解説者のプロフィール

今井一彰(いまい・かずあき)
みらいクリニック院長。1995年、山口大学医学部卒業。2006年に福岡市博多駅前にみらいクリニックを開院後、さまざまな方法を駆使しながら、薬を使わずに体を治す独自の治療を行う。日本病巣疾患研究会副会長。「あいうべ」による息育や「足指を伸ばす」ことによる足育の普及にも尽力する。著書に『自律神経を整えて病気を治す! 口の体操「あいうべ」』『1日4分でやせる! ゆるHIIT』(いずれもマキノ出版)など多数。
▼みらいクリニック(https://mirai-iryou.com/)(公式サイト)
足指の機能の衰えが股関節痛やネコ背を招く
足指がかたく縮こまり、伸ばしたり広げたりできない。立ったとき足指がしっかり床に着かず、浮いている。足の小指(第5趾)が斜めに傾いている……。子供から高齢者まで、今の日本人には、足指がきちんと使えていない人が増えています。
足指は小さな部位ですが、体の土台である足にとって、要となる重要な役目を果たしています。
左右の10本の足指がうまく機能しないと、歩く、走るといった日常動作にも支障を来し、腰痛やひざ痛、股関節痛など、さまざまな体の痛みを引き起こします。その理由を説明しましょう。
足は左右合わせて52本の骨から構成され、強固な靭帯で結ばれています。これらの骨と筋肉、靭帯で形作られているのが、足裏の「前方アーチ」「外側アーチ」「内側アーチ(土踏まず)」の三つのアーチです。

足指がきちんと使えている人は、しっかりとした「3つのアーチ」がある。
いずれも緩やかな半円形状をしていて、体重を支え、衝撃を吸収するクッションの役割があります。
この足裏のアーチの形成に欠かせないのが、足指です。足指をきちんと使うことで、足裏の筋肉が発達し、しっかりとしたアーチができます。
逆に、足指がきちんと使えていない人は、三つのアーチが崩れます。すると、体重の負荷や地面から伝わる衝撃を足で吸収しきれず、腰やひざ、股関節などに大きな負担がかかります。
また、足指をしっかり使える人は、指先からかかとまで足の接地面積が広いため重心が安定し、まっすぐ正しい姿勢で立つことができ、前後左右に移動するときもふんばりがききます。
一方、足指の機能が衰えている人は、姿勢が悪くなり、ふんばりもききにくくなります。
悪い姿勢の代表格であるネコ背と反り腰も、足裏のアーチの崩れが一因になっていることがあります。足指が床に着かない「浮き指」や、足指が曲がったままの「かがみ指」になると、重心がかかと寄りになります。
すると、体は後ろに倒れないように、重い頭を前に出してバランスを取ろうとします。これがネコ背です。反り腰も、かかと寄りの重心を、胸を張って腰を反らせることで補おうとするためになる姿勢です。
こうした姿勢の崩れは、背骨や骨盤などにかかる負担を増大させて、筋肉の慢性疲労にもつながり、腰痛や肩こり、頭痛などを引き起こします。
足指を動かすことで末端から血流を改善
それだけではありません。一見、足とは無関係のように思える高血圧や便秘、冷え症、むくみ、不眠といった症状も、実は足指がうまく使えないのが要因の場合も少なくないのです。
実際、私のクリニックの患者さんには、足指の機能を回復するトレーニングを実践して、高血圧が改善した人が何人もいます。
ある患者さんは、来院当初は最大血圧が140mmHgを超えていましたが、足指を伸ばしてかがみ指が改善したところ、2週間後には120mmHgに、1ヵ月後には110mmHgに下がりました(最大血圧の基準値は140mmHg未満)。
高血圧には、血行の悪さや血管の状態が大きく影響します。血行が悪いと、心臓が血液を押し出すとき、血管にかかる圧力(血圧)も高くなります。
特に、心臓から最も遠い足指の血行が悪ければ、心臓に戻る血液の流れが滞り、全身の血行も悪くなります。足指をしっかり動かせることは、体の末端から血行をよくするために大事です。
加えて、足指がきちんと使えるようになれば、姿勢がよくなります。体の痛みが出にくくなり、楽に動けるようになるので、自然と運動量も増えます。これらの相乗効果が、高血圧に好影響をもたらすのです。
足指の機能が回復し、足先から血行がよくなれば、冷え症やむくみも解消します。足が冷えて眠れないこともなくなり、質のよい睡眠がとれるようになるでしょう。
また、背中が丸まったり、骨盤が後ろに傾いたりすると、内臓が下に落ち込んで腸の働きが悪くなります。足指のゆがみを正してネコ背や反り腰といった悪い姿勢が改善すれば、腸の働きもよくなります。便秘をはじめ、腸の不調の改善にもつながるわけです。
このように、足指を正しく使うことは、全身の健康に深くかかわってきます。
特に高齢者にとっては、寝たきりの大きな原因となる転倒や骨折を防ぐ意味でも、しっかりとふんばれるように足指を鍛えておくことは重要です。
次項から、私のクリニックで指導している、足指の機能をよくするストレッチをご紹介します。ぜひ参考にしてください。
現代人の足指は曲がったまま固まりがち
私のクリニックでは、足指がきちんと使えていない患者さんたちに「ゆびのば体操」を指導しています。これは名前のとおり、足指を広げて伸ばすストレッチです。やり方は下項をご参照ください。
ゆびのば体操は、知人の保育士さんから「子供たちの足が発育不良で変形していてよく転ぶうえ、跳んだり走ったりがうまくできない。なんとかしてあげたい」と相談を受けたのをきっかけに、考案しました。
私たちの足指は、しっかり広げ伸ばして立つ、地面を蹴る、ふんばるなどの動きを、日常動作でくり返すことによって鍛えられ、足裏のアーチ(前項参照)も強化されていきます。
しかし現代人は、ストッキングや靴下、靴で何重にも足を締めつけて、足指をろくに動かさない生活を送っています。
しかも、指はもともと握る動作を行うために発達した器官なので、力を抜くと自然と曲がるようにできています。足指を動かさずに放っておくと、曲がったまま固まってしまいます。
縮こまって固まった足指を本来の状態に戻し、正しく使えるようにするためには、まず、足指を広げて伸ばすことが必要です。
ゆびのば体操は、足指を骨折している人やリウマチで変形がひどい人、重度の外反母趾で足指のつけ根の関節が脱臼している人以外は、子供から高齢者まで、誰でも行えます。座ったままできて、両足をじっくり行っても3分で終わります。
しかし、その効果は絶大です。その場で目に見えてわかる効果は、姿勢がよくなり、両足でしっかり立てて、ふんばりがきくようになります。小柄な女性が、体重73kgの私を背負ってもビクともしないほどです。
保育園児では、その場で跳び箱が跳べるようになったり、縄跳びを跳ぶ回数が飛躍的に増えたりと、運動能力が大幅に向上しました。足指が伸び、まっすぐ立てれば、握力、ジャンプ力、柔軟性、背筋力など、体が本来持つ力を取り戻せるのです。
毎日ゆびのば体操を続けると、日常動作のなかで足指を正しく使えるようになります。そして、姿勢がよくなり足腰の負担が軽減して、痛みが改善していきます。
私の指導した患者さんでは、腰がエビのように曲がっていたのに、ゆびのば体操で背すじがシャンと伸び、杖なしで歩けるようになった人がいます。脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニア、変形性ひざ関節症などで、手術が必要といわれていた人たちも、足腰の痛みが消え、手術を回避できたケースが続出しています。
そのほかにも、原因不明の足のしびれや、外反母趾の痛み、巻き爪、肩こり、頭痛、顎関節症、高血圧、冷え症、むくみ、便秘、不眠の改善など、さまざまな効果が見られます。
自律神経を整える「爪もみ」もおすすめ
ゆびのば体操と併せてお勧めしたいケアが、足指の爪辺りをもむ「足指の爪もみ」(やり方は下項参照)です。
ゆびのば体操も同様ですが、足指の爪もみは、特に足の指先にある末梢の血管を拡張し、足先の血流をよくします。足先からポカポカと温まり、冷え症が改善し、寝つきがよくなるほか、全身の血行がよくなるので血圧も下がります。
また、足指の爪がもろい人は、足先の血流が悪くなっています。足指の爪もみを習慣にして血行が改善すれば、爪も丈夫になっていきます。
東洋医学の観点では、爪の生え際には、自律神経のバランスを整えるツボがあります。
足指の爪もみで自律神経のバランスが整えば、頭痛、不眠、めまい、動悸、倦怠感といった自律神経失調症の改善や、胃腸の不調の改善、免疫力アップなども期待できるでしょう。
私のクリニックでは最近、「久しぶりに歩いたら足が痛くなった」「靴をはくと足指が痛い」といった、足の痛みを訴えて来院する患者さんが目立って増えています。これは、コロナ禍で外出の機会が減り、運動量が激減したことが関係しているようです。
ワクチン接種が進み、健康のためにウォーキングや外出を再開しようと考えている人は多いでしょう。しかし、足指が動かないまま運動をすると、ケガや故障を招きかねません。まず、足指を整えてから、体を動かすようにしましょう。
足や体に痛みがある人や不定愁訴を抱えている人は、次項でやり方を詳しく紹介しているゆびのば体操や足指の爪もみを習慣にして、改善や予防にぜひ役立ててください。
ゆびのば体操のやり方
ポイント
●足指を広げようとして、無理に力を入れない。卵を握るように、ふんわりとやさしく握るのがコツ。
●朝起きたとき、外出前と帰宅後、寝る前など、細切れに数回に分けて行うと効果的。特に帰宅して靴を脱いではだしになったときがお勧め。分けてできないときは、朝の起床時に行うとよい。

❶イスか床に座って、右足を左足の太ももの上にしっかり乗せる。

❷右足の親指(母趾)と人差し指(第2趾)の間に左手の親指を入れ、残りの左手の指を順に右足の指の間に入れていく。足指の根もとにはすき間を作り、ふんわりとやさしく握る。

足指の根もとにすきまを作り、力を入れずに握る

❸右足の指を足の甲側にゆっくりと30度くらい曲げ、足の裏側をやさしく伸ばして5秒キープする。足の親指は、手の母指球で押す。

足指を曲げる角度は30度程度

❹右足の指を足の裏側にゆっくりとできるところまで曲げ、足の甲側をやさしく伸ばして5秒キープする。
❺さらに9回、③~④を交互に行う(計10回)。
❻左右を入れ替えて、①~⑤を行う。
「足指の爪もみ」も併せて行うと効果的!

上の①と②を行ったあとに、挟み込んだ手の指で足の指を握るようにもむ。軽く力を入れて5秒締めたあと、5秒緩める。これを10回くり返す。同様に逆足でも行う。ゆびのば体操と併せて行ったり、起床後と就寝前の1日2回行ったりするのがお勧め。

この記事は『壮快』2021年12月号に掲載されています。
www.makino-g.jp