解説者のプロフィール

坂田英明(さかた・ひであき)
川越耳科学クリニック院長。埼玉医科大学卒業後、帝京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科助手を務める。ドイツ・マグデブルグ大学耳鼻咽喉科研究員、目白大学保健医療学部言語聴覚学科教授を経て、2015年、川越耳科学クリニックを開院。『フワフワするめまいは食事でよくなる』(マキノ出版)など、著書多数。YouTubeチャンネル「めまいにさよなら」で情報発信中。
▼川越耳科学クリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
内耳の血流を改善してメニエール病の予防にも
私のクリニックは、耳鳴り、めまい、難聴の治療を専門としています。患者さんの病気や症状に応じて、いろいろな治療を行っていますが、どんなタイプであれ、皆さんにお勧めしているのが、運動や食事などによるセルフケアです。
運動に関していえば、特に、ふくらはぎの刺激につながるケアを推奨しています。
耳鳴り、めまい、難聴の原因はさまざまですが、その多くに共通するのは、耳の奥にある「内耳」のトラブルです。
内耳とは、音の聴こえ(聴覚)や平衡器官をつかさどる器官のこと。10円玉より小さいながらも、とても複雑で繊細なつくりをしています。そのため、気圧の変化、ウイルスや細菌による炎症、ストレスによる負荷など、ほんのわずかなことでも影響を受けやすいのです。
そうした外的影響を受けると、内耳の血流が悪くなり、むくみにつながります。その内耳のむくみが、耳鳴り、めまい、難聴などを引き起こすのです。むくみが悪化すれば、メニエール病の発症にもつながります。
つまり、それらの症状を予防・改善するには、内耳の血流をよくすればいいわけです。
しかし、それは簡単なことではありません。内耳の血管は、クモの巣のようにとても微細なうえ、血液を送り出す心臓から最も遠い場所にあるからです。
そこでお勧めしたいのが、「つま先立ち」や「つま先歩き」のような、ふくらはぎを刺激する運動です。ふくらはぎは、「第2の心臓」と呼ばれ、下半身にたまった血液を心臓に戻すポンプの役割を持ちます。
そもそも、つま先立ちの動作は、ふくらはぎの筋肉(腓腹筋)と、太ももの裏側にある筋肉(ハムストリングス)を刺激するため、ふくらはぎのポンプ機能を促す働きがあります。
下半身の血液をしっかりと心臓に戻すことができれば、心臓から送り出される血液量も増加。つまり、全身の血液循環が改善して、内耳の血流までよくなります。
低血圧の人、冷え症の人、足がむくみやすい人は、心臓のポンプ力が弱まっていたり、下半身に血液が停滞していたりする可能性が高いと考えられます。特にそういったかたには、ふくらはぎを刺激する運動をぜひ行って頂きたいのです。
「つま先立ち」のやり方は簡単です。両足を20cmくらいに開いて、リラックスして立ちましょう。その状態で、20回つま先立ちをしてください。1度に2セット、これを朝晩の1日2回行えば十分です。
できれば、入浴後に行いましょう。体が温まった状態で行えば、より高い血行促進効果が期待できます。バランスに自信がない人は、壁や机などを支えにしましょう。
つま先立ちに十分に慣れ、しっかりバランスが取れるようになったかたは、つま先立ちのまま少し歩く、「つま先歩き」をするとよいでしょう。
つま先歩きの場合、移動するときに短い距離だけつま先で歩く、といったように、なにかのついでに行うことができ、毎日気軽に続けやすいのがメリットです。
ただし転倒にはくれぐれも注意が必要です。めまいがあるかたや、バランスの維持に自信のないかたは、特に注意して行ってください。
運動不足やストレスによる耳鳴り・めまいにお勧め
最近は、コロナ禍で外出する回数が減り、運動不足になっている人が多いと思われます。運動不足は、血流の低下につながるので、前述したとおり耳にはもちろん、体にとっていいことは一つもありません。
医療現場でも、このコロナ禍の運動不足とストレスによって、耳鳴り、めまい、難聴を訴える患者さんが増加していると感じています。
耳鳴り、めまい、難聴は、命の危険はほとんどありませんが、一度発症すれば、生活の質(QOL)は確実に下がります。発症を防ぐためにも、つま先立ちや、つま先歩きを習慣にして全身の血行を促しましょう。
ちなみに、私のクリニックでは、10月から新型コロナ後遺症外来を開設しました。新型コロナウイルスの後遺症として、またワクチンの副反応として、耳鳴り、めまいが挙げられています。
こうしたタイプの耳鳴りやめまいの改善にも、つま先立ちやつま先歩きが役立つはずです。
ついででOK!すぐできる
つま先歩きのやり方
慣れるまでは、気がついたときに数歩つま先歩きするだけでOK。壁やイスにつかまりながら行ってもよい。慣れてきたら、1分を目安に歩きましょう。
注意点
・はだしで行うと足裏感覚がつかみやすい
・自宅の廊下など、安全なところで行う
・ひざや股関節などに強い痛みがある場合は行わない

❶足を肩幅に開き、背すじをまっすぐにして立つ

❷ゆっくりかかとを上げ、つま先で立つ

❸そのまままっすぐ歩く

この記事は『壮快』2022年1月号に掲載されています。
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