解説者のプロフィール

松生恒夫(まついけ・つねお)
松生クリニック院長。1955年東京都生まれ。80年、東京慈恵会医科大学卒業。同大学第三病院内科助手、松島病院大腸肛門センター診察部長を経て、2004年に松生クリニック(東京都立川市)を開業。大腸内視鏡検査や炎症性腸疾患の診断と治療を得意とし、これまでに行った大腸内視鏡検査は5万件を超える。著書多数で、近著『大人のバナナジュース健康法』(主婦の友社)、『腸ストレッチ』(マイナビ出版)が好評発売中。
▼松生クリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
タマネギスープでメタボを撃退
おなかの内臓脂肪が増え、高血糖、高脂血症、高血圧といった生活習慣病を引き起こすリスクが高くなるメタボリック症候群(以下メタボ)。おなかがぽっこりと出た、「中年太り」の体形になるのも気になります。
メタボになると、動脈硬化を引き起こしやすくなり、場合によっては、心筋梗塞(心臓の血管が詰まって起こる病気)や脳梗塞などの死に至る病を招く危険性が高くなります。
しかし、メタボを過剰に心配する必要はありません。現在の生活に少し変化をつけることで、改善が可能だからです。
メタボが気になる方は、毎日の食生活に「タマネギスープ(詳しい作り方は下項を参照)」を加えてください。それだけで、十分効果が期待できます。
実際に、タマネギスープをとっている人から、「血糖値や中性脂肪値が下がった」「おなかの脂肪が取れた」などの報告が多数寄せられています。
では、なぜタマネギスープがメタボの予防・改善に有効なのかを、タマネギの主な作用から紹介しましょう。
●血糖降下作用
タマネギに数多く含まれる硫黄含有成分には、血糖値を下げる働きがあります。
医師の齋藤嘉美先生が過去に行った臨床試験では、糖尿病の患者さん22名にタマネギ(タマネギを濃縮乾燥させた粒)を24週間摂取してもらったところ、8割の人の血糖値が降下。そのうち、著しい効果を示した6名に薬を中断してもらったら、その後の経過もよく、再投与が不要になったそうです。
●脂質低下作用
タマネギの色素成分であるケルセチンには、肝臓で脂肪の代謝を促進する働きがあります。その上、腸内での脂肪の吸収も抑制するので、体内から脂肪を排出してくれるのです。また、辛味成分のシステインには、余分な脂肪の合成を抑える作用もあります。
●血圧降下作用
タマネギに含まれるプロスタグランジン様物質やケルセチンには、血管を拡張して高い血圧を下げる作用があると、齋藤先生の実験で報告されています。
このように、メタボの予防・改善に優れた作用を持つタマネギですが、有効成分を無駄なく吸収するためには、スープにすることが最良といえます。
そもそも、タマネギをはじめとした野菜は、熱によって細胞膜(壁)が破壊され、多くの成分がスープ内に溶け出します。すると、生で食べたときとは比べ物にならないくらい、腸管からの吸収がよくなります。
私が考案した「ファイバー・G・インデックス(FGI)」という指標から見ても、タマネギスープは優れています。
この指標は、利用可能な炭水化物(単糖当量)を、食物繊維の総量で割った値です。簡単に言えば、FGI値に優れる食品は、「糖質と食物繊維のバランスが取れている」ということです。
これは、以下の計算式で求めることができます。
FGI値=糖質(g)÷食物繊維(g)
判定の目安は次の通りです。
・19以下=安心して食べられる
・20~50=食べ過ぎ注意
・51以上=できるだけ避けるか少量のみOK
では、タマネギスープに使われる食材のFGI値を見てみましょう。
食品名 | エネル ギー量 (kcal) | 利用可能 炭水化物 (単糖当 量・g) | 食物繊維 総量⒢ | FGI値 |
---|---|---|---|---|
タマネギ | 33 | 7.0 | 1.5 | 4.7 |
ニンニク | 129 | 1.1 | 6.2 | 0.2 |
刻みコンブ | 119 | 0.4 | 39.1 | 0.0 |
①タマネギ=4.7、②ニンニク=0.2、③刻みコンブ=0.0 。このように、タマネギスープの食材はどれも非常に優秀です。ちなみに、下項のレシピのベーコンは肉類のためFGI値の対象外となりますが、糖質量は問題ありません。
ここで、なぜ私が各食材のFGI値を重要視しているかをお話ししましょう。
近年、糖尿病対策やダイエットとして、糖質制限を行う人が増えました。糖質制限そのものは悪くないのですが、極端に行うことによって、どうしても食物繊維の摂取が減ってしまいます。
こういった状態は、腸にとって大問題になります。なぜなら、食物繊維が不足すると腸にストレスがかかり、血糖値が上昇してしまうからです。
腸は、運動や睡眠不足、食生活の乱れなど、さまざまなことでストレスを受けますが、最悪のストレス要因が食物繊維の不足なのです。ですから、糖質制限を行う際は、単に糖質を控えるだけでなく、並行して食物繊維をとることが重要になります。
ちなみに、タマネギスープは私もよく食べています。おいしく食べるために欠かせないのがベーコンだと思います。ベーコンを使うことで、スープのうま味が増します。ちなみに、ベーコンの脂が気になる人は、魚肉ソーセージに変えてもよいでしょう。
長く続けるためには、カレー粉を足してカレー味にしたり、トマトを加えてトマト風味にしたりしてアレンジするのもいいでしょう。
高血圧、糖尿病、ダイエットに!
タマネギスープの作り方

●材料(7 杯分)
タマネギ……大4個(1kg)
ニンニク……大1/2片
ベーコン……50g
水……6カップ
酢……大さじ2/3
刻みコンブ……15g
●作り方
①タマネギは皮をむき、1cm角のさいの目切りにする。ニンニクはみじん切りに、ベーコンは5mm角に切る。
②鍋に水、①、酢、刻みコンブを入れて強火にかける。
③沸騰したら弱火にしてふたをする。30分ほど、タマネギが柔らかくなるまで煮る。
※冷蔵庫で5日間保存可能。冷凍してもよい。
●基本のとり方
朝と晩に1杯ずつ、温めてから食べる。
■調理・スタイリング/古澤靖子
40年以上とり続ける「タマネギスープ」で血糖値が大幅に下がり糖尿病の薬とは無縁
グリル満天星 元・総料理長 窪田好直
薬を回避するために考案したタマネギスープ
私は、40代の若さで糖尿病を患いました。
当時は、フランス料理の料理人をしていて、1日に何十回も味見をしていました。フランス料理は、バターと油をふんだんに使用するので、1回の味見は少しの量でも、一日中ともなると、かなりのカロリーを摂取します。
さらに、当時の私は大の酒好き。料理人を引き連れて毎晩のように飲みに出かけたり、風呂場に一升瓶を持ち込んだりする生活を続けていたところ、気がつけば、身長162cmに対して、体重は75kgになっていました。
そんなある日のことです。トイレに行ったら、自分のオシッコから甘い臭いがしたのです。先輩料理人たちに糖尿病の人が多いこともあり、もしや自分も……と思い、病院で検査をしたところ、予感が的中。インスリンを打つか、食事を1日1500kcal以内に抑えるかの選択を迫られました。
薬に頼りたくなかった私は、食生活を見直すことにしたのです。
とはいえ、朝早くから夜遅くまで立ちっ放しの仕事をしながら、1500kcalに抑えることは時間的にも栄養的にもつらく、耐え難い空腹に何度も襲われました。
「なんとかこの空腹を抑える方法はないだろうか」と考えた私がたどり着いた答えが、スープでした。スープなら、おなかがいっぱいになりますし、具材として野菜もたくさんとれます。
私は、料理人としての知恵と、糖尿病になってから学んだ栄養学の知識を基に試行錯誤し、タマネギをメイン具材にした「タマネギスープ」を作ることにしました(詳しい作り方は上項を参照)。
タマネギは、低カロリーなのはもちろん、糖尿病の緩和にも役立つともたびたび耳にしていました。
簡単に作れて長期保存が可能! だから長続きする
もう一つ気を使ったのは、無理なく長く続けられるレシピにすることでした。糖尿病は、1日2日、食事を改善したぐらいでは治りません。継続が必要です。
ですから、簡単に作れて、保存できるようなスープにしました。そうしないと、忙しい日が続いたら、面倒になってやめてしまうと思ったからです。
そこで選んだ具材が、ニンニクやコンブ、ベーコンなど、手軽に手に入る食材でした。なお、酢を入れるのは、長期間保存できるようにするためです。
その他、お好みで野菜を追加して作っても構いません。その場合は、作りおきとは別に、食べるときに足して煮込めばよいと思います。
カロリー制限のために飲み始めたタマネギスープでしたが、しばらくたつと、想像以上の変化が現れました。最高300mg/dlもあった血糖値が、なんと120mg/dlにまで下がっていたのです(基準値は110mg/dl未満)。

窪田シェフの糖尿病が改善した!
これはタマネギスープのおかげに違いない! と知人やお客さまにもお話ししました。すると、実践してくださった糖尿病のお客さまから「インスリン注射をしなくてもよくなりました!」と感謝の手紙をいただくなど、効果を実感された人からの声がたくさん寄せられました。
私自身、40年以上、毎日タマネギスープを飲み続けています。おかげで、今日まで糖尿病の薬は飲まずに済んでいます。今の血糖値は130mg/dlほどで、3ヵ月に一度、定期検診に行くくらいです。
タマネギスープのおかげで、糖尿病を心配しながらの生活とは無縁になった私は、89歳になった今でも、やりたいことが多過ぎて時間が足りないほど元気です。75歳で始めた庭のバラ栽培は、今では地元の皆さんの憩いの場となり、お友だちづくりにも役立っています。
また、糖尿病をきっかけに、料理はおいしさだけを追求するのではなく、お客さまが健康で、幸せな気持ちになれるものでなければいけないと考えるようになりました。
そのため、高カロリーな印象の洋食ですが、私のお店では、名物の「オムライス」でさえも、バターを1食5gに抑えて作っています。

窪田好直(くぼた・よしなお)
1932年、東京都生まれ。丸の内会館にて「天皇の料理番」として知られる秋山徳蔵氏の下でフランス料理を修行。さらに、より健康に配慮した独自の洋食を考案し1987年、麻布十番に「グリル満天星」をオープン。

この記事は『安心』2021年12月号に掲載されています。
www.makino-g.jp