「食塩感受性がある人」と「食塩感受性がない人」が存在し、割合はおよそ、1:1といわれています。つまり、約半数の人は塩分量を減らしても高血圧の解消にはつながりません。そこで、重要な要因となるのが運動です。まずお勧めしたいのは、有酸素運動の代表であるウォーキングです。【解説】上月正博(東北大学病院リハビリテーション部長)

解説者のプロフィール

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上月正博(こうづき・まさひろ)

1981年、東北大学医学部卒業。東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻機能医科学講座内部障害学分野教授。東北大学病院リハビリテーション部長、同障害科学専攻長、日本心臓リハビリテーション医学会副理事長。日本腎臓リハビリテーション学会理事長を歴任。著書に、『血管をよみがえらせる 長生き体操』]、『腎臓病は運動でよくなる!』(ともにマキノ出版)など多数。
▼東北大学医学系研究科内部障害学分野研究室(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

食塩を減らして効果があるのは約半数

日本の高血圧の患者さんの数は、およそ4000万人。3人に1人が高血圧という計算です。これだけ多いことを考えると、高血圧は「国民病」といっても差し支えないでしょう。

しかも、高血圧は、自覚症状が現れにくく、血圧が上がっても、よほど高くならないかぎり、気づかないことが多い点もやっかいです。

こうした高血圧の改善のためには、日常生活の過ごし方がとても大事です。なかでも食生活の管理、特に減塩が必要であることはいうまでもありません。

ただ、減塩がすべての患者さんに有効というわけではありません。高血圧の人であっても、「食塩感受性がある人」と、「食塩感受性がない人」が存在するからです。

つまりこれは、塩分を減らすことで血圧の改善につながりやすい人と、塩分を減らしても血圧が改善されにくい人がいるということです。この割合はおよそ、1:1といわれています。

つまり、約半数の人は、塩分量を減らしても高血圧の解消にはつながりません。

食塩感受性がない人の場合、塩分を減らすことに加えて、ほかにもなんらかの手立てが必要となります。そこで、食事と並んで、重要な要因となるのが運動です。

近年、医学研究の進展によって、慢性疾患の運動療法に関する考え方が大きく変わってきました。かつて腎臓病や心臓病は「安静第一」「運動は禁忌」とされてきました。

しかし、腎臓病や心臓病にも運動が改善効果をもたらすことが判明し、「運動制限から運動推奨へ」といった変化が起こってきたのです。高血圧についても、運動療法の効果が確かめられつつあります。

運動習慣のない人は1日10分からスタート

私は、リハビリを指導する医師として、高血圧を含めた多くの慢性疾患の患者さんの運動指導にかかわってきました。ここでは、最新の医学研究のエビデンスを踏まえて、高血圧の患者さんにお勧めできる運動をご紹介します。

まず、お勧めしたいのは、有酸素運動の代表であるウォーキングです。

有酸素運動を続けることによって、全身の血流がよくなります。運動後は血圧がいったん上昇しますが、そのあとに、血管が拡張して運動前より血圧が下がります。

これは、私たちの意志とは無関係に働き、内臓や血管の働きをコントロールする自律神経の働きによるものです。継続してウォーキングを行うことで、血圧を下げていく効果が期待できるでしょう。

運動療法によって下がる血圧の数値は、平均約5mmHgとされています。大した数値ではないと思われる人もいるかもしれません。しかしデータから考えると、この血圧降下によって、脳卒中や心筋梗塞などによる死亡者が数万人減ると考えられます。

75歳以上の高齢者は、無理せず、ゆっくり歩くことを心がけてください。ウォーキングには、速歩きとゆっくり歩くことを組み合わせるインターバル速歩などがありますが、高齢者には負荷が大き過ぎます。現在のガイドラインでは、無理のないウォーキングが推奨されるようになっています。

毎日30分程度、もしくは、週の総計で180分以上歩くことが、一つの目安です。ただし、1日に2時間以上歩くことは控えたほうがいいでしょう。

高齢者や、運動習慣のない人の場合、1日10分(約1000歩)のウォーキングから始めましょう。できれば、歩数計で1日の歩数を記録し、少しずつ歩数を伸ばしていくのがお勧めです。最近はスマホのアプリなども多数あるので、そういった物を利用するのもよいでしょう。

歩く時間帯は、早朝を避けましょう

理由は二つあります。まず、血圧は寒さによって上がりやすいので、気温が低い時間帯は向いていません。また、すでに降圧剤を服用している人の場合、早朝はその薬の効果が切れかかっている時間です。

この2点から、早朝はなるべく負荷がかかる運動をするべきではありません。暖かい時間帯、薬の効果が出ている時間を意識しましょう。

なお、運動中に息切れが強く出る場合には、歩く速度を遅くするか、運動を中断して様子を見てください

これからウォーキングを始めようというかたは、なるべく平坦なコースを選ぶほうが無難でしょう。運動不足の人がいきなりアップダウンの激しいコースを選ぶと、心臓やひざなどに負荷がかかり過ぎるリスクがあります。もちろん、以前から坂の多いコースでのウォーキングで慣れている人が、平坦なコースに変更する必要はありません。

なお、高血圧の患者さんのなかには、運動が勧められない人もいらっしゃいます。

最大血圧が180mmHg以上、最小血圧が100mmHg以上の人は、運動を推奨できません。薬物療法、もしくは、食事療法によって、血圧を下げてから、運動を始めるようにしましょう。

その数値に満たなくても、最大血圧が160~179mmHg、最小血圧が95~99mmHgの場合は、主治医に確認してから運動を行うようにしたほうがよいでしょう。

「運動時間が延びると寿命も延びる」という論文も

また、近年の運動療法の特徴の一つとして、筋トレなどに代表される無酸素運動が勧められています。例えば、糖尿病などの改善には、有酸素運動+筋トレが有効であるというデータが多数報告されており、実際の医療現場においても、患者さんに筋トレが勧められるようになっています。

しかし、高血圧の対策という観点からは、一概にそういい切れません。というのも、呼吸を止めて力をこめるような筋トレは、急な血圧上昇を招いてしまうからです。

その点で、勧められるのが、安全性の高い「スクワット」や「片足上げ」です。ただし、この場合も、運動中に息を止めないように注意する必要があります。

片足上げのやり方

運動中は決して息を止めない。
ふらつく場合は、イスなどにつかまってOK。
1日3セット行う。

画像: 「運動時間が延びると寿命も延びる」という論文も

肩幅より少し広く足を開き、両手を腰に当てて立つ。ゆっくり息を吐きながら5秒かけて、左足の太ももを床と平行になるまで上げる。
一度息を吸ったあと、息を吐きながら、5秒かけて左ひざをゆっくり前に伸ばし、息を吸いながら足をゆっくり下ろす。そのまま左足を後ろに伸ばし、ゆっくり元に戻す。これを5~10回くりかえす。逆の足でも同様に行う。

 
2011年に、イギリスの『ランセット』という権威ある医学雑誌に発表された論文で、40万人を超える台湾人を対象に、運動時間と寿命の関係を調べた研究があります。

この研究によると、1日当たり歩く時間が15分延びるごとに、死亡率が4%ずつ減少するというのです。こちらは台湾の研究データですから、同じアジア系である私たち日本人にも、この傾向は当てはまると思ってよいでしょう。

最初から高い目標値を掲げなくてもよいのです。最初は少しでもいい。継続して行い、だんだん時間を延ばしていきましょう。それが健康長寿につながります。気楽に始め、気長に続けていきましょう。

画像: この記事は『壮快』2021年12月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年12月号に掲載されています。

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