解説者のプロフィール

戸田佳孝(とだ・よしたか)
戸田整形外科リウマチ科クリニック院長。1986年関西医科大学卒業。1991年英国王立整形外科病院へ留学、1992年関西医科大学整形外科大学院修了、医学博士を取得。1998年、大阪府吹田市に貴晶会戸田クリニックを開院。2020年、日本臨床整形外科学会学術奨励賞受賞。『腰痛は「ヤンキー座り」で治る』(マキノ出版)など著書多数。最新刊は『ひざの名医が食べているひざの痛みがやわらぐレンチンレシピ』(PHP研究所)。
▼戸田整形外科リウマチ科クリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
ひざの再生治療で使われる成分を含む
患者さんから「ひざ痛に効く食べ物はありませんか?」と聞かれたとき、「アボカドを毎日食べてください」とお答えすると、たいてい驚かれます。
ひざ痛で最も多いのは、関節のクッションである軟骨がすり減って痛みが生じる「変形性ひざ関節症」ですが、アボカドにはそんな摩耗した軟骨を修復する成分が含まれているのです。
近年、フランスを中心に「アボカドから抽出した成分が、ひざや股関節の痛みに効く」という医学論文が相次いで発表されています。
フランスの著名な整形外科医、リキーネ博士は、アボカドと大豆の抽出物を2年間摂取した変形性股関節症の患者さんは、そうでない人と比べ、股関節の軟骨のすり減りが少なかったと報告しています。
私も、変形性ひざ関節症の患者さんでアボカドを食べ続けた人と食べない人のレントゲン写真を比較し、軟骨のすり減り方を調べました。すると、週1回以上アボカドを食べた16人の1年平均の軟骨のすり減り方は0.21mmでした。一方、週に1度もアボカドを食べない43人の平均は0.36mmでした。
アボカドを食べた人の方が、軟骨がすり減る速度が明らかに遅かったのです。
アボカドには不鹸化物(油脂にアルカリを加えたときに分解されずに残る物質)と呼ばれる成分が豊富です。その中に含まれる「TGF‒β」が軟骨修復の鍵を握っています。
TGF‒βを簡単に言うと、「かさぶた」を作る物質のことです。肌をすりむくと、かさぶたができて出血や感染を防ぎ、組織の修復が促されます。これを「線維化」といいます。
TGF‒βは、この線維化を促進し、軟骨の欠けた箇所を覆って、修復する働きがあるのです。
近年、変形性ひざ関節症の治療では「多血小板血漿(PRP)療法」という、患者さん自身の血液中の成分を利用する再生療法が成果を上げています。実は、PRP療法の主成分はTGF‒β。つまり、アボカドの成分と同じなのです。
PRP療法は健康保険の適用がなく、治療費が高額ですが、アボカドならスーパーで1個100円台で買えます。まずは、アボカドから試してみる価値があると思いませんか?
なお、アボカドの成分は分子量が小さく、胃腸で分解、消化、再編成されることなく、そのままの形で関節に届きます。だからこそTGF‒βが働き、軟骨を修復するのだと考えられます。
さらに、米国カリフォルニア大学の研究で、アボカドの成分に「COX‒2阻害作用」が認められたと報告されています。
COXは、体の組織が傷ついたときに出て、発熱や痛みを引き起こす物質(プロスタグランジン)を作ります。そこで昔から、COXの働きを阻害する鎮痛薬が用いられてきました。
ただし、COXには2種類あり、COX‒1を阻害すると、胃が荒れるなどの副作用が生じます。近年、COX‒2だけを阻害し、副作用を抑えた鎮痛薬が登場しています。
こうした最新の鎮痛薬と同じ作用がアボカド成分にあり、「即効的に痛みを和らげる」効果も期待できるわけです。
ひざや股関節などの変形性関節症に悩む人にとって、アボカドはいいことずくめの食品といえるでしょう。そればかりか、栄養上の利点も多いため、生活習慣病の予防や美容にも役立つと思います。
血糖値の急上昇から肌や脳の老化まで防ぐ

アボカドには高血圧やむくみを解消する作用もある。
ただし、アボカドはそこそこカロリーも高いので、摂取の目安は1日半個にしましょう。
個人差はありますが、アボカドを1日半個食べ続けると、2週間ほどでひざの痛みが和らいできたという方は多くいます。
また、アボカドは「森のバター」といわれるほど、野菜や果物の中では脂質の多い食品です。アボカドに含まれる脂質は、ほとんどが「不飽和脂肪酸」で、中でもオレイン酸が多く含まれています。
オレイン酸には、善玉コレステロールを増やし、さらには悪玉コレステロールを減らしてくれる働きがあります。
アボカドは、腸内環境を整え、便秘を解消するためには欠かせない「食物繊維」も豊富に含んでいます。これには、血糖値の急激な上昇を防いだり、コレステロールの吸収を妨げたりする働きもあります。
老化防止に欠かせないビタミン類も多く含まれています。肌にハリをもたらすコラーゲン生成に必要なビタミンC、体の酸化を防ぐビタミンE、脳が正常に機能するために重要な葉酸、食べた物をエネルギーへ変換することを促すパントテン酸などです。
その他にも、アボカドはカリウムも豊富で、果物の中でもトップの多さです。カリウムは、余計な塩分(ナトリウム)の排出を促し、高血圧やむくみを解消する作用を持ちます。
このように、アボカドは健康や美容のためにとりたい栄養素が詰まった食品なのです。
アボカドは食事の最初に食べるのがお勧め
さて、アボカドを習慣的にとり続けるために大切なコツは、おいしく食べる工夫です。簡単にそれをお話しします。
まずは、選び方についてです。スーパーでアボカドを選ぶ際には、最初に手に持って、ハリと弾力をチェックします。硬過ぎず、軟らか過ぎないものを見つけたら、次はヘタの部分に注目してください。ヘタと皮との間に1mmほどの隙間ができていて、少しだけヘタが浮いている状態が食べ頃です。

ヘタが少し浮いているものが食べ頃。
皮が緑色でツヤがあり、触ると硬くてゴツゴツしているものは、未熟で食べ頃ではありません。この場合は室温20~25℃で1~2日置けば、黒く熟します。もし、切ってから熟していないとわかった場合は、食品用ラップで包み、電子レンジ(600W)で約1分加熱すれば柔らかくなります。

電子レンジ(600W)で約1分加熱。
食べるタイミングにもコツがあります。アボカドの成分は、空腹時に吸収がされやすいので、食事の最初に食べるのがお勧めです。
また、アボカドは大豆食品と一緒に食べると効果が高まります。大豆食品にも、アボカドと同じ不鹸化物が豊富に含まれているからです。納豆とアボカドを混ぜるのもお勧めです。
私もよく、アボカド入り納豆を食べています。ぜひ、いろいろな食べ方を試してみましょう。
[別記事:関節を守る成分が豊富な「アボカド+大豆」のレシピ6品→]
軽い運動を併せて行うとより効果的
私は、クリニックの患者さんにアボカドをお勧めする他、テレビ番組や著書でもアボカドの効能についてお話ししてきました。
実際にアボカドを毎日、続けて食べた方から、体験談が寄せられています。ここで、そのいくつかをご紹介しましょう。
まずは、70代の女性Aさんです。彼女は5年前からひざに痛みを感じ始めました。最初は階段を下りるときに少し痛む程度だったのが、しばらくすると平坦な道を歩いていても、痛むようになりました。
最寄りの整形外科で、ヒアルロン酸の注射を打ちつつ、リハビリにも取り組んだものの、痛みが改善することはなかったとのことでした。
そんなときに、アボカドがひざにいいと知り、1日半個を食べるようにしました。アボカドを細かく切って、納豆に入れて混ぜたものを、豆腐にかけて食べるのが特にお気に入りだといいます。
同時に、足踏みしながら太ももを水平まで持ち上げる「もも上げ運動」を日課として行うようにされました。
こうして2週間たつと、階段の上り下りで痛みがあまり気にならなくなってきたとのことです。ひざに残っていた違和感は半年で消えて、その後は全く痛みが出なくなり、ウォーキングも難なくこなせるようになったとお喜びでした。「ひざの痛みに困っていたのがうそのよう」とご本人も驚いています。
他の患者さんからも、Aさんと同様に2週間目くらいから痛みが和らぎ、半年ほどでほとんど忘れる程度まで改善したという声が聞かれます。
前項でご説明したTGF‒βの作用で、軟骨の欠けた部分が修復されるまでには、半年ほどかかると考えられます。一方、アボカドには即効的に痛みを和らげる作用(COX‒2阻害作用)もありますから、食べ始めて2週間ほどで徐々に効果が現れてくるのでしょう。
80代の女性Bさんは、先天性の変形性股関節症で、10年ほど前に両足とも人工股関節の手術を受けました。
70代と高齢で迎えた手術だったため、長い入院生活を送り、リハビリも大変でした。退院後も思うように歩けず、つえが手放せなかったといいます。
慣れない歩行で全身に力が入ってしまうことで、次第にひざが痛むようになったといいます。痛みは日増しに悪化して、近所に買い物に行くのも苦痛になりました。
そんなとき、私の出演したテレビ番組を見て、ひざ痛の解消に役立てばと、1日半個のアボカドを食べることを始めました。切ったアボカドに直接塩を振って食べたり、みそ汁に入れたり、野菜炒めに入れたりと、飽きないように工夫して食べ続けたとのことです。それと同時に、もも上げ運動やストレッチなどの軽い運動にも取り組みました。
すると、3週間程度でひざの痛みは消えてスムーズに歩けるようになり、本人も驚いたとのことでした。現在は、人工関節の違和感もほとんどなくなっておられます。アボカドを食べる前は、つえがないと歩けなかったのが、今は持っていくことも忘れるほど元気です。毎日、外出を楽しんでいるようです。
これらの体験談のように、アボカドを毎日食べるとともに、軽い運動をすると、ひざ痛の解消により効果的です。
ウォーキング、自転車こぎなどの運動を、無理のない範囲でとり入れてみてください。

この記事は『安心』2021年12月号に掲載されています。
www.makino-g.jp