解説者のプロフィール

三浦恭志(みうら・やすし)
東京腰痛クリニック院長。名古屋大学医学部大学院卒業。医学博士。日本整形外科学会専門医。あいちせぼね病院理事。日本整形外科学会脊椎脊髄医、日本整形外科学会脊椎内視鏡下手術・技能認定医、日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科指導医、脊椎脊髄外科専門医、日本PED研究会世話人。監修書に『図解 専門医が教える脊柱管狭窄症を治す最新治療』(日東書院)がある。
▼東京腰痛クリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
負担も危険性も少なくなっている
脊柱管狭窄症に対し、薬物療法やブロック注射(痛みのある神経付近に局所麻酔薬を注射して痛みを取る治療法)、装具(コルセット)の使用、リハビリなどの保存療法を行っても、十分な効果が得られず、生活の支障が大きい場合は、手術を検討することになります。
また、排尿障害、排便障害、下半身のマヒなどがある場合は、早急に手術が検討されます。
主な手術法は、脊柱管を広くして神経への圧迫をなくす「除圧術」です。
肥厚した靭帯、突出した椎間板(背骨を構成する椎骨と椎骨の間の軟骨)、トゲ状の骨(骨棘)など、脊柱管を狭くする原因となっている物を取り除いて、神経の通り道を広くする手術法で、「脊柱管拡大術」とも言います。
最近の脊柱管狭窄症の手術は、昔に比べてかなり低侵襲(体に与えるダメージが少ないこと)になってきています。
かつては、背中を大きく切開して行っていた脊柱管拡大術を、最近は、小さな切開部からメスなどの器具を挿入して行ったり、細い管状の内視鏡を挿入して行ったりするようになってきたのです。
こうした低侵襲手術には、以下のようなメリットがあります。
①体への負担が少ない。
②出血量が少ない。
③手術時間、入院時間が短くて済む。
④術後感染などのリスクが抑えられる。
これらにより、術後の回復も早く、早期からリハビリを開始できます。
低侵襲手術にもいろいろな術式があり、患者さんの状態や希望、その医療機関の方針などによって選択されます。
ちなみに、当院で最も多く行っている脊柱管拡大術は、内視鏡を使わずに、小さい切開部から器具を挿入して行う低侵襲手術です。
この場合、目安としては、術後6時間で安静が解除され、普通に立って歩けるようになり、翌々日には退院できます。1週間程度で傷の痛みが消え、通常の生活ができるようになります。
除圧術(脊柱管拡大術)の他、脊椎すべり症などがあって脊椎が不安定なときには、自分の骨や金属製の器具などを使って脊椎を固定する「脊椎固定術」が行われることもあります。
手術については、その内容や回復までの見通しなどを、主治医からよく説明してもらって検討しましょう。
なお、手術である以上、危険性は必ずあります。しかし、一般的な意味では、脊柱管狭窄症の手術は、著しく危険性が高いわけではありません。
保存治療だけでは生活の支障が大きいときは、漠然とした恐れから手術を敬遠するのではなく、脊椎の専門医に相談し、十分に説明を受けた上で検討するとよいでしょう。
脊柱管狭窄症で手術が必要になるケースは?
①保存療法を行っても十分な効果が得られない場合
→生活への支障が大きい場合は、手術が検討対象となる。
②排尿障害や排便障害、下半身のマヒがある場合
→神経への圧迫が強いため、早急な手術が勧められる。
主な手術の方法は?
除圧術(または脊柱管拡大術)
→脊柱管を広くして神経への圧迫をなくす手術。最近は小さな切開部から器具や内視鏡などを挿入して行う、体への負担の少ない手術が主流となっている。
術後はどうなる?
翌日から歩行訓練やリハビリを行う
→医学的な問題がなければ、手術の翌日からリハビリを行う。手術の方法などにもよるが、手術の翌々日に退院、1週間程度で痛みが消えて、普通の生活ができるケースもある。
術後に気になる症状があれば早めに相談を
術後は、医学的な問題がなければ、通常、翌日から、理学療法士の指導による歩行訓練やリハビリが開始されます。
筋力や体力は、術後2~3日寝ているだけでも衰えてくるので、現在は、翌日から始めるのが一般的となっています。 歩行訓練やリハビリ指導をしっかり受け、退院後も指導に従って自宅でリハビリを継続しましょう。
なお、残念ながら、手術後にも痛みが残ってしまう患者さんが、少数ですがいます。
神経が圧迫されるだけでなく、すでに神経自体が傷ついていると、手術で脊柱管を広くしても、痛みが残ることがあるのです。
このような場合は、神経性の痛みを取る薬物療法や、神経の働きをよくするビタミンB12剤などを用いたり、神経ブロック注射を行ったりしながら、神経の回復を待ちます。
運動で腹筋や背筋を鍛えることも、脊椎の負担を減らして、残った痛みを軽減するのに役立ちます。
[別記事:脊柱管狭窄症の予防や改善には筋力強化も大切!お家で簡単にできるトレーニング→]
脊柱管狭窄症の手術後には、他にも以下のような症状が起こる場合があります。
●こむら返り
筋肉をコントロールする神経の働きが悪い場合に起こる症状です。寝る前にたっぷり水分をとるようにし、こむら返りが起こったら、足の指を強く手前に引っ張るようにしましょう。
●足裏のしびれ
じっとしていても足の裏にジンジンするようなしびれが起こることがあります。薬物療法や温熱療法などで改善を図ります。
●腰痛
椎間板ヘルニアや脊椎すべり症などを併発している場合に起こりやすくなります。温熱療法、電気刺激療法、生活改善など、慢性腰痛の治療を行います。
この他、筋力低下、吐き気、頭痛、排泄障害などが見られることもあります。術後に気になる症状があるときは、早めに主治医に相談しましょう。

この記事は『安心』2021年11月号に掲載されています。
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