腎臓内科で多くの患者さんを治療する過程で、鼻の奥にある上咽頭という部位が免疫システムに重要な役割を果たしていることがわかりました。そこで、免疫を高めるセルフケアとして重要なのが「鼻うがい」です。0.9%濃度の塩水(生理食塩水)で行えば、体液と同じ濃度なので痛みはなく快適なうえ殺菌作用があります。【解説】堀田修(堀田修クリニック院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

堀田修(ほった・おさむ)

堀田修クリニック院長。1983年、防衛医科大学校卒業。医学博士。88年にIgA腎症の根治治療として扁摘パルス療法を考案し、2001年に治療成果を米国医学雑誌(AJKD)に報告。11年に堀田修クリニックを開業。腎臓病を中心とした治療と臨床研究、扁摘パルス療法の普及活動を継続。日本病巣疾患研究会理事長、IgA腎症・根治治療ネットワーク代表。日本腎臓学会評議員。著書に『腎臓病を治す本(マキノ出版)』、近著に『ウイルスを寄せつけない!痛くない鼻うがい』(KADOKAWA)がある。
▼堀田修クリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

鼻の奥にある「上咽頭」が免疫システムに重要

私の専門は腎臓内科ですが、多くの患者さんを治療する過程で、鼻の奥にある上咽頭という部位が、免疫システムに重要な役割を果たしていることがわかりました。

腎臓病が治りにくい患者さんは、慢性的な上咽頭炎を患っている場合がほとんどです。慢性上咽頭炎を治療すると、花粉症や副鼻腔炎、アトピー性皮膚炎などを含むアレルギー症状、片頭痛や関節炎などの自己免疫疾患などにも、効果が現れます。

画像: 鼻の奥にある「上咽頭」が免疫システムに重要

上咽頭炎の治療には、塩化亜鉛溶液を直接塗布する方法が有効ですが、劇物指定なので患者さん自身は塗布できません。

そこで、免疫を高めるセルフケアとして重要なのが「鼻うがい」です(やり方は下項を参照)。

「鼻うがいは痛い」というイメージを持たれがちですが、それは水道水が鼻から入った経験があるからでしょう。0.9%濃度の塩水(生理食塩水)で行えば、体液と同じ濃度なので痛みはなく、快適なうえ殺菌作用があります。塩水で鼻うがいを行うことで、

ウイルス、細菌、花粉、炎症物質などを洗い流す
鼻咽頭の繊毛上皮細胞の働きをよくする
粘膜のむくみを軽減する
抗ウイルス作用を持つ次亜塩素酸が上皮細胞で作られる

といったさまざまな作用が生まれます。これが、冒頭に述べたような症状・病気の改善に効果を発揮するのです。

塩水の鼻うがいはウイルス性のカゼ予防に有効

この、塩水を使った鼻うがいは、新型コロナ対策としても期待できます。まず、英国のエジンバラ大学の研究チームが行った実験を紹介しましょう。

2018年に報告された研究では、コロナウイルス、ヘルペスウイルス、RSウイルスなどを感染させた細胞に、塩分濃度を1.5~3%の範囲で4段階に調節した食塩水を、それぞれ加えました。

すると、細胞内で作られる次亜塩素酸がウイルスの増殖を抑えること、しかも塩分濃度が高いほうが、より効果があることがわかりました。

それを受けて、次は2019年に報告された実験です。ウイルス性のカゼを発症してから48時間以内の患者を「鼻うがい群(13人)」(以下、「する群」)と「鼻うがいをしない群(34人)」(以下、「しない群」)に分けました。

「する群」は、先述の4段階の濃度のうち、使用に違和感のない範囲で最も高濃度の食塩水を鼻うがいに使用。最初の2日は1日6回、以降は症状により回数を減らし、2週間、鼻うがいをしてもらいました。

「しない群」も含め、症状の推移とウイルスの減り方を、2週間観察しました。二つの群を比較したところ、「する群」は「しない群」に比べ、罹患の期間が22%短縮。市販薬の使用は36%、家庭内感染は35%も減ったのです。

塩水の鼻うがいは、ウイルス性のカゼに有効であることがわかりました。

そして2021年、米国オーガスタ大学病院の報告です。新型コロナの患者79名に、生理食塩水での鼻うがいを1日2回、2週間実施。診断後4週間の入院率と死亡率を、背景をマッチさせた同時期の米国疾病予防管理センター(CDC)登録患者約300万人と比較しました。

結果、CDC登録患者では入院または死亡の割合が10.6%だったのに対し、鼻うがい実施群は入院1名(1.27%)で、死亡はゼロ。新型コロナの重症化リスクを、塩水鼻うがいが8分の1以下に低減したのです。

私のクリニックでは2020年4月から約50人のスタッフ全員が鼻うがいを徹底。カゼで休む者は皆無です。私自身は、人込みから帰ると、濃いめの塩水で鼻うがいをしています。ぜひ皆さんも習慣づけてください。

痛くない鼻うがいのやり方

1日最低1回、できれば朝と晩の2回行う。慣れるまでは入浴時に行うとよい。
口に出てきた塩水は飲んでしまっても問題ない。
人込みから帰ったとき、カゼかなと感じたときは塩を2~3倍量にすると、より殺菌効果が高まる。

用意する物

塩…小さじ1/2(約2g)
水…200ml
やわらかい樹脂製のボトル…1個(ハチミツ容器や、注ぎ口の口径が太めのドレッシングボトルがお勧め。200ml程度が入る物。100円ショップで購入可能。薬局などで市販されている鼻うがいキットを購入して使ってもよい。)
ストロー…1本 (上記ボトルより長く、注ぎ口にできるだけピッタリ入る太さの物。)

やり方

画像1: 痛くない鼻うがいのやり方

塩と水を混ぜて塩水を作る。

画像2: 痛くない鼻うがいのやり方

ボトルに①を入れ、注ぎ口にストローを差し込む。注ぎ口からはみ出た部分はハサミで切る。

画像3: 痛くない鼻うがいのやり方

少し前かがみになり、②の容器の先を鼻の穴に入れ、「エー」と声を出しながら容器の側面を押し、塩水を鼻に入れる。塩水はもう片方の鼻の穴と口から出てくる。反対側の鼻の穴も同様に行う。

画像: この記事は『壮快』2021年12月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年12月号に掲載されています。

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