。実際に私の患者さんからも、「野菜はほとんど残す」とか、「菓子パンばかり食べてしまう」といった声を聞いています。

玄米甘酒を開発しようと考えたきっかけは、前項で述べたとおり、「高齢者の腸にいい食べ物を」という思いです。しかし患者さんの食生活の実態も知っていたので、「調理がめんどうなときは1食をおき換えても問題ないくらい、栄養バランスのよい物にしたい」というアイデアもわいてきました。

それには玄米甘酒に、どんな食材を組み合わせたらよいでしょうか。

少し話はそれますが、私は多くの患者さんの腸のトラブルに向き合うなかで、「ほんとうに健康な食事」について考察してきました。そして自分なりに学びを深め、実践した末、指針を打ち出しました。それは、「緩やかな糖質制限と菜食主義を柱に、できるだけ無農薬で安全な食材を、なるべく手を加えずに食べる」というものです。

玄米甘酒は、いくら栄養成分が豊富といっても、ほとんど糖質です。甘酒に足すべき栄養といえば、筆頭は、高齢者に不足しがちなたんぱく質、そして脂質。それも植物性が望ましい。

そう考えて候補に挙がったのが、豆乳でした。大豆を原料とした豆乳は、良質なたんぱく質と脂質を含みます。

豆乳を加えれば、糖質、脂質、たんぱく質と、五大栄養素のうち三つがとれます。あとは、ビタミンとミネラルです。

腸の不調が改善すればメンタル面にも好影響

私たちの拠点である岩手県はあまり知られていませんが、日本有数の雑穀王国です。地産地消といいますが、地元の食材でビタミンとミネラルが豊富な物を取り入れたいと考えました。

そこで白羽の矢を立てたのが、雑穀の一種であるアマランサス。マグネシウムや亜鉛、鉄、銅などのミネラルや、ビタミンB群やEを特に多く含む、スーパーフードといわれます。

玄米甘酒に、豆乳とアマランサスを加えれば、これだけで1食に足る、ほぼ「完全栄養食」が出来上がります。

早速、市販化に向けて動き出しましたが、なんと豆乳を入れた場合、販売許可のハードルが高くなることが判明。豆乳とアマランサスを加える計画は、やむなく頓挫しました。

そんなわけで、当面は玄米甘酒のみを取り扱っています。それでも、診療所に併設されたカフェや介護施設で玄米甘酒を出すときは、豆乳で割って提供したり、「雑穀を入れると、より栄養バランスがよくなるよ」とアドバイスしたり。玄米甘酒だけでは不足する栄養を補うヒントになれば、と勧めています。

高齢者の腸内環境改善のためのプロジェクトでしたが、玄米甘酒は、診療所や施設に勤める女性スタッフにも大人気です。

玄米甘酒による最もわかりやすい変化は、やはりお通じの改善ですが、スタッフが便秘かどうか、私は相談されないのでわかりません。けれども「先生、玄米甘酒の在庫を切らさないでね!」と、よくいわれるので、効果が出ているのでしょう。

患者さんの症例としては、20代の女性がいました。ひどい便秘で、2週間も排便がないのがあたりまえでしたが、玄米甘酒をとるよう勧めたら、毎日出るようになりました。生理痛も改善したそうです。

また、これは診療の経験上からわかることですが、長く続く便秘は、心理面に悪影響を及ぼします。腸の状態のよしあしがメンタルにも密接に関連することは、研究でわかっています。

腸の不調や、それに伴うと思われる症状に悩むかたは、ぜひ玄米甘酒を作って、試されてはいかがでしょうか。

玄米甘酒の作り方

画像1: 玄米甘酒の作り方

材料(出来上がり目安量=500g)
玄米…1合(75g)
こうじ(乾燥)…100g
水…500ml(400ml+100ml)

画像2: 玄米甘酒の作り方

玄米はさっと洗い、ひと晩浸水させる。水400mlとともに炊飯器の内釜に入れ、「おかゆモード」で(なければ普通に)炊飯する。
※鍋でおかゆを作ってもよい。
炊き上がったら水100mlを加え混ぜ、温度を下げる(60度が目安)。よくほぐしたこうじを加え、さらに混ぜる。
内釜の上にふきんをかけ、炊飯器のふたは開けたまま、保温モードで発酵させる。ムラなく仕上がるよう、約3時間ごとに混ぜ返す。8時間くらいおき、甘みが出ていたら出来上がり。

画像3: 玄米甘酒の作り方

とり方
そのまま食べる。ドリンクとして飲む場合、このままでは固形に近く飲みづらいので、水や好みの飲料で2~3倍に薄めるとよい。
料理には、砂糖のかわりに調味料として使える。発酵の力で旨みが加わるうえ、肉や魚の漬け込みに使うと、たんぱく質が分解されてやわらかくなる。

保存について
完成後は清潔なふたつきの容器やチャックつき袋に入れ、冷蔵庫で保存。2週間ほど日もちする。冷凍の場合は1ヵ月ほど保存可能。

画像: この記事は『壮快』2022年1月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年1月号に掲載されています。

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