「耳の聞こえ」に異常が出ている患者さんは、鎖骨の内側の端と耳の後ろにある骨の出っ張りを結んでいる「胸鎖乳突筋」がひどく硬直していることが多いです。この筋肉がこると、内耳につながる血管やリンパ管を締め付けて、血液やリンパが滞りやすくなってしまうのです。【解説】藤井德治(一掌堂治療院院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

藤井德治(ふじい・とくじ)

一掌堂治療院院長。鍼灸あん摩マッサージ指圧師。「突発性難聴ハリ治療ネットワーク」代表。上智大学経済学部を卒業し、大手機械メーカーに入社。難聴の発症により退社し、東京鍼灸柔整専門学校(現・東京医療専門学校)に入学。卒業後に一掌堂治療院を開院。耳鳴り・突発性難聴等の改善症例は3400例を超える。『耳は「首押し」で9割ラクになる!』(河出書房新社)などの著書がある。
▼一掌堂治療院(公式サイト)

聞こえに異常のある人にすすめるセルフケア

キーン、ピーと甲高い音やジー、ブーンとセミの声のような低音がひんぱんに聞こえる。片耳が突然詰まったように聞こえにくくなる。ハウリングのように妙な反響が起こる。

〝こうした「耳の聞こえ」に異常が出ている患者さんでは、首の左右で、鎖骨の内側の端と耳の後ろにある骨の出っ張り(乳様突起)とを結んでいる筋肉「胸鎖乳突筋」がひどく硬直していることが多い。〟

この事実に気づいた私は、鍼やもみほぐしで、この筋肉のこりをほぐすことを試みました。すると、「耳の聞こえがよくなった」「耳鳴りが小さくなった」など、その場で症状の改善が見られる人が続出したのです。

そこから私の治療院では、突発性難聴や耳鳴りなどの患者さんに対して、鍼治療と並行して胸鎖乳突筋のこりをほぐすケアを取り入れています。

その中で、首の後ろ側から胸鎖乳突筋を指圧するやり方は、ご自身でも簡単にできます。そこで、これを「V字筋ほぐし」として、患者さんに指導し、ご自宅でのセルフケアとしてもやっていただいて、非常に高い効果を上げています。

「V字筋」というのは、体の正面から見ると、左右の胸鎖乳突筋がちょうどVの字の形に見えることから、患者さんにわかりやすいよう私が名付けた、胸鎖乳突筋の別名です。

画像: 耳たぶの裏側から首の付け根の鎖骨の突起に向けて斜めに走っている筋肉。正面からだとV字形に見える。顔を横に向け、あごを引くと浮き上がるため、見つけやすい。

耳たぶの裏側から首の付け根の鎖骨の突起に向けて斜めに走っている筋肉。正面からだとV字形に見える。顔を横に向け、あごを引くと浮き上がるため、見つけやすい。

では、なぜV字筋ほぐしが、耳鳴りや難聴、めまいの改善に有効なのかを説明しましょう。

難聴や耳鳴りは、耳の奥にある器官である内耳の、血液やリンパ(体内の老廃物や毒素、余分な水分を運び出す体液)の循環不良が原因の一つとして考えられています。

胸鎖乳突筋の末端は、内耳のすぐ近くまで伸びています。そのため、胸鎖乳突筋がこって硬くなると、内耳につながる血管やリンパ管を締め付けて、血液やリンパが滞りやすくなってしまうのです。

胸鎖乳突筋は、パソコンやスマホなどを扱う際の、頭を下へ向けた姿勢が続くと負担がかかり、こりやすくなります。

ただ、胸鎖乳突筋がこっているいう自覚は得にくいようで、胸鎖乳突筋のVの字の下端である左右の鎖骨の間の辺りに、物が詰まっているかのような違和感や、肩や首のこりとして訴える患者さんが多いと言えます。

手のひらでさするだけでもOK

V字筋ほぐしのポイントは、強く押し過ぎないこと。息を静かに吐きながら、ゆっくりと、軽く押さえる程度の力加減で行ってください。

体を正面に向けたまま、顔を横に向けた状態で行うと、首に胸鎖乳突筋が浮き上がるので、位置がわかりやすいはずです。

V字筋ほぐしは1日1回以上行いますが、強く押し過ぎると、寝違えたときのように首を動かしづらくなることがあるため、ご注意ください

胸鎖乳突筋を手のひらでさするだけでも、ある程度ほぐすことができます。めまいがある人には、こちらのほうがお勧めです。さするだけなら何回行ってもよいでしょう。顔も正面に向けたままで構いません。

効果が現れるまでの期間は、人によって異なります。難聴や耳鳴りなどの場合、発症からV字筋ほぐしを始めるまでの期間と、ほぼ同じ期間は必要だと考えてください。

症状が出てから1ヵ月後にV字筋ほぐしを始めた場合、症状の改善が感じられるまでには1ヵ月は続ける必要があります。

V字筋ほぐしを行っていたら、耳の聞こえ以外の改善にも役立ったという声も多数いただいています。特に耳の聞こえと合併しやすい頭痛、不眠、うつ、肩こりが改善した例は非常に多く見られます。

その他、メニエール病や高血圧、緑内障、疲れ目、冷え症、円形脱毛症、橋本病やバセドウ病などの甲状腺機能障害、更年期障害、不妊や生理不順などの婦人科系疾患などが改善したという声もあります。 

V字筋ほぐしのやり方

画像1: V字筋ほぐしのやり方

V字筋の後ろ側に親指の腹を当て、息を10秒かけてゆっくりと吐きながら気持ちよく感じる程度の力で押す。

画像2: V字筋ほぐしのやり方

鼻から3秒かけて息を吸い、2秒止めている間に、鎖骨方向に少し親指の位置をずらし、同様に10秒かけてゆっくりと押すのを鎖骨までくり返す。左右ともに行う。
※1日1~3回行うとよい。

V字筋ほぐしに加えて、以下の症状別のプラスケアを行うとさらに効果が高まる。

耳閉感

画像1: 耳閉感

人さし指と中指の間で耳の付け根を挟み、上下に軽くこする。上下に30往復行う。

画像2: 耳閉感

親指の腹と曲げた人さし指の側面で耳たぶをつまみ、少しずつずらしながら耳の上端までもんでいく。全体で30秒ほど行う。

難聴

画像1: 難聴

長年の治療の中で発見した「難聴の特効ツボ」
突難1号:耳たぶのすぐ裏のくぼみの頂点。くぼみの中央にある翳風のツボの5mm上。
突難2号:耳たぶの付け根の前側。口を開けたときに耳珠の前にできるくぼみにある聴宮のツボの2cm下。

画像2: 難聴

突難1号、突難2号のツボを指圧する。円皮鍼やチタンテープをはると持続的にツボ刺激ができる。代用としてゴマなどをサージカルテープでとめるのもよい。

耳鳴り

画像1: 耳鳴り

耳の穴に指先を軽く差し込み、ブルブルと細かく振動させる。30秒行う。
※耳鳴りが気になる方の耳だけでよい。

画像2: 耳鳴り

耳介が軽く前に倒れる程度に、後ろ側から耳全体をパタパタと軽くはじく。30秒行う。
※耳鳴りが気になる方の耳だけでよい。

めまい

画像1: めまい

めまいの特効ツボ
内関:手のひら側で、手首のシワから指3本分、ひじ方向に進んだところ。
外関:手の甲側で、手首のシワから指3本分、ひじ方向に進んだところ。

画像2: めまい

内関と外関を30秒ずつ指圧する。親指と中指で手首を両側から挟むように持って押すと同時に刺激できる。両手とも行う。

画像: この記事は『安心』2021年12月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年12月号に掲載されています。

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