解説者のプロフィール

安藤秀哉(あんどう・ひでや)
1983年名古屋大学農学部卒業。博士(医学)。化粧品会社研究員、米国国立保健研究所(NIH)研究員、同志社大学准教授等を経て、2011年より岡山理科大学工学部バイオ・応用化学科教授(コスメティックサイエンス研究室)。シミ、シワ、たるみなど、皮膚の老化現象を予防・改善する薬用化粧品の研究を専門とする。
▼専門分野と研究論文(CiNii)
優れた抗酸化作用で紫外線から身を守る
私は、シミやシワなど肌の老化を防ぐ薬用化粧品の研究・開発を専門としています。
飲んだり食べたりすることで美容に役立つ成分は、実はいろいろあります。第3類医薬品に指定されているようなシミ・そばかす治療薬や、もっと効果が緩やかなビタミン類など。
コーヒーのポリフェノール(植物の色や苦みの元となる成分)も、その一つです。
私がコーヒーのもたらす美容効果に着目したのは、今から10年ほど前になるでしょうか。コーヒーには、薬理作用を持つ成分が数多く含まれます。なかでも興味を引かれたのは、前述したポリフェノールの、クロロゲン酸の働きです。
コーヒーの主な産地は、赤道付近に集中しています。太陽光による紫外線の強い地域です。
紫外線を浴びると、生体内に活性酸素が増えます。活性酸素は増え過ぎると細胞を傷つけるので、植物は自衛しなければなりません。そのために蓄えているのが、ポリフェノールです。
クロロゲン酸は優れた抗酸化作用で、紫外線から身を守っています。それなら、コーヒーを摂取すれば、私たちの肌も守られるのではないか。そう考えたのが、クロロゲン酸の機能性に関心を持ったきっかけです。
では、実際のところ、クロロゲン酸が美肌づくりに役立つのかどうか。本題に入る前に、肌にシミができるしくみについてお話ししましょう。
シミの原因となるメラニンは肌や髪、瞳の色を構成する、黒い色素です。肌の最も外側である表皮の底部で生成されます。
メラニン色素は本来、紫外線のダメージから肌を守るために作られる物質で、肌のターンオーバー(細胞の生まれ変わり)により排出されます。
けれども、肌の老化に伴い、部分的に排出が滞ったり、過剰に生成されたメラニンが表皮の大部分を占める角化細胞に受け渡されると、沈着します。それが、シミというわけです。
肌の潤いやくすみ解消も期待できる
そこで、クロロゲン酸の登場です。クロロゲン酸は、メラニンが表皮細胞で受け渡しされるのを抑制する働きがあります。
私たちは、表皮の角化細胞を人工的に培養した二つのフラスコに、メラニン色素を加える実験を行いました。一方は何も処理しないままで、もう一方にはクロロゲン酸を200μg/ml加えました。
結果、処理をしなかった細胞に比べて、クロロゲン酸を加えた細胞は、メラニン色素の取り込みが約40%も少なくなっていました。クロロゲン酸がシミ対策として有効に働くことが明らかになったのです。

A:メラニン色素を加えたのみで処理なし

B:メラニン色素とクロロゲン酸を添加 →Aに比べてメラニン色素の取り込みが約4割抑制された
また、コーヒーを飲まない人と、1日に2杯以上飲む人を比較した疫学調査のデータから、「コーヒーを多く飲むほうが、シミが改善される」という傾向が確認されています。
クロロゲン酸に期待できるのは、シミに対する効果だけではありません。
紫外線が当たった部位には活性酸素が発生しており、これがシワを深くする原因になります。クロロゲン酸の抗酸化作用は活性酸素の除去に効果的で、シワ予防にも役立ちます。
加えてクロロゲン酸は、抗炎症作用も持ち合わせています。炎症が長く続くと、肌の線維を分解する酵素が出てシワのもとになります。こうした点からもシワへの効果が期待できるでしょう。
炎症が早く治まり肌のキメが整えば、保水力が高まって、潤いもアップ。くすみの解消にもつながります。
クロロゲン酸は、リンゴやナシ、サツマイモなどほかの食材にも含まれています。とはいえコーヒーのクロロゲン酸含有量は、ほかと比べても高めです。物にもよりますが、150ml当たり50~300mg程度が含まれています。
コーヒー豆は、深煎りよりも浅煎りのほうが、やや含有量が多いようです。
毎日飽きずに手軽に、かつ効率的にとることを考えたら、クロロゲン酸はコーヒーで摂取するのがベストでしょう。医薬品ではないため、強い美容効果は期待できませんが、まずは継続することが肝心です。
先に述べた疫学調査では「多く飲むほうが効果的」との傾向が見られましたが、コーヒーにはカフェインなども含まれています。1日に3~4杯程度が、適切ではないでしょうか。
私も、もちろんコーヒーを飲んでいます。朝に多めに淹れてまず1杯飲んだら、水筒に入れて大学に持って行きます。砂糖なしの、ブラックが好みです。
コーヒーをおいしく楽しむうちに、シミやシワが改善されたなら、こんなにうれしいことはありませんね。

この記事は『壮快』2021年11月号に掲載されています。
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