つま先歩きは、太ももやふくらはぎが鍛えられ、全身の血流が改善されます。それは高血圧、糖尿病などの生活習慣病や動脈硬化の予防・改善につながります。また、ゴースト化した毛細血管の再生を促すため、シミ、シワを防ぐ効果も期待できます。【解説】伊賀瀬道也(愛媛大学医学部附属病院抗加齢予防医療センター長)

解説者のプロフィール

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伊賀瀬道也(いがせ・みちや)

愛媛大学医学部附属病院抗加齢予防医療センター長。愛媛大学大学院抗加齢医学(新田ゼラチン)講座教授。1991年、愛媛大学医学部、99年、同大学院卒業。同大学にて、抗加齢(アンチエイジング)医学研究を行う抗加齢センターの立ち上げに尽力。脳卒中、認知症、フレイル・サルコペニアなどの予防について、臨床研究を行う。最新刊に『1分ゆるジャンプ・ダイエット』(冬樹舎)がある。

太ももの筋肉が少ないと認知機能も低下する

私が勤めている愛媛大学医学部附属病院では、2006年に国立大学で初となる「抗加齢センター(現・抗加齢予防医療センター)」を立ち上げ、健康長寿のための研究や治療に取り組んできました。

人生100年時代といわれ、寿命はどんどん延びています。その長い人生を、寝たきりや認知症にならず、健康で自立した状態で過ごすためには、下半身の筋肉強化が重要であることが、私たちの研究で明らかになってきました。

下半身強化のため、私は皆さんに、「片足立ち」や「かかと上げ下げ」「ゆるジャンプ(その場でジャンプをくり返す運動)」といった方法をお勧めしてきました。

今回お話しする「つま先歩き」ですが、実はつま先歩きは、それら私が勧めている三つの運動の要素を併せ持った運動であり、さまざまな健康効果が期待できます。

まず挙げられるのは、動脈硬化の予防です。

過去に私たちは、太もものいちばん太いところをCT(コンピュータ断層撮影)で測定し、病気や寿命との関連を調べました。

すると、太ももの筋肉量が少なくなるほど、動脈硬化が進行しやすく、骨も衰え、認知機能も低下する傾向が見られることがわかってきました。動脈硬化の予防のためには、下半身、なかでも太ももの強化が欠かせないのです。

つま先歩きは、まさにこの太ももの強化に役立ちます。つま先立ちで歩くと、体が不安定になり、バランスを取る必要があるため、自然に体幹の強化が図られ、太ももも鍛えられます。バランス感覚が養われ、転びにくくなる効果も得られます。

また、つま先歩きは、かかとを上げて歩きますが、それによりふくらはぎが鍛えられ、血流の改善効果が期待できます。

ここでふれておきたいのが、ふくらはぎのポンプ作用です。心臓から送り出された血液は、足先から重力に逆らって心臓まで戻らなければなりません。重力に逆らうため、その流れは悪くなりがちです。

この戻りにくい血液を戻す助けになるのが、ふくらはぎのポンプ作用です。

ふくらはぎが収縮すると、筋肉が内部の血液を圧迫して上へしぼり出します。これがポンプ作用です。この働きにより、下半身のうっ滞しがちな血液は心臓へスムーズに返っていくことができるのです。このため、ふくらはぎは「第2の心臓」ともいわれています。

ふくらはぎのポンプ作用で、全身の血流がよくなれば、高血圧などの生活習慣病や動脈硬化の予防・改善につながります。

機序を説明しましょう。まず血流が改善すると、血管のいちばん内側の内膜を形成する内皮細胞から、NO(一酸化窒素)という物質が産生されます。NOには血管拡張作用があり、血管をやわらかい状態に保ちます。

つまり、つま先歩きでNOがたくさん産生されると、血管拡張作用により、血管が広がって血圧が下がります。血管が若々しく保たれて、動脈硬化の予防にもなるのです。

動脈硬化を遅らせられれば、糖尿病や心筋梗塞、脳卒中といった脳や血管の重大な病気の予防にも結びつくでしょう。

ゴースト化した毛細血管の再生を促進

さらに、血流がよくなることは、毛細血管にもよい影響を及ぼします。

毛細血管は、体の全血管のうち99%を占めています。この毛細血管が、老化や病気によって劣化すると「ゴースト化」し、消えてしまうことがわかっています。このゴースト化が、シミ、シワなど肌の老化や、糖尿病をはじめ生活習慣病の発症と悪化を呼び起こすのです。

つま先歩きによって、ふくらはぎのポンプ作用を高め、血流を改善することは、ゴースト化した毛細血管の再生を促してくれるでしょう。

骨粗鬆症の予防効果も期待できます。つま先歩きをすれば、つま先により、重力に逆らって体を直立させている抗重力筋を効率的に使うことになります。重力の負荷に耐えることで、骨を強くする効果が期待できます。

ただ、つま先歩きは、長時間続けることが難しい運動です。このため、歯磨きをしながら、家事をしながらなど、「ながら」運動で取り入れるのがお勧めです。機会を見つけてこまめに行なうとよいでしょう。

私自身も、家の中の移動などで、つま先歩きをするよう心がけています。時間としては、1回1分程度。慣れるまでは無理せず、徐々に時間や頻度を増やしていきましょう。

高齢者の場合、どこかにつかまりながら行うなど、くれぐれも転倒予防に配慮して行ってください

画像1: 【つま先歩きの健康効果】全身の血流を改善し生活習慣病を防ぐ  骨と体が強くなり転倒の防止にも役立つ

つま先歩きによる効果
高血圧、糖尿病など生活習慣病の予防・改善
動脈硬化の予防・改善
骨粗鬆症の予防
体幹の強化
転倒の予防

ついででOK!すぐできる
つま先歩きのやり方

慣れるまでは、気がついたときに数歩つま先歩きするだけでOK。壁やイスにつかまりながら行ってもよい。慣れてきたら、1分を目安に歩きましょう。

注意点
はだしで行うと足裏感覚がつかみやすい
自宅の廊下など、安全なところで行う
ひざや股関節などに強い痛みがある場合は行わない

画像2: 【つま先歩きの健康効果】全身の血流を改善し生活習慣病を防ぐ  骨と体が強くなり転倒の防止にも役立つ

 
足を肩幅に開き、背すじをまっすぐにして立つ

画像3: 【つま先歩きの健康効果】全身の血流を改善し生活習慣病を防ぐ  骨と体が強くなり転倒の防止にも役立つ

 
ゆっくりかかとを上げ、つま先で立つ

画像4: 【つま先歩きの健康効果】全身の血流を改善し生活習慣病を防ぐ  骨と体が強くなり転倒の防止にも役立つ

 
そのまままっすぐ歩く

画像: この記事は『壮快』2022年1月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2022年1月号に掲載されています。

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