解説者のプロフィール

佐野成一(さの・なりかず)
静岡静脈瘤クリニック院長。1977年、静岡県生まれ。2003年、聖マリアンナ医科大学医学部卒業。05年、東京慈恵会医科大学病院形成外科に入局。09年、岡山大学病院形成外科・リンパ浮腫治療班。13年、東京医科歯科大学血管外科にてリンパ浮腫専門外来開設に尽力。16年、静岡静脈瘤クリニックを開院。リンパ浮腫と静脈瘤の専門医として治療に当たる。東京医科歯科大学血管外科・非常勤講師。
▼静岡静脈瘤クリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
足のむくみで気づかない「隠れ静脈瘤」にも注意
「下肢静脈瘤」という病気をご存じですか。足から心臓へ血液が帰っていく静脈には、その逆流を防ぐ弁があります。この弁が、壊れたり、必要以上に開いてしまったりした結果、血液が逆流してしまう病気のことをいいます。
美容院や飲食店で働くかたや学校の先生など、立ち仕事の人、その反対にずっと座り続けている仕事の人によく見られます。
患者さんは、6~7割が女性で、30代後半くらいから増え始め、ピークは60代、70代になります。
血液が逆流した結果、足の表皮にボコボコと血管が浮き上がってきます。「これはなんだ?」と、あわてて病院にやってくる人が少なくありません。
また最近は、静脈の逆流が起こっているのに、血管が浮き上がっているのがむくみのせいでわかりにくい「隠れ静脈瘤」の人も増えています。
初期には、「靴下のあとが残る」「足が重い」「だるい」「こむら返りがよく起こる」「階段を上るのがつらい」「夕方、足がパンパンに腫れる」といった症状が見られます。次いで、「かゆみがある」「皮膚が茶色くなる」といった症状が出てきます。
下肢静脈瘤は、命にかかわる病気ではありませんが、不快な症状がずっと続きます。毎朝こむらがえりの激痛で目を覚ます、となると、命に別状はないといっても、患者さんにとってはたいへんな苦痛をもたらす病気に違いありません。
治療としては、弾性(着圧)ストッキングの着用、カテーテル(細い管の治療器具)や注射による治療などがありますが、やはり、なんといっても大事なのは、下肢静脈瘤をしっかりと予防することです。
最も効率的なふくらはぎの強化法
では、予防のためには何をすればよいでしょうか。私がお勧めしているのが、足裏を鍛えることです。
足裏の筋肉は、ふくらはぎの筋肉とつながっています。このため、足裏をしっかり使うと、連動しているふくらはぎの筋肉を鍛えることができます。
ふくらはぎは、足にたまった血液を心臓に戻すのに重要な働きをしています。ふくらはぎの筋肉が収縮をくり返すポンプ作用により、筋肉中の静脈血をしぼり出し、上へ上へと押し上げていくのです。
足裏を鍛えることで、ふくらはぎを強化し、足の血液を心臓へ送り返す力を高めることが重要なのです。
足裏を鍛える具体的な方法として、私は「つま先歩き」をお勧めしています。
つま先立ちをすると、自分の体重が重しとなって、足裏に負荷がかかります。その負荷がかかった状態で、筋肉が「縮んで伸びて」「縮んで伸びて」をくり返すことが、最も効率的なふくらはぎ強化につながります。
ですから、私は単純につま先歩きをするよりも、つま先歩きと普通の歩き方を交互に行う、「くり返し」つま先歩きをお勧めしています(やり方は下項参照)。
特に高齢者は、ずっとつま先立ちで歩こうとすると、足がつってしまう恐れがあります。つま先歩きと普通の歩き方をくり返す方法なら、より安全で、筋肉を鍛える効果も高いと考えられます。
つま先歩きは、日常動作のついでに行うといいでしょう。例えば、玄関に新聞を取りにいくついでとか、トイレに行くときに行うなど、パターンをいくつか決めておくのです。1回に歩く時間は1、2分でよいでしょう。それを1日に何回かくり返すのがお勧めです。
治療に使う弾性ストッキングはドラッグストアなどで購入できます。それをはいてつま先歩きをすると、さらに効果的です。足が軽くなり、むくみも取れます。
また、外反母趾の人は、つま先立ちをしようとしても、親指(母趾)が曲がっていて踏ん張りがきかず、かかとがあまり上がらないかもしれません。しかし、だからこそ、つま先歩きで足の筋肉を使ったほうがいいのです。外反母趾による血流不全やむくみの解消にも、つま先歩きが役立つはずです。
なお、高齢で足腰に不安のあるかたは、どこかにつかまりながら、つま先歩きをするようにしましょう。
下肢静脈瘤を防ぐ「くり返し」つま先歩き
◎1~2分間、下の①、②を交互に行う。1日に何回か行うとよい。

❶つま先立ちで2歩歩いて……

❷かかとを下ろし、普通に2歩歩く

この記事は『壮快』2022年1月号に掲載されています。
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