脳梗塞の後遺症でマヒやしびれを起こしている場合、マヒしている側の頸椎の横にくっついている「斜角筋」が張り詰めたようになりがちです。首の筋肉はがしがうまくできると、腕や手の拘縮の他、顔が左右に動かしやすくなったり、ろれつが回りやすくなったりといった効果も期待できます。
【解説】杉本錬堂(天城流湯治法創始者)

解説者のプロフィール

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杉本錬堂(すぎもと・れんどう)

天城流湯治法の創始者。錬堂塾主宰。一般社団法人天城流湯治法協会代表理事。医師・治療家・セラピスト・格闘家・ダンサー・ミュージシャン・ヨギーなど、多岐にわたる分野で、世界中に1600名以上の指導者を育成している。『奇跡が起こる! 脳梗塞の後遺症がよくなるDVD 天城流湯治法の秘術』(マキノ出版)などの著作がある。

腕や手の拘縮を緩めるセルフケア

私が創始した「天城流湯治法」は、自然療法に基づいた健康法で、相談に来られた方に自分でできるセルフケアを教えています。

私自身は医師でも理学療法士でもありませんが、その効果の高さから、多数の医師や治療家、セラピストなどが、治療やセルフケアに取り入れてくれています。

あるとき、脳梗塞(脳の血管が詰まる病気)の後遺症で片マヒになり、手の拘縮(関節の動きが悪くなること)が起こっている人の腕が、皆、自分で肩口を伸ばすかのような、同じ形をしていることに気付きました。

そこで、天城流湯治法を支援してくれている医師らに、「脳梗塞の患者さんは、脳梗塞を発症する前に、何か症状が出ていますか?」と尋ねたのです。

すると、驚くことに、脳梗塞の発症前に、「得体の知れない腕の痛みがあった」と訴える患者さんが非常に多いことがわかりました。

「脳梗塞になった人の腕が拘縮しているのは、発症前に経験した得体の知れない腕の痛みを、再発させまいとする自衛本能ではないか」。そう仮説を立て、そこから患者さんご自身でできるセルフケアを考案していったのです。

その中から、今回は「首の横」の筋肉をはがすセルフケアをご紹介します。

脳梗塞の後遺症でマヒやしびれを起こしている場合、マヒしている側の頸椎(首の骨)の横にくっついている「斜角筋」が張り詰めたようになりがちです。

斜角筋には、前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋の三つがあり、それぞれが頸椎の横側にある突起と上部(第一・第二)の肋骨を斜めにつないでいて、肋骨を引き上げて胸郭を広げる働きをしています。 

この斜角筋が張り詰めて、首を強く引っ張り続けていることが、腕や手の拘縮につながっています。

これを改善するために、斜角筋が頸椎に付着しているところを外すイメージで、親指の爪先を使って、内から外に向けて、ほんの2mm程度はがします。

それを、首の横の片側ずつ、首の上部、中部、下部の3ヵ所で行いましょう。マヒや拘縮が起こっている側を重点的に行ってください。

指の腹で押したりもんだりするのではなく、爪の先をポイントに引っかけて、パキッとはじくようにするのがコツです。

画像: 杉本錬堂氏による実際の首の横はがしの様子(DVDより)

杉本錬堂氏による実際の首の横はがしの様子(DVDより)

実際にやってみると、斜角筋の緊張が強いほど、はがしたときの痛みを感じやすいのですが、何度も行っているうちに、痛みは減っていきます。

首の筋肉はがしがうまくできると、息がスーッと入ってくるようになるのが実感できると思います。

また、腕や手の拘縮の他、顔が左右に動かしやすくなったり、ろれつが回りやすくなったり、くちびるのしびれ感が改善したりといった効果も期待できます。

食べ物をよく噛むことも大事

脳梗塞による拘縮は、日がたつとどんどん進んでいくので、治療家に2週に1度施術してもらうよりも、こまめなセルフケアの方が効果が高いと言っても過言ではありません。治療の合間に、日々セルフケアを行う人と行わない人では、大きな差が出ます。

首の筋肉はがしは、セルフケアで効果がすぐに実感できるので、脳梗塞のリハビリなどのモチベーションが上がる人が非常に多いのもメリットです。

実際に、私が首の筋肉はがしなどのセルフケアを指導した方で、手の拘縮が改善し、わずか15日後にはコップをつかんで水が飲めるようになったり、つえなしで歩けるようになったりした人がいます。

ただ、斜角筋がくっついている頸椎6番には、頸動脈結節という骨の突起があり、ここを左右同時に押さえると、失神状態に陥ることがあります。

自分で行う場合には、本能的にそのポイントに触れるのを避けるようで、問題は起こりにくいのですが、それでも念のため、首の筋肉はがしは、絶対に左右同時に行わないように注意してください。

首の筋肉はがしは、脳梗塞の後遺症以外にも、うつやパニック障害、がんこな肩痛、乳がん手術後の引きつりの改善にも役立ちます。

なお、食べ物を咀嚼不足で飲み込む癖があると、頭部の血液やリンパ(体内の老廃物や毒素、余分な水分を運び出す体液)が滞り、脳梗塞のリスクが高まります。よくかんで食べることも心がけてください。

首の筋肉はがしのやり方

※必ず片側ずつ行うこと。

【斜角筋の位置】

画像1: 首の筋肉はがしのやり方

斜角筋:頸椎の横突起と、第一肋骨をつなぐ前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋の総称

画像2: 首の筋肉はがしのやり方

首の横側のラインを作っている筋肉が、首の骨に付着している部分を、親指の爪先でクイッと2mmほどはがすように動かす。首の骨に沿って3ヵ所で行う。

画像3: 首の筋肉はがしのやり方

反対側も同様に行う。マヒが起こっている側や斜角筋が硬くなっているところがあれば、そこを重点的に。

画像: この記事は『安心』2021年12月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年12月号に掲載されています。

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