私のお勧めしているつま先歩きでは、最初に両腕を振りながら、かかとの上げ下げを行います。自然とつま先とひざが正面を向き、正しい位置に重心がおかれるようになるのです。いいバランスで歩けるようになれば、ひざ、腰への負担が減って、慢性腰痛や足首痛、足底筋膜炎、肩や首のコリも軽快させることにつながります。【解説】氣仙英郎(氣仙長生治療院院長)

解説者のプロフィール

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氣仙英郎(けせん・ひでお)

氣仙長生治療院院長。1984年、岩手日日新聞社入社。89年、産経新聞社入社。新聞記者として、仙台総局、経済部、外信部、ワシントン支局で活躍ののち、編集委員、論説委員を務める。長年自分自身が体の痛みに苦しんだ経験から、整体師を目指し、新聞社在籍中にあん摩マッサージ指圧師の資格を取得。2018年に退社後、氣仙長生治療院を開院し、現在に至る。

前後左右にズレた重心が正しい位置に

つま先歩き」は、私が多くの患者さんにお勧めし、成果を上げているセルフケアです。

つま先歩きというと、つま先立ちをして、床にかかとを着けずに歩く方法を想像するかたが多いでしょう。しかし私のお勧めしているつま先歩きは、そうではありません。 簡単にやり方を説明しましょう。

最初にかかとの上げ下げを行います(詳細は下項参照)。つま先で床をしっかりつかみながら、かかとを上げて歩く、ということを、その場歩きをしながら体に覚えさせます。

次に、かかとを上げることを強く意識しながら歩き出します。歩き方は、ごく普通で結構です。かかとから着地し、つま先にグッと力を入れ、5本の指でしっかり床をつかみ、けります。

セルフケアとして、このつま先歩きを行っていただくと、患者さんの腰痛やひざ痛、脊柱管狭窄症の痛みなどが改善することが多くあります。

なぜこの歩き方が、多くの効果をもたらすのでしょう。
つま先歩きには、大きく三つの効能があります。

重心の位置を正して姿勢を矯正する

人が立ったときの重心の位置は、ちょうどかかとの少し前(土踏まずの後ろより)の辺りにあるのが理想です。ところが、ひざ痛や腰痛に悩む患者さんの多くは、重心を正しい位置におくことができません。

О脚の人は、足の外側に重心がくる「外重心」になっています。それにより、ふくらはぎの外側の筋肉(腓骨筋)と、内側の筋肉(後脛骨筋)とで、両者の筋肉の使い方がアンバランスになるのです。

そして、歩く際は、足が外側に開いた状態で踏み出します。常に足の外側に重みがかかるため、ひざがねじれてしまいます。そのひざを支える筋肉も、内と外でアンバランスにしか働かないため、ひざの負担になり、痛みが出るのです。

逆に、Ⅹ脚の人は、足の内側に重心がおかれ、こちらもアンバランスな筋肉の使い方をしています。歩くときは、О脚の人とは反対に、内股の状態で踏み出します。これも、О脚の人と同じ理屈で、ひざの負担となります。

また、ネコ背で、反り腰になっている人は、本来あるべき位置よりも後ろに重心がきています。こういった姿勢も、腰へのよけいな負担となり、腰痛の原因になります。

このような、内と外、前と後ろの重心のズレが、つま先歩きをすることで自然に矯正されるのです。カギになるのは、歩く前に行うかかとの上げ下げです。

かかとの上げ下げは、足が極端に外股(О脚)や内股(X脚)の状態ではできません。自然とつま先とひざが正面を向きます。

また、両手を振ることで上半身が起き上がり、姿勢がよくなります。これらにより、自然と正しい位置に重心がおかれるようになるのです。歩き出すときも、足をまっすぐ踏み出せるようになります。

ズレていた重心が正しい位置に戻り、いいバランスで歩けるようになれば当然、ひざ、腰への負担が減って、ひざ痛、腰痛を軽快させることにつながります。

姿勢の悪さが原因になっているような慢性腰痛のたぐいも、改善が見込まれます。そのほか、足首痛や、足底筋膜炎などの改善にも役立つでしょう。

肩や首のコリもよくなります。姿勢がよくなり、ネコ背やストレートネックなどが改善することで、コリの改善も促されるのです。

足腰の筋肉が強くなり痛みやしびれが楽に

足指の強化(全身の筋力強化)

歩行で足を着地させたとき、加齢や運動不足などさまざまな要因から、足の指を開いて地面をつかむことができない人が増えています。また、О脚やⅩ脚の人は、足の小指(第5趾)や親指(母趾)に偏って着地していることがよくあります。

つま先歩きをすると、バランスを取るため足の指1本1本に力が入り、偏らずに着地できるようになります。

これをくり返していくことで、足の指がしっかり開き、地面をつかめるようになるのです。さらに、足指の力がついて、それが足腰の筋肉の効率的な強化へもつながっていきます。

画像: 足指に力がつく!

足指に力がつく!

こうして、足腰の筋肉がしっかりすることは、脊柱管狭窄症や座骨神経痛などの疾患にもよい影響を及ぼします。

例えば、脊柱管狭窄症になると、痛みやしびれから歩く機会が減り、筋力がどんどん落ちて、体を支える力が低下していきます。それが症状のさらなる悪化を招きます。

脊柱管狭窄症の症状は、脊柱管の狭窄した部分の神経が圧迫されることで起こります。体を支える力が弱れば弱るほど、神経の圧迫も起こりやすくなると考えられます。

つま先歩きで姿勢がよくなり、体を筋肉でしっかり支えられるようになれば、狭窄部分の神経圧迫が緩み、痛みやしびれが楽になっていく可能性があります。こうした意味合いから、つま先歩きによって、脊柱管狭窄症や座骨神経痛、椎間板ヘルニアなどの改善も期待できるのです。

ふくらはぎの筋肉がしっかりつけば、全身の血液循環を促すポンプ機能が高まり、血行が改善。冷えやむくみなどの予防・改善効果も得られるでしょう。

転倒予防

つま先歩きは、かかとをしっかり上げてから踏み出します。すると自然に、つま先が上がった形でかかとから着地します。つま先が上を向いていますから、地面の小さな突起などに足がひっかかることもなく、転びにくくなります。

体に痛みがある場合は歩幅を狭くしよう

このように、つま先歩きには体の痛みやしびれに対し、たくさんの効果が期待できます。やり方も簡単なので、ぜひ多くのかたに取り入れてほしいと思います。

体に痛みのあるかたは、特に歩幅を狭く歩くことをお勧めします。健康なかたなら、歩幅を広くとって歩くことが筋力強化に役立ちますが、腰痛などがひどいかたは、無理して歩幅を広くとると、かえって症状を悪化させる恐れがあります

つま先歩きは、コロナ禍で運動不足になり、足腰が弱っているかたにもお勧めです。かかとを上げることを強く意識しながら、トライしてください。

氣仙先生の「つま先歩き」のやり方

かかとの上げ下げをする
足を肩幅に開き、リラックスして立つ。両足のつま先を床に着けたまま、かかとを左右交互に上げる。両腕を振りながら、2~3分、その場歩きする。

画像1: 【腰痛のセルフケア】体の重心を正す「つま先歩き」で関節への負担が軽減  歩幅を小さくするのがコツ
画像2: 【腰痛のセルフケア】体の重心を正す「つま先歩き」で関節への負担が軽減  歩幅を小さくするのがコツ

つま先で地面をけり歩く
かかとを上げることを意識して普通に歩く。かかとで着地し、つま先の五趾で床をける。

画像3: 【腰痛のセルフケア】体の重心を正す「つま先歩き」で関節への負担が軽減  歩幅を小さくするのがコツ

 
ポイント
①肩を左右に揺らさない
②かかとの少し前に重心をおく
③「かかとを上げる」と唱えながら歩く 
④遠くを見ながら歩く
⑤歩幅を狭くする

画像: この記事は『壮快』2022年1月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年1月号に掲載されています。

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