解説者のプロフィール

青江誠一郎(あおえ・せいいちろう)
大妻女子大学家政学部食物学科教授。1989年、千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。雪印乳業技術研究所を経て、2003年に大妻女子大学家政学部助教授に就任。07年より現職。日本食物繊維学会理事長。2010年、「大麦の食物繊維とメタボリックシンドローム予防に関する研究」で、同学会の学会賞を受賞。著書に『最強! 毒出しごはん』(アスコム)、監修書に『もち麦でやせる! 元気になる!』(主婦の友社)などがある。
今いる有用菌を活発化し短鎖脂肪酸を増やす
テレビで話題沸騰中の「発酵性食物繊維」に、今、熱い視線が注がれています。
これまでの食物繊維は、主に水に溶ける水溶性と、水に溶けない不溶性の二つで分けられていました。発酵性食物繊維は、それとは異なる観点から分類されたもので、腸の中で発酵する食物繊維全般を指します。
具体的には、従来の水溶性食物繊維の大半と、一部の不溶性食物繊維がこれにあたります。
発酵性食物繊維に注目が集まった背景には、腸内細菌の働きと、体全体の機能の関わりがわかってきたことがあります。その影響は全身にわたり、メタボリックシンドローム、アレルギー、免疫(病気に抵抗する働き)などに関係します。
腸内細菌を増やすには、新たな菌を食事でとればよいという考え方もあります。しかし、食べ物で菌を補充しても、長く腸の中にとどまりません。
そもそも、おなかの中には1000種類以上もの腸内細菌がいます。それらの菌、とりわけ善玉菌などの有用菌を活性化させることが、腸内環境の維持に必要なのです。
発酵性食物繊維は、有用菌のエサとして発酵・分解され、今いる菌を活性化させます。ちなみに、微生物による分解作用でも、人間に有益なものを発酵、有害なものを腐敗といいます。
発酵性食物繊維は、消化されないまま大腸に届き、有用菌に発酵・分解されて「短鎖脂肪酸」という有機酸を産生します。主なものは酢酸、プロピオン酸、酪酸で、このうちの酢酸とプロピオン酸は、腸から吸収されて全身を巡り、糖や脂肪の代謝改善などに関与します。
一方、酪酸は、大腸のエネルギー源になったり、免疫の暴走を抑えて炎症を抑制したりする働きがあります。
このような短鎖脂肪酸が増えれば、糖尿病、肥満、脂質異常症、リーキーガット症候群(腸もれ)の改善、免疫の正常化、慢性炎症の抑制、肌荒れ・吹き出物の解消などの健康効果が期待できます。それに加え、有用菌が活発化することで、結果的に腐敗が減って毒素が少なくなり、腸内環境もよくなります。
[別記事:やせホルモンの分泌を促し血糖値の上昇を抑制「オートミールの健康効果」→]
種類を変えてとると腸全体の菌が活性化
では、発酵性食物繊維をとるには、何を食べたらいいのでしょうか。それは、次のような成分を含む食材です。
◎水溶性食物繊維
β‐グルカン、ペクチン、イヌリンなどが該当します。大麦(押麦)やオーツ麦などの穀類、ゴボウやタマネギなどの根菜、キウイなどの果物に多く含まれます。ただし、合成された水溶性食物繊維(ポリデキストロース)はほとんど発酵しません。
◎不溶性食物繊維
全粒粉や玄米、小麦などの穀類の外皮(ぬかやふすま)は不溶性食物繊維ですが、中には発酵しやすい水溶性食物繊維(アラビノキシラン)がパックされています。その他、冷えたご飯やイモ類、アズキなどの豆類からできるレジスタントスターチ(難消化性でんぷん)にも、発酵する性質があります。
◎オリゴフルクトース
大豆や大豆食品などに含まれるオリゴフルクトース(オリゴ糖)も、腸でよく発酵する食物繊維です。
発酵性食物繊維を多く含む食品一覧
食品名 | 発酵性 食物繊維量 (g) | 主な発酵性 食物繊維の種類 |
穀類 | ||
えんばく オートミール | 3.2 | β-グルカン |
押麦ご飯 | 2.6 | β-グルカン |
大麦めん(ゆで) | 1.2 | β-グルカン |
小麦ふすま(小麦ブラン)* | 22.0 | アラビノキシラン |
玄米ご飯 * | 0.9 | アラビノキシラン |
そば(ゆで) | 1.8 | アラビノキシラン |
全粒粉 * | 5.8 | アラビノキシラン |
ライ麦粉 | 4.7 | アラビノキシラン |
いもおよびでん粉類 | ||
キクイモ | 0.5 | イヌリン |
サツマイモ(皮つき・生) | 0.9 | レジスタントスターチ |
ジャガイモ (皮つき・電子レンジ調理) | 1.9 | レジスタントスターチ |
豆類 | ||
アズキ(全粒・乾) | 8.3 | レジスタントスターチ |
ゆでアズキ缶詰 | 0.5 | レジスタントスターチ |
ゆで大豆 | 2.2 | オリゴフルクトース |
蒸し大豆 | 4.2 | オリゴフルクトース |
きな粉(全粒) | 2.7 | オリゴフルクトース |
豆乳 | 0.2 | オリゴフルクトース |
野菜類 | ||
えだまめ(ゆで) | 0.5 | オリゴフルクトース |
オクラ(ゆで) | 1.6 | ペクチン |
かんぴょう(ゆで) | 1.9 | ペクチン |
ゴボウ(ゆで) | 2.7 | イヌリン |
シュンギク(ゆで) | 1.1 | イヌリン |
大根(皮なし・ゆで) | 0.8 | ペクチン |
タマネギ | 0.4 | イヌリン |
チコリ | 0.2 | イヌリン |
ニラ | 0.5 | イヌリン |
ニンジン(皮つき・生) | 0.7 | ペクチン |
ブロッコリー(ゆで) | 1.0 | ペクチン |
果物類 | ||
温州ミカン | 0.2 | ペクチン |
アボカド | 1.7 | ペクチン |
レモン | 2.0 | ペクチン |
キウイフルーツ | 0.6 | ペクチン |
リンゴ(皮つき・生) | 0.5 | ペクチン |
キノコ類 | ||
エノキタケ | 0.4 | β-グルカン |
シイタケ | 0.8 | β-グルカン |
ナメコ | 1.0 | β-グルカン |
※『八訂食品成分表2021』(女子栄養大学出版部)より、編集部で作成。いずれも100g当たり。小数点第1位以下は四捨五入。
※発酵性食物繊維の算出方法 <AOAC2011.25法の場合>低分子量水溶性食物繊維+高分子量水溶性食物繊維+難消化性でん粉の合計値
<プロスキー変法の場合>水溶性食物繊維と同様の値(AOAC2011.25法の記載がない場合)
※「*」がついている食品は、アラビノキシランの文献値を引用
こうして見ると、発酵性食物繊維は茶色い穀類に多く、普段の食事でとりにくいことがわかります。これを効率よくとるには、主食に置き換えるのが一番。主食は毎日食べますし、一度にたくさんの発酵性食物繊維を摂取できるからです。
そこでお勧めしたいのが、オートミールです。オートミールは、オーツ麦(燕麦)を食べやすく加工したシリアルで、牛乳をかけて食べるのが一般的。
しかし最近では、おかゆやリゾットなど、ご飯のようにして食べる人が増えています。これに、発酵性食物繊維が多い食材を合わせることで、さらに効率よく摂取できます。
実は、発酵性食物繊維は、種類によって発酵する速度が違います。イヌリンやオリゴ糖は大腸の入り口近く、β‐グルカンやペクチンは大腸の中ほど、アラビノキシランは大腸の奥の方で発酵します。
そのため、腸全体の菌を活性化させるには、いろいろな発酵性食物繊維をバランスよくとることが大事なのです。
水溶性食物繊維
腸の入り口で発酵
【イヌリン】ゴボウ、チコリ、タマネギ、キクイモ、ニラなど
【オリゴフルクトース】蒸し大豆、ゆで大豆、きな粉、豆乳など
腸の中ほどで発酵
【β‐グルカン】押麦、大麦、オーツ麦(オートミール)、パン酵母、キノコ類など
【ペクチン】ブロッコリー、ニンジン、ミカン、リンゴ、キウイフルーツなど
不溶性食物繊維
腸の奥の方で発酵
【アラビノキシラン】小麦全粒粉、小麦ふすま(小麦ブラン)、発芽玄米など
【レジスタントスターチ】冷えたご飯、サツマイモなどのイモ類、アズキなどの豆類など
食べるタイミングは、朝が有効でしょう。腸内発酵は食後4〜5時間から始まり、18時間ほど続きます。朝食でとれば1日中効果が続き、短鎖脂肪酸も作られます。摂取量は、発酵性食物繊維を1日に5g(食物繊維全体で20g)とれるよう目指していただきたいと思います。
私の場合、朝はヨーグルトをかけたオートミールとシリアルを、夜は白米に大麦を3割ほどブレンドしたご飯をよく食べています。食物繊維はどんな食べ方でも変化しませんから、自由に食べるといいでしょう。
ただし、オートミールは水で膨らむので、食べ過ぎると胃がもたれる可能性があります。
また、腸が過敏な人は、食物繊維が急激に発酵したり短鎖脂肪酸が過剰に作られたりすると下痢をすることがあります。おなかがゆるくなる人は、量を少なくする、自分に合う食材を探すなどで対応してください。
[別記事:オートミール米化のやり方&アレンジレシピ→]

この記事は『安心』2021年11月号に掲載されています。
www.makino-g.jp