解説者のプロフィール

栗原毅(くりはら・たけし)
1951年、新潟県生まれ。北里大学医学部卒業。栗原クリニック東京・日本橋院長。前慶應義塾大学大学院教授、前東京女子医科大学教授。「血液サラサラ」の名づけ親として有名。テレビ電話を利用し医療過疎地とつながり遠隔医療を行うなど、予防医学の実践者として活躍。共著に『病気を治したいなら肝臓をもみなさい』(マキノ出版)などがある。
▼栗原クリニック東京・日本橋(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
血糖値を下げ糖尿病リスクを下げる
「カフェモカ」というアレンジコーヒーをご存じでしょうか。エスプレッソというタイプのコーヒーに、チョコレートシロップを加えて作ります。苦みのきいた濃いコーヒーと、カカオの風味がよくマッチした甘いカフェモカは、喫茶店の定番メニューです。
私はもともと肝臓の専門医ですが、高血圧や糖尿病、肥満などの生活習慣病を含め、内科全般を診ています。ですから患者さんには、食事指導も必ず行います。糖尿病や肥満の場合、甘いお菓子、特に糖質のとり過ぎには注意が必要です。
しかし、そんな患者さんにも安心してお勧めできるスイーツのような飲み物があります。それが、「チョココーヒー」です。
とはいえ、私の勧めるチョココーヒーの場合、チョコレートシロップは加えません。チョコレートの選び方については後述しますが、カカオ分を多く含んだ、いわゆる「高カカオチョコレート」を使います。
一方、コーヒーはエスプレッソでなく、普通のコーヒーで十分。インスタントコーヒーでもOKです。
コーヒーに優れた健康機能性があることは、数多くの研究から明らかにされています。なかでも私が注目しているのは、糖尿病に対する効果です。
世界的に評価の高い医学雑誌「ランセット」で2002年に発表された、オランダの研究があります。
「コーヒーを1日に7杯飲む人は、1日2杯以下の人に比べて、2型糖尿病の発症リスクが半減する」というものです。2型糖尿病というのは、遺伝的要素が強い1型糖尿病ではない、主に生活習慣により発症する糖尿病を指します。
それに追従するように、各国から次々と、コーヒーが糖尿病に効果があるという研究結果が報告されました。日本でも九州大学で、コーヒーが糖代謝に与える影響が研究されており、1日5杯で、血糖値が顕著に下がることが判明しています。
チョコの脂質は肥満の原因になりにくい
また、私は肝臓が専門なので「コーヒーをよく飲む人は肝がんの発生率が低い」という、国立がん研究センターによる研究報告にも関心を持っています。
これは、国内のさまざまな地域に住む40~69歳の男女約9万人について10年近く追跡調査をした、信頼性の高い内容です。
この研究によると、コーヒーをほとんど飲まない人と比べ、ほぼ毎日飲む人では、肝がんの発生率が、約半分に減少しています。1日のコーヒー摂取量が増えるほど発生率が下がり、1日5杯以上飲む人では4分の1まで低下。
こうした効果は、カフェインではなく、クロロゲン酸など、コーヒーに含まれる別の成分が関与していると推測されています。クロロゲン酸は、コーヒーに含まれるポリフェノール(植物の色や苦みの元となる成分)の一種です。
血管や血液中の活性酸素は、老化や病気の原因物質ですが、ポリフェノールには、これを除去する抗酸化作用があります。血管や血液を若々しく保つことで、血圧と血糖値の安定に働きかけます。
そして、抗酸化作用といえばコーヒーに負けていないのが、チョコレートです。
私が勧めているのは高カカオチョコレートですが、高カカオというのは、「カカオポリフェノールの含有量が高い」という意味。
チョコレートもコーヒー同様に、世界中で研究が行われており、糖尿病や動脈硬化、高血圧、心筋梗塞や脳梗塞など多くの疾病に効果があることがわかっています。
実際、私がチョコレートを勧めた患者さんのなかにも、ヘモグロビンA1c(過去1~2ヵ月の血糖状態を示す指標)が下がったり、肝機能値が改善したりと、いい効果を得られたかたが多くいらっしゃいます。
カロリーを気にされる患者さんには、「チョコレートの脂質は体内に吸収されにくく、肥満の原因になりにくい」と説明すると、安心されるようです。
昨今はたくさんの種類の高カカオチョコレートが市販されており、コンビニやスーパーでも手軽に買うことができます。購入の際は、カカオ分が70%以上の品を選びましょう。
このように、多くの病気を撃退するチョコとコーヒーは、最強タッグです。皆さんもぜひ、チョココーヒーを、毎日の習慣として取り入れてください。
チョココーヒーの作り方

【材料】
・ホットコーヒー…1杯(120~150ml)
※ドリップした物でも、インスタントでもOK
・高カカオチョコレート…1片(10g程度)
※カカオ分が70%以上の物を使用
【作り方】
・コーヒーにチョコレートを加え、溶け残らないよう、よく混ぜる。
【飲み方】
・午前11時ごろ(昼食前)と、午後3時のおやつに、1日2杯程度飲むのがお勧め。
※ホットでもアイスでも、カフェイン抜きでもよい

この記事は『壮快』2021年11月号に掲載されています。
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