解説者のプロフィール

前橋健二(まえはし・けんじ)
東京農業大学応用生物科学部醸造科学科教授。1998年、東京農業大学大学院農学研究科博士課程満期退学。99年に博士号(農芸化学)取得。同大学応用生物科学部醸造科学科助手、准教授を経て2016年より現職。発酵調味料や味覚研究における第一人者。所属学会は、日本食品科学工学会、日本農芸化学会ほか。近著に『砂糖の代わりに糀甘酒を使うという提案』(アスコム)がある。
▼専門分野と研究論文(CiNii)
甘酒は350種類以上もの栄養素を含む
私は醸造学が専門で、食品に対する微生物の影響や味覚への作用を研究しています。食材や食品、料理をおいしくすることが研究テーマで、米こうじで作る甘酒もその一つです。
甘酒は、そのまま食べてもおいしく健康に役立ちますが、先日テレビ番組で「あずき甘酒」を紹介しました。米こうじであずきを発酵させた、「発酵あんこ」とも呼ばれる、人気の食べ方です。砂糖不使用なのに甘くておいしい、ヘルシーな発酵スイーツとして好評でした。
一般的に甘酒は、ご飯と水、またはおかゆに、米こうじを加え発酵させて作ります。こうじ菌の成分が、米のでんぷんをブドウ糖やオリゴ糖に分解することで、甘みが生まれるのです。
でんぷんは糖質ですから、こうじと組み合わせる相手は米に限る必要はなく、糖質を多く含む食品をうまく発酵させれば、たいてい甘くなります。
そこで昨今注目されているのが、あずき甘酒です。ゆでたあずきを米こうじで発酵させることで、甘酒とあずきの持つ栄養を併せてとることができます。
まず甘酒についていえば、栄養価に優れ、多くの健康効果が見込めるすばらしい食品です。濃厚な甘みのもとは、主にブドウ糖。ほぼショ糖からなる砂糖と異なり、分子構造がより単純なので、体内で速やかにエネルギーに変換されます。疲労回復に即効性があります。
そして甘酒がすばらしいのは、ビタミン類や必須アミノ酸をはじめ、350種類以上もの栄養素を含む点です。ここが砂糖と決定的に異なる長所で、私は料理にも砂糖のかわりに甘酒を使うことを勧めています。
あずきと甘酒の組み合わせで健康効果がアップ
なかでも特筆すべきは、糖や脂質の代謝に欠かせないビタミンB群。やせやすい体をつくるので、肥満や糖尿病の撃退にも役立ちます。肌や髪を再生し、健やかに保つのにも有効です。
ビタミンB群の仲間である葉酸は、発酵の過程で14倍に増加します。葉酸が不足すると、貧血や動脈硬化を招くので、積極的にとりたいものです。ちなみに、甘酒の摂取は血圧の上昇を抑制するという報告もあります。
次に、あずきの栄養を見てみましょう。見逃せないのが、豊富なポリフェノール。植物の色や苦みのもとになる成分です。あずきのポリフェノール量は赤ワインに匹敵するほど多いとされます。強い抗酸化作用があるので全身の若返りに有効です。
含まれるカリウムなどの作用が、高血圧や糖尿病など生活習慣病の予防・改善に役立つこともわかっています。ただでさえ優れた甘酒の健康効果が、あずきと組み合わせることで、かなりパワーアップするでしょう。
あずきのおいしさを重視するなら、煮る際に一度ゆでこぼして渋抜きすることを勧めます。それでも、十分な量のポリフェノールが残るはずです。
もう一つ、圧倒的な量を誇るのが食物繊維です。実はあずきにはゴボウの4倍ほども食物繊維が含まれていて、これが腸の動きを活性化します。
甘酒も発酵食品ですから、腸の状態をよくします。といっても、腸にこうじ菌がそのまま届くわけではありません。含まれるオリゴ糖や食物繊維が、腸で善玉菌を増やすことにより、腸内環境が改善されるのです。
あずきと甘酒がタッグを組めば、整腸作用がぐんと高まります。便秘には特効です。腸には全身の免疫細胞の大半が集まっています。腸の状態がよくなれば免疫力も向上。丈夫で強い体づくりに、役立つことうけあいです。

あずき甘酒がすごい!
●代謝を促進➡やせる!美肌になる!
●抗酸化作用➡アンチエイジング!生活習慣病を撃退!
●整腸作用➡便秘解消!免疫アップ!
●エネルギーを産生➡疲労回復!
あずき甘酒の人気の秘密は、なんといっても、甘いあんこを砂糖なしでおいしくヘルシーに食べられる点でしょう。
冒頭のテレビ番組の調べによると、カロリー(エネルギー)は3割近く、糖質は4割近く少ないという結果が出ました。いっしょに発酵させることであずきが甘くなるだけでなく、たんぱく質がアミノ酸に分解され、旨みや風味も生まれます。
あずき甘酒は、そのままでもおいしくいただけますが、私のお勧めは、バタートーストに塗る食べ方。普通のあんこを塗った小倉トーストと異なり、山盛りにのせても甘さがしつこくなく、気に入っています。
多彩な栄養をバランスよく含み、さまざまな健康効果が期待できるあずき甘酒は、これだけで1食になるほど優秀な腸活食です。この冬は、おしるこのかわりに、あずき甘酒を楽しんではいかがでしょうか。
あずき甘酒(発酵あんこ)の作り方

材料(出来上がり目安量=500g)
・あずき(乾燥)…100g
・こうじ(乾燥)…100g
・水…500ml(400ml+100ml)

❶あずきは流水でさっと洗い、水400mlとともに炊飯器の内釜に入れ、「おかゆモード」で(なければ普通に)炊飯する。スイッチが切れたら再度「おかゆモード」で炊く。

※鍋であずきを煮てもよい。指でつまむと潰れる、少し煮崩れるくらいのやわらかさが目安。

❷炊き上がったら水100mlを加え混ぜ、温度を下げる(60度が目安)。よくほぐしたこうじを加え、さらに混ぜる。

❸内釜の上にふきんをかけ、炊飯器のふたは開けたまま、保温モードで発酵させる。ムラなく仕上がるよう、約3時間ごとに混ぜ返す。8時間くらいおき、甘みが出ていたら出来上がり。

保存について
完成後は清潔なふたつきの容器やチャックつき袋に入れ、冷蔵庫で保存。2週間ほど日もちする。冷凍の場合は1ヵ月ほど保存可能。

この記事は『壮快』2022年1月号に掲載されています。
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