解説者のプロフィール

髙橋怜奈(たかはし・れな)
日本産科婦人科学会専門医。2009年東邦大学医学部卒業。国立国際医療研究センター国府台病院、東邦大学大森病院産婦人科を経て、16年より東邦大学医療センター大橋病院産婦人科に在籍。診療に加え、ダイエットや食事療法、運動療法のアドバイスも行う。16年6月にボクシングのプロテストに合格。21年10月の引退まで、世界初の女医ボクサーとしても活躍。
▼東邦大学医療センター(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
日本人に不足している食物繊維がたっぷり
私は婦人科の医師であるとともに、つい先日(21年10月9日)引退するまで、プロボクサーとして試合に出ていました。ボクサーには、試合前の減量がつきものです。そこで私が活用していたのが、「サツマイモ」です。
減量したいとき、ふだん食べているご飯やお菓子をサツマイモにおき換えると、体重をスムーズに落とせました。また、もともと便秘はしないほうですが、サツマイモを食べていると、いつも以上にお通じがよくなりました。
なぜサツマイモが、減量やお通じの改善に役立つのでしょうか。ここでは、その栄養面の特徴から、サツマイモの健康効果について、解説しましょう。
❶食物繊維が豊富
食物繊維には、よく知られる整腸作用だけでなく、血糖値上昇の抑制、血液中のコレステロール濃度の低下など、多くの生理機能があります。生活習慣病予防のためにも、しっかり摂取をしたい成分です。
日本人の食事摂取基準では、食物繊維の摂取目安は、18~64歳の男性で1日21g以上、同じく女性で18g以上です。しかし実際には、基準にはとても足りていないのが現状(日本人平均で1日14g程度)。多くの人が食物繊維不足に陥っているのです。
サツマイモには、不溶性と水溶性、両方の食物繊維がバランスよく含まれています。食物繊維不足の解消に、大いに役立つのがサツマイモなのです。
食物繊維がとれれば、腸内環境が整い、便通も改善します。代謝もよくなることから、ダイエットにもつながります。
ちなみに、サツマイモに含まれるヤラピンという成分も、腸のぜん動運動を促し、便をやわらかくすることから、食物繊維とともに便秘の改善を促します。
❷GI値が低い
サツマイモは炭水化物ですから、「糖質が多く太りそう」、あるいは「生活習慣病に悪影響があるのでは」などと思うかたがいるかもしれません。
しかしサツマイモの摂取は、ご飯やパンに比べて、GI値(グリセミック・インデックス。食後血糖値の上昇度を示す指標)が低いという特長があります。
GI値の高い食材を食べると、血糖値が急上昇します。すると、膵臓から血糖値を下げるインスリンというホルモンが出ますが、このインスリンは血中の糖分を脂肪に変えて、体にため込む性質があります。これが肥満の原因になるわけです。
GI値の高いご飯やパン、お菓子類をサツマイモにおき換えれば、血糖値上昇の速度が抑えられ、結果、脂肪がつきにくくなります。比較的、血糖値を上げにくいということから、上手に活用することで、糖尿病の予防のためにも勧められる食材だといえるでしょう。
これらの点から、私はサツマイモを中高年以降の女性に特にお勧めしたいと思います。
更年期以降の女性は女性ホルモンが減少し、脂肪がつきやすくなります。それまでと同じように糖質の多い食品を食べていると、太ってしまい、生活習慣病のリスクが高まります。
しかし一方で、糖質はエネルギーや筋肉を維持するために必要不可欠な栄養素であり、極端に減らすのはよくありません。
そこで便利なのがサツマイモです。筋力を保ちつつ、肥満を防ぐのに、血糖値の上昇が緩やかで、太りにくい糖質であるサツマイモは、理想的な食材といえます。
❸ビタミン、ミネラルが豊富
サツマイモにはビタミンC、ビタミンEが豊富に含まれ、抗酸化作用が期待できます。
また、カリウムも豊富です。カリウムはよけいな塩分の排出を促し、血圧を下げたり、体のむくみを取ったりしてくれます。
そのほかの成分としては、アントシアニンが重要です。毛細血管を保護して動脈硬化を予防したり、血流を改善し、シミ・シワの予防したりするほか、疲れ目の改善にも役立ちます。
血糖値の上昇を抑える「レジスタントスターチ」とは
さてここからは、サツマイモの効果的な食べ方について示しましょう(基本的な食べ方は下のまとめ参照)。
調理方法は、焼く、蒸す、煮るなど好みでOK。市販の干しイモでも結構です。健康によい成分は、皮やその近くに多く含まれています。ぜひ皮ごと調理してください。
細かくいえば、サツマイモのGI値は調理方法によって異なり、焼きイモは、蒸しイモや干しイモよりGI値が高くなります。しかし、GI値だけを気にして調理方法にこだわるよりも、自分が食べやすい方法でサツマイモを継続的にとったほうがよいと思います。
少しでも血糖値の上昇を抑えながら焼きイモを食べたいというかたは、冷やして食べるとよいでしょう。サツマイモのでんぷんは、冷やすと「レジスタントスターチ」という物質に変化し、血糖値やコレステロール値の上昇を抑え、ダイエット効果を高めてくれるからです。
心得ていただきたいのは、サツマイモを食べたらやせる、血糖値が下がる、ということではなく、ほかの糖質とおき換えることで健康効果が期待できるということ。
サツマイモ1本の重量は約200g~300gですが、1日にとる量は、3分の2〜1本程度を目安にしてください。食べるときにはゆっくりよくかんで食べましょう。のどに詰まることを防ぎ、腹持ちもよくなるでしょう。ぜひ積極的に取り入れて、健康維持に生かしてください。
サツマイモの食べ方
●食べる量…1日200g(サツマイモ3分の2~1本)程度
●食べ方…次のなかから、自分に合った方法でとる。
①食事のとき、ご飯をサツマイモにおき換える。
②食事にサツマイモを加え、ご飯やパンなど主食の量を減らす。
③間食のお菓子のかわりにとる。
●調理法…焼く、蒸す、煮るなど、好みの方法でOK!
ポイント
*できるだけ皮ごと食べる。多く作った場合は、冷凍保存し、自然解凍してとるとよい。
*サツマイモの大きさにより、火のとおりが異なるので、様子を見ながら加熱時間や水分量を調整する。
トースターで焼く(800Wの場合)

❶サツマイモをよく洗い、トースターに入れ加熱する。
❷15分焼いたら、上下を返してさらに15分焼く。竹串で刺して、かたければさらに焼く。
炊飯器で蒸す

❶サツマイモをよく洗い、炊飯器に入るように2~3等分にする。
❷炊飯器の内釜に①を入れ、水を100ml加える。
❸通常の炊飯モードのスイッチを押し、炊き上がったら、少しおいて蒸らす。
電子レンジで蒸す

❶サツマイモをよく洗い、濡らしたキッチンペーパーで包んでから、ラップで包む。
❷耐熱容器にのせ、200Wで10分加熱する。
❸上下をひっくり返して、さらに10分加熱する。
市販の干しイモもお勧め!

間食に最適!

この記事は『壮快』2021年12月号に掲載されています。
www.makino-g.jp