解説者のプロフィール

白井天道(しらい・てんどう)
西住之江整体院院長。YouTube総再生回数600万回の超人気整体師。鍼灸師。著書に『寝ながら1分! 脊柱管狭窄症を自分で治す本』『タイプ別診断で寝ながら治す脊柱管狭窄症』(ともにSBクリエイティブ)が発売中。
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反り腰が脊柱管内の血流を悪くする
腰の脊柱管狭窄症と「反り腰」の関連は、見過ごすことができません。
反り腰とは何かを詳しく解説する前に、まずは背骨(脊椎)の構造から説明します。私たちの背骨は、椎骨という骨がいくつも積み重なって連結し、構成されています。
脊椎は通常、ゆるやかなS字カーブを描いています。そのうち、腰の部分の5つの脊椎の骨を「腰椎」と呼びます。この腰椎は、体の前方に向かって張り出すカーブ(前弯)を描いていますが、前弯が強くなり過ぎると、反り腰になるのです。
反り腰、つまり腰椎の前弯が強くなると、脊柱管(椎骨内のトンネルのような空間で、脊髄などが通っている)が狭くなって、中を通る神経が圧迫されてしまいます。
反り腰になると、神経だけでなく、血管も圧迫され、その部分の血流が悪くなります。
それが、痛みやしびれ、間欠性跛行(歩くうちに足に痛みやしびれが出て歩けなくなるが、少し休むとまた歩けるようになる症状)を引き起こします。
皆さんも、正座をしていて足がしびれたことがあるでしょう。あれは、ひざから下に体重がかかって床に押し付けられ、神経や血管が圧迫されて起こります。脊柱管狭窄症は、同じことが腰で起こっているので、間欠性跛行のような症状が現れるのです。
このように、間欠性跛行の多くは反り腰が引き起こします。
反り腰かどうかは、自分で簡単にチェックできます。
壁に背中を合わせて立ち、「かかと」「お尻」「肩甲骨」「後頭部」の4ヵ所を壁に付けます。このとき、腰と壁の間にこぶし一個分以上の隙間ができるようなら、反り腰です。ただし、高齢で普段から背中が丸くなっている人は、この方法で判断するのが難しいこともあります。
反り腰が起こる原因として多いのは、体の前面と背面についている、背中とおなかの筋肉のバランスがくずれることにあります。バランスがくずれる原因はさまざまですが、例として姿勢の癖などが挙げられます。
その他にも、股関節前面の筋肉が硬くなって縮こまり、骨盤が前方に傾き、それに伴い腰の反りが強まることもあります。
女性の場合は、ヒールの高い靴をはくことが反り腰の原因となることも少なくありません。ヒールをはくと、足の前方に体重がかかりやすく、前傾姿勢になりがちです。すると、やはりバランスを取ろうと、腰を反らせることになるのです。
足の重みを使ってゆっくりと筋肉をほぐす
こうしたバランスのくずれを正すのに有効なのが、今回ご紹介する「大腰筋ほぐし」です。
大腰筋とは、背骨の下部から股関節の内側につながっている筋肉のことです。歩くときに足を持ち上げたり、股関節や背骨を安定させたりする働きがあるのですが、運動不足や血流の低下などの状態が続くと、硬く縮んでしまいます。
すると、腰の骨が前方に引っ張られ、結果的に腰を反らせることになります。それを防ぐために、大腰筋をほぐして伸ばし、腰の反りを解消することが大切になるわけです。

硬く縮こまった大腰筋をほぐすことが大切
大腰筋ほぐしは、あおむけの姿勢で股関節から片足を曲げて上げ、ひざを伸ばしつつ、ゆっくりと下ろしていく動作です。筋肉をグイグイ引っ張って伸ばさないようにするというのが、ポイントになります。
力まかせに体を倒す前屈などのストレッチ動作は、筋肉を引っ張って伸ばすので、関節に負担がかかります。そのため、ケガの恐れもあります。
しかし、大腰筋ほぐしは足の重みを使ってゆっくりと筋肉をほぐす動きなので、そうした心配がなく、高齢の方でも安心して取り組んでいただきやすい方法です。
大腰筋ほぐしを継続して行うことで、腰前後の筋肉のバランスが取れるようになり、次第に普段の姿勢も改善します。それに伴い、脊柱管狭窄症の症状も緩和していきます。
私が指導した間欠性跛行の方たちは、大腰筋ほぐしを続けることで、徐々に歩ける距離が伸び、歩行時間も長くなっています。多数の方々が、3ヵ月程度で生活に大きな支障がないほどに改善しています。
軽度の症状の方であれば、2~3回やっただけで、「腰痛がらくになった」「歩きやすくなった」ということもあります。ただ、やはり継続が大事ですから、なるべく毎日、朝と夜の1日2回くらい行っていただくのがいいでしょう。
なお、脊柱管狭窄症によるしびれなどの症状は、神経が圧迫されている箇所によって、体の片側だけに出ることがあります。大腰筋ほぐしは、足ではなく、反り腰を治すことを目的としているので、そういった場合であっても、必ず左右両足で行ってください。
大腰筋ほぐしのやり方
●痛みやしびれが片側だけであっても、必ず両足行う。
●起床時と就寝前の1日2回行うようにする。
●足は5秒かけて下ろすこと。早過ぎると大腰筋がうまく伸びない。

❶あおむけになって、両手で片足を抱えて、軽く胸の方に引き寄せる。

❷①のまま、反対の足を上げてひざを曲げ、足の付け根とおなかの角度が90度になるようにする。

❸で上げた足はそのままで、②で上げた足をかかとが床につくまでゆっくりと下ろして、①の状態に戻る。股関節から指先まで伸ばすイメージ。下ろすまでの目安の時間は5秒。
①~③を10回くり返したら、反対の足でも同様に行う。

ひざが痛い人は、太ももの裏側をつかむようにして行う。

体が硬い人は、できる範囲の動作で構わない。

この記事は『安心』2021年11月号に掲載されています。
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