解説者のプロフィール

山田真(やまだ・まこと)
まほろば鍼灸整骨院院長。1972年、神奈川県出身。「自らの力で人の健康に貢献したい」という思いから、柔道整復師の道へ。明治東洋医学院専門学校柔整学科、森ノ宮医療学園専門学校鍼灸学科を卒業後、7年間の修行を経て、2009年に現在の整骨院を開院。足指を正しく使えるようにする治療やセルフケアの指導を行う。施術回数は16万回を超え、評判を聞いた患者が遠方から訪れることも。著書に『「足指の力」体の不調がスッと消える3分つま先立ち体操』(コスモ21)がある。
▼まほろば鍼灸整骨院(公式サイト)
腰痛や頭痛、肩こりの原因は浮き指にあり
慢性的な体のこりや痛み、疲労感、冷えなどでお悩みの人は多いでしょう。もしかしたら、その症状の原因は「足指」にあるかもしれません。
事実、足指を強化する「つま先立ち」を、治療と並行して続けた私の患者さんは、その多くが症状を軽減させています。
そもそも、私が足指と体の症状の関係に気づいたのは8~9年ほど前。私自身の体験がきっかけでした。
私は昔から、なぜか体の左側に不調が集中していました。歩行時の足の痛みや冷え、座骨神経痛、首・肩のこりなどが、全て左側に起こっていたのです。
そんなある日、何気なく片足立ちをしたところ、左足のときだけふらつくことに気がつきました。足をよく見ると、指先が丸まって反り上がっています。
地面に指先がついていないからふらつくのだと思った私は、つま先立ちで指先を鍛えてみました。すると、1~2週間で歩行時の横ブレが減ったのです。
さらに、その1ヵ月後には足指がまっすぐに伸びて広げられるようになりました。同時に、数年間悩まされていた左半身の不調も軽減。半年後には、痛みもこりも消えていたのです。
「これはすごい!」と思った私は、自分の患者さんの足指も確認してみました。すると、多くの患者さんの足に、浮き指や外反母趾、たこやうおのめなどの異常があるとわかりました。
特に目立ったのは、足指が丸まったり反ったりして地面から浮いている、浮き指です。
足指が反り上がって浮くと、足の甲の筋肉が縮んで、足の前側の筋肉ばかりを使うようになります。一方、足指が丸まって浮く場合は、足裏の筋肉が弱くて体の後ろ側の筋肉が使えず、やはり体の前側の筋肉を使い過ぎてしまいます。
このような状態では、骨盤が前へ引っ張られて前傾します。すると、お辞儀をするように背中や胸、肩が丸まり、背中側の筋肉も前へ引っ張られていきます。それにより、さらに体の動きが制限されて血流が悪化し、腰痛や頭痛、肩こりなどが現れるのです。
❶足指が反り上がって浮くタイプ

足の甲の筋肉が縮まり、体の前側の筋肉ばかりを使うことで、バランスが乱れて不調が起こる。
❷足指が丸まって浮くタイプ

足裏の筋肉が弱まり、体の後ろ側の筋肉が使えなくなる。そのため、前側の筋肉を過度に使うことでバランスが乱れて不調が起こる。
また、ひざ痛に悩む人の足の多くは、歩く際に親指できちんと地面を踏み込めていないという特徴があります。この状態では、重心は小指側、つまり、体の外側に偏ります。その上、バランスを保つために太ももへ不自然な力が加わるため、ひざへの負担が増してしまいます。
足指の筋肉は、全身の筋肉と連動しています。足指の誤った使い方で全身の筋肉のバランスがくずれると、痛みやこりなどの不調につながります。逆に言えば、つま先立ちで足指を使えるようにすれば、これらの症状が改善すると考えられます。
足もとが安定すると姿勢がよくなる
つま先立ちで改善が期待できるのは、痛みやこりだけではありません。
①自律神経を整える
足元が不安定だと、全身の筋肉が緊張し、体の活動力を高める交感神経の働きが過剰になります。
つま先立ちで足元が安定すれば、自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)のバランスが整い、不眠やめまい、更年期障害などが改善します。
また、筋肉の緊張が消えることで、慢性疲労も解消します。
②姿勢の改善
全身の筋肉を整えることで、ネコ背などの姿勢や、それに伴う不調の改善が期待できます。
特に、ネコ背であごが前へ出た姿勢が正されれば、食いしばりや顎関節症が改善します。すると、首や側頭部の筋肉もゆるむので、頭痛や耳鳴り、めまいなどの解消につながります。
また、姿勢がよくなることで、背骨や骨盤といった骨が正しい位置に戻ると同時に、内臓の位置も正しく戻ります。それにより、関連する神経や血管も正常化して、胃痛や生理痛といった内臓の不調も改善します。
その他、ぜんそくなど呼吸器系の不調や便秘、尿もれ・頻尿が改善した例もあります。患者さんの中には、夜間頻尿で1時間おきに起きていたのが、1ヵ月のつま先立ちでトイレの回数が1回に減った人もいました。
つま先立ちのやり方は、下項を参考にしてください。ポイントは、かかととお尻の筋肉、肩甲骨を内側に引き寄せながら行うことです。
体は老化が進むと、筋肉を体の中心に寄せにくくなります。O脚やおなかのせり出しなども、筋肉が外側に広がるのと関係があるので、ぜひ意識してください。
つま先立ちは、早ければ1週間ほどで効果が現れます。しかし、再発予防のためにも、症状が消えた後も続けて習慣化するとよいでしょう。
つま先立ちのやり方
*必ず準備運動を行った後につま先立ちを行う。
*基本的には、いつ行っても問題ない。お勧めのタイミングは、朝と夜。朝に行えば、寝ている間に硬くなったり、バランスがくずれたりした体を整えて1日を過ごせる。夜に行えば、日中に生じた体のゆがみをリセットできる。忙しい場合は、夜だけでもよい。
*つま先立ちは、なるべくゆっくり、1回ずつ姿勢を確認しながら行う。
*つま先立ちをする際は、足指が地面についている感覚を意識しやすいよう、極力、はだしで行う。
*滑りやすいところで行わない、事前に周りの物は片付けるなど、十分に安全確認をした上で行う。
【準備運動】
❶足指を広げるエクササイズ

手の親指と人さし指で中足骨(足指の付け根から足の甲に向かって伸びる骨)の間をつまみ、足裏側と足の甲側の両方から各指の骨の間を5~6回ずつもみほぐす。足裏に横のアーチができるようなイメージで足の内側に向かって巻き込むようにほぐすとよい。
❷浮き指矯正エクササイズ

足の第1指の付け根の裏側を、反対の手の人さし指と中指の腹で押さえる。押さえている指をかかとの方に引っ張り、足指をお辞儀させるようにして10回動かす。第2~5指も同様に行う。
【つま先立ち】

❶両足のかかとを合わせ、つま先を広げた状態で立つ。なるべく壁の近くに寄り、手をつける。
※壁から離れ過ぎると肩甲骨が離れるので注意。
❷お尻の筋肉を内側にキュッと締め、左右の肩甲骨を内側に寄せた状態で、かかとをつけたまま、ゆっくりとつま先で立つ。
❸1~2秒静止し、ゆっくりとかかとを下ろす。
◎まずは1日10回から始める。慣れてきたら30回を目標にするとよい。

この記事は『安心』2021年12月号に掲載されています。
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