今、あなたのくちびると舌の位置はどうなっていますか? くちびるの間に隙間があり、舌が上あごについていない方は、鼻ではなく口で呼吸をしている可能性が大です。そして、この口呼吸が、さまざまな病気の元凶なのです。【解説】今井一彰(みらいクリニック院長)

解説者のプロフィール

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今井一彰(いまい・かずあき)

みらいクリニック院長。1995年山口大学医学部卒業。内科医。東洋医学会漢方専門医。NPO法人日本病巣疾患研究会副理事長。息育、口呼吸問題の第一人者として全国を周り、講演を行っている。あいうべ体操、ゆびのば体操を考案。『免疫を高めて病気を治す口の体操「あいうべ」』『1日4分でやせる!ゆるHIIT』(ともにマキノ出版)『世界一簡単な驚きの健康法 マウステーピング』(幻冬舎)など著書多数。
▼みらいクリニック(公式サイト)

鼻は高性能の加温・加湿・空気清浄装置

今、あなたのくちびると舌の位置はどうなっていますか? くちびるの間に隙間があり、舌が上あごについていない方は、鼻ではなく口で呼吸をしている可能性が大です。

そして、この口呼吸が、さまざまな病気の元凶なのです。

鼻は高性能の加温・加湿・空気清浄装置です。副鼻腔まで含めた鼻腔の全面積は、なんと新聞一面分もあります。空気は、鼻腔・副鼻腔を通る間に、十分に加湿されるとともに、体温近くまで急速に温められます。

さらに、空気中に含まれている菌やウイルス、ほこりなどを鼻毛や粘膜にくっつけて、排除する仕組みも備わっています。

一方、口にはそうした仕組みがありません。ですから外部の乾燥して冷たく汚れた空気が、そのまま取り込まれてしまいます。病原菌・ウイルスも侵入しやすいため、カゼやインフルエンザ、さらには新型コロナなどの感染症にもかかりやすくなります。

また、口呼吸をしていると、口内が乾燥しやすく、唾液によるバリア機能が低下して、歯茎(歯周病)やのどの奥に慢性炎症を起こしやすくなります。

慢性炎症を起こすと、その病巣からダラダラと垂れ流される炎症性サイトカイン(細胞同士でやりとりするための生理活性物質)や、菌、菌が産生した毒素が、血液に乗って全身を巡ります。すると、本来、体を病原菌などから守る仕組みである「免疫」に異常が起こります。

その結果、自己免疫疾患(アトピー性皮膚炎、掌蹠膿疱症、乾癬、ぜんそく、アレルギー性鼻炎、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎など)や、腎臓病(IgA腎症、腎炎)を引き起こすことになります。

私たちは1日に2万回も呼吸をしています。そのため、呼吸を鼻で行うか、口で行うのかで、健康度は大きく左右されるのです。

人間は生まれたときには皆、鼻呼吸です。しかし、物心がつく頃に、鼻づまりなどをきっかけに口呼吸をしてしまうと、そのまま習慣として残ることがあります。

肥満や加齢も、口蓋垂(いわゆる、のどちんこ)付近や、舌の筋力が低下しやすくなるため、口呼吸あるいは口鼻呼吸(鼻から吸って口から吐く、または口から吸って鼻から吐く呼吸)が増える要因になります。

就寝中の「口呼吸」が睡眠の質を下げる

さらに、鼻を使うと深くゆっくりとした呼吸になりますが、口だと浅くて速い呼吸になることが、実験で判明しています。

呼吸は、意志とは無関係に内臓などをコントロールしている自律神経と密接な関係があります。浅くて速い口呼吸では、活動をつかさどる自律神経である交感神経が優位になり、肩こりや頭痛、倦怠感などが起こりやすくなってしまいます。

また、通常、睡眠中は休息をつかさどる副交感神経が優位になっています。副交感神経が優位な状態では、血管は拡張し、血圧が下がります。

ところが、睡眠不足はもちろんのこと、睡眠の質が悪いと睡眠中に十分に血圧が下がりません。それが、高血圧の原因になっている可能性もあるのです。

睡眠の質を低下させる原因として、私が注目しているのは、就寝中の口呼吸です。

自分は鼻呼吸をしていると思っている人でも、寝ている間の呼吸は自分ではわかりません。しかし、イビキをかいていると指摘されたり、朝起きたときにのどがカラカラだったり、口の中が粘ついたりしている人は、睡眠中に口が開き、口呼吸をしている可能性が高いでしょう。

就寝中は、全身の筋肉から力が抜けています。口の周りの筋肉や舌も例外ではなく、口が開きやすくなり、上向きで寝ていると、舌の根元がのどへ落ち込みやすいのです。

すると、気道が狭まり、空気の通りが悪くなるので、イビキをかいたり、呼吸が一時的に止まる睡眠時無呼吸症候群になったりします。実際、降圧薬では改善しにくい高血圧には、睡眠時無呼吸が関係していることが多いとわかっています。

口呼吸が原因で引き起こされる病気

のど・口腔内の慢性炎症が飛び火▶︎
腎臓病(急性腎炎、進行性腎炎、IgA腎症)皮膚病(乾癬、多形滲出性紅斑、アトピー性皮膚炎、掌蹠膿疱症、結節性紅斑、アレルギー紫斑など)、膠原病(皮膚筋炎、関節リウマチなど)、その他(ぶどう膜炎、非アルコール性脂肪肝炎、虫垂炎、甲状腺炎、気管支炎など。

唾液によるバリア機能の低下▶︎
空気・飛沫感染する感染症、歯周病、誤嚥性肺炎のリスク増大。

自律神経バランスのくずれ▶︎
高血圧、頭痛、倦怠感、肩こり、不眠など。

意識できない就寝中も自然と「鼻呼吸」になる

では、口呼吸、特に自分で意識的に改善しにくい就寝中の口呼吸を鼻呼吸にするためには、どうすればいいでしょうか。

私が患者さんたちにセルフケアとして勧めているのが、就寝時の「口テープ」です。口呼吸が原因で起こる多くの病気で、顕著な改善を確認しています。

上下のくちびるを閉じたまま、縦に医療用テープをはることで、口が開かなくなり、自然に鼻呼吸が促されます。

基本のはり方は縦に一本です。このはり方だと、くしゃみやセキなどで急に呼気を出す必要がある場合には、口の横側の隙間から空気を逃がせるので、耳(鼓膜)に負担がかかりません。口呼吸に慣れ過ぎていて不安な人は、最初のうちは起きている間に口にテープをはって過ごしてみるとよいでしょう。

飲食や会話の必要がなければ、起きているときにもはっていてもなんの問題もありません。マスクの下ならテープをはっていることにも気付かれないので、お勧めです。

合わせて、「あいうべ体操」(大きくゆっくり「あー」「いー」「うー」「べー」の形に口を動かし、ベーで舌を出す体操。1日30回が目安)を行うと、さらに効果が高まります。

口テープのはり方

【注意】
5歳未満の子どもには行わない。
◎初回は起きている間に口テープをはって過ごし、呼吸に問題がないことを確認してから、就寝時に行うと安心。
◎肌が荒れやすい人は、はる位置を少しずつずらすとよい。

【使用するテープ】
伸縮性のない医療用テープ(サージカルテープ、ばんそうこうなど)。12mm程度の幅のテープが使いやすい。肌に優しい粘着剤を使用した、かぶれにくいものがお勧め。

画像1: 口テープのはり方

【はり方】
サージカルテープを4~5cmの長さに切り、くちびるを閉じた状態で縦に鼻の下とあごにはる。

画像2: 口テープのはり方

基本は中央に縦に1本でよいが、口が開きやすい人は、下図のように2本はるとよい。

画像1: 【口テープのやり方】自然と「鼻呼吸」になり睡眠の質がアップ  感染症の予防や自律神経の調整におすすめ

テープが1本だと横から空気がもれやすい人は、中央を空けて2本はる

画像2: 【口テープのやり方】自然と「鼻呼吸」になり睡眠の質がアップ  感染症の予防や自律神経の調整におすすめ

明らかに口が開いている人は✖印を書くように2本はる

画像: この記事は『安心』2021年11月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年11月号に掲載されています。

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