脊柱管狭窄症は、MRIなどの画像検査と症状の出方は必ずしも一致しないので、あくまでも症状の出方が重要で、それに応じた対策や治療を行うことになります。 多くの場合慢性的に進んでいく病気だけに、生活のしかた次第で痛みやしびれなどの症状を上手にコントロールすることもできます。【解説】三浦恭志(東京腰痛クリニック院長)

解説者のプロフィール

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三浦恭志(みうら・やすし)

東京腰痛クリニック院長。名古屋大学医学部大学院卒業。医学博士。日本整形外科学会専門医。あいちせぼね病院理事。日本整形外科学会脊椎脊髄医、日本整形外科学会脊椎内視鏡下手術・技能認定医、日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科指導医、脊椎脊髄外科専門医、日本PED研究会世話人。監修書に『図解 専門医が教える脊柱管狭窄症を治す最新治療』(日東書院)がある。
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脊柱管が狭くなり多種の症状が起こる病気

足腰の痛みやしびれを起こす病気にはいろいろありますが、近年、高齢者に増えているのが「脊柱管狭窄症」です。

私たちの体を支えている背骨は、脊柱とも呼ばれ、椎骨という短い骨が24個つながってできています。椎骨の前方には缶詰のような形をした椎体、後方には突起を持つ椎弓があります。

椎体と椎弓の間には、縦方向に穴があいているので、椎骨がつながることで、背骨の内部にはトンネル状の長い穴ができます。これを脊柱管と呼びます。

画像: 脊柱管が狭くなり多種の症状が起こる病気

脊柱管の中には、脳から続く中枢神経(全身にある末梢神経を統括・支配する神経)である脊髄が通っています。 脊髄からは、末梢神経が枝分かれし、椎骨の突起の隙間から出ています。この枝分かれした部分を、神経根と呼びます。

腰部では、神経根が束になって脊柱管の最下部を通り、下半身につながっています。束になった様子が馬の尻尾に似ているので、これを馬尾神経といいます。

脊髄は、脳の指令を末梢に伝え、逆に末梢の情報を脳に伝えるという重要な役目を担っています。しかし、何らかの理由でその脊柱管が狭くなると、脊髄自体や神経根、その束である馬尾神経が圧迫され、さまざまな症状を起こします。これが脊柱管狭窄症です。

脊柱管狭窄症は、首や背中の部分の背骨にも起こりますが、多くは腰に起こる「腰部脊柱管狭窄症」です(首の場合は一般に頸椎症と呼ばれます)。

症状の出方に応じた対策や治療を行う

以下、主に「腰部脊柱管狭窄症」について述べます。

脊柱管が狭くなる最も大きな理由は、加齢変化です。加齢によって、脊椎には以下のような変化が起こってきます。

椎体の間でクッション役をしている椎間板が飛び出す。
椎弓をつなぐ黄色靱帯が肥厚する。
骨が変形してトゲのような出っ張り(骨棘)ができる。
椎体がずれる(脊椎すべり症)。

これらで脊柱管が狭くなることにより、脊柱管狭窄症が起こります。

腰を酷使する仕事やスポーツなどの影響を受ける場合もありますが、加齢変化が最大要因であるため、超高齢社会の日本で増えているのです。早い人では40~50代からみられ、60代以降は、年代が高くなるほど患者さんが増加します。

脊柱管の広さには個人差があり、生まれつき広い人は、加齢変化で狭くなっても症状が起こりにくく、もともと狭い人は、少しの変化でも症状が起こりやすい傾向があります。

ただし、MRI(磁気共鳴画像)などの画像検査で脊柱管が狭くなっていても、症状が出ない人もいます。画像検査と症状の出方は必ずしも一致しないので、あくまでも症状の出方が重要で、それに応じた対策や治療を行うことになります。

脊柱管狭窄症の症状で典型的なのが、間欠性跛行です。これは、歩いているうちに、足腰にしびれや痛み、脱力感が生じて歩けなくなり、休むとまた歩けるようになる症状です。自転車に乗ったり、カートを押して前屈みになったりしていると、症状が出にくいのも特徴です。

この他にも、下記のような症状が出ることがあります。

間欠性跛行
歩いているうちに、足腰にしびれや痛みなどが出て歩けなくなり、休むとまた歩けるようになる。最も代表的な症状。
足の痛み
ビリビリする鋭い痛みや、ジンジンとしびれるような痛みが出る。
足の脱力感・違和感
足の筋肉に力が入らないように感じたり、足の裏に何かがついているような違和感を覚えたりする。
感覚異常
足の裏や陰部が異常に熱く感じたり、冷たく感じたりする。
こむら返り
尿失禁、便失禁などの排泄障害
下半身のマヒ

治療は、一般的にはまず保存治療を行います。

これは、痛みを和らげる薬物治療やブロック注射(痛みのある神経付近に局所麻酔薬を注射して痛みを取る治療法)、脊柱管を支える装具(コルセット)の使用、リハビリ効果のある体操など、手術以外の治療法のことです。

保存治療を行っても、十分効果が得られず、日常生活の障害が著しいときは、手術を検討します。

ただし、排泄障害やマヒがある場合は、できるだけ早く手術を受ける必要があります。これらは神経の強いマヒによる症状で、放置すると、神経の働きが元に戻らなくなる恐れがあるからです。早急に専門医の診察を受けましょう。

らくだからと同じ姿勢を取り続けるのはNG

脊柱管狭窄症は、多くの場合、慢性的に進んでいく病気です。それだけに、生活のしかた次第で、痛みやしびれなどの症状を上手にコントロールすることもできます。

生活上の注意点として、最も重要なのは、神経を圧迫する姿勢を避けるということです。

脊柱管狭窄症には、前屈みの姿勢を取っていると、症状が軽減してらくになるという特徴があります。これは、前屈みになることで、狭くなった脊柱管が、多少広がるためです。

逆に、腰を反らした姿勢だと、脊柱管がより狭くなり、神経が圧迫されて、痛みやしびれが発症・悪化しやすくなります。

基本的に、座っているときよりは立っているときの方が、腰が反ります。さらに、歩くことで脊柱管への負担が増します。一方、立っているときでも、背中を丸めると、神経への圧迫が減ってらくになります。

ただし、らくだからといって、同じ姿勢ばかりを長く続けるのはよくありません。

偏った体の使い方によって、使わない筋肉の力が失われ、それ以外の姿勢が取りにくくなってくるからです。そうなると、立ち歩きなどの際、痛みやしびれがより強くなってしまい、生活の支障が大きくなります。

どんな姿勢であれ、長時間は続けないようにすることが大切です。仕事や何かの作業をする際にも、1~2時間程度を目安に姿勢を変えるように心がけましょう。

前屈みになって休むのがコツ

その上で、以下のようなことに気をつけましょう。

歩き疲れたら休む

特に高齢者の場合、歩くときはつえや歩行器を使用し、自分のペースで無理なくゆっくり歩きましょう。 歩いているうちに、足腰が痛んだりしびれたりしたら、がんばらないで立ち止まって休みましょう。

立ったままで少し前屈みになるだけでもよいのですが、できれば座って、前屈みになって休むのがコツです。脊柱管狭窄症では、多くの場合、それによって症状が軽減して再び歩けるようになります。

家の近くで散歩や買い物などに行くときは、どこにベンチがあるかを把握しておくと、座って休めるので安心です。また、座面付きのシルバーカーを使って外出すれば、どこでも自由に座れて便利です。

画像1: 前屈みになって休むのがコツ

神経を圧迫する動作を避ける

重い荷物を持ち上げるとき、立ったまま持ち上げると、腰が反って神経を圧迫してしまいます。しゃがんで荷物を引き寄せ、「よいしょ」と声を出すと同時に立ち上がりながら持ち上げましょう。

また、高いところにある物を下ろすとき、背伸びをして下ろすと、やはり腰が反ってしまいます。踏み台を利用すれば、腰に負担をかけずに荷物を下ろせます(安定した安全な踏み台を使ってください)。

掃除機を立ってかけることも、腰を反らせる原因になります。できるだけ座ってかけるようにしましょう。

画像2: 前屈みになって休むのがコツ

神経をリラックスさせる方法を取り入れる

炊事などで立ち仕事をするときは、片足を踏み台に乗せると、腰椎の神経がゆるんで、リラックスできます。踏み台に乗せる足は、ときどき換えると、なおよいでしょう。

いすに座るときは、深く腰かけ、腰が反り過ぎず、かといって背中が丸まり過ぎないように、腰にタオルなどを当ててサポートすると、足腰がだるくなったり痛んだりするのを防ぐことができます。

あおむけになるときは、ひざの下に枕やクッション、座布団などを入れることで、腰の負担が軽くなり、痛みを防ぐことができます。

画像3: 前屈みになって休むのがコツ

冷やさないようにする

一般に、急性疾患では冷やすことが、慢性疾患では温めることが効果的です。

脊柱管狭窄症は慢性疾患なので、温めることが症状の軽減につながります。お風呂などでじっくり温まると、脊柱管周りの筋肉がゆるんで、痛みを和らげるのに役立ちます。

逆に、冷やすことは症状を悪化させる一因になります。特に寒い時期は、足腰を冷やさないように気をつけましょう。お風呂で温まる他、暖房や保温効果のある衣服、カイロなどを利用して冷えを防ぎましょう。

画像: この記事は『安心』2021年11月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年11月号に掲載されています。

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