近年、NADという物質が老化のコントロールに関係しているとわかりましたが、NADそのものは細胞に取り込むことができません。そこで、ニコチン酸です。ニコチン酸は植物性のビタミンB3の物質名です。多く含まれる代表的な食品は、キノコやトウモロコシ、落花生、そしてコーヒーです。【解説】中川崇(富山大学学術研究部医学系分子医科薬理学講座教授)

解説者のプロフィール

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中川崇(なかがわ・たかし)

1999年、大阪大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院耳鼻咽喉科研修医。01年に大阪大学医学系研究科に入学、05年に博士課程修了。医学博士。同年より大阪大学医学附属病院耳鼻咽喉科医員。11年、富山大学に着任。16年、富山大学大学院医学薬学研究部(医学)病態代謝解析学講座准教授。19年、富山大学学術研究部医学系分子医科薬理学講座教授に就任、現在に至る。専門は病態医科学。
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ハーバード大が研究する若返り薬のキーワード

年齢を重ねても、老いに負けずに、いつまでも若々しくありたい。古今東西を問わず、誰にとっても切実な願いでしょう。私は、老化の制御システムを代謝という観点から解明すべく日々、研究を行っています。

これからお話しする内容は、専門的な用語が出てくるので、少し難しく感じられるかもしれません。結論からいうと、「コーヒーに含まれるニコチン酸という成分は、老化予防に効果がある」ということです。

では、なぜコーヒーが老化を防ぐのか、説明していきましょう。

健康に興味のある皆さんであれば、NADという単語を耳にしたことがあるかもしれません。

6年ほど前、「寿命はどこまで延びるのか」をテーマにした番組が、NHKスペシャルで放映されました。番組の中で「ワシントン大学とハーバード大学の研究者が、〝若返り薬〟の開発に取り組んでいる」という事例が紹介されたのですが、その研究のキーワードが、NADなのです。

NADは、人間の体内にある補酵素の一つで、酵素を働かせるのに重要な成分です。「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド」という長い名前で、英語表記の頭文字を取って、NADと呼ばれています。人間のエネルギー生成にかかわったり、傷ついた細胞を修復したりといった重要な役割があります。

NAD自体は、100年以上前に発見された、古くから知られる代謝物です。近年、このNADが、老化のコントロールに関係しているとわかりました。抗老化や長寿に関連する「サーチュイン遺伝子」という遺伝子があるのですが、NADはこの遺伝子の活性にも欠かせない物質だと判明したのです。

ただNADは、加齢に伴い、減少します。具体的には50歳くらいから、内臓や血液中、脳など体内のあらゆる部位で徐々に減少していきます。「では、外から補えばいいのでは」と考えますが、NADそのものは分子が大き過ぎて、細胞に取り込むことができません。

次に、NMNあるいはNRという物質を摂取するという発想が出てきました。これらはNADが生合成される前の前駆体物質。前述した番組中の「若返り薬」というのは、NMNやNRのことです。NMNやNRは現在、サプリメントとして一部で流通していますが、非常に高価で一般的ではありません。

ホットでもアイスでもOK

そこで、ニコチン酸です。

ニコチン酸は、植物性のビタミンB3の物質名です。一方、動物性のビタミンB3は、ニコチンアミド。この二つを併せて、ナイアシンといいます。

ナイアシンは体内でNMNやNRに合成されます。つまり、NMNやNRのもととなる物質なのです。食品中に普通に存在するので、より現実的で身近な手段といえます。

動物性のニコチンアミドは、タラコやマグロ、カツオ、豚や牛のレバーに多く含まれます。ただ同時に、痛風の原因となるプリン体という物質も多く含むので、量に注意が必要です。

一方、植物性のニコチン酸なら、その心配はありません。多く含まれる代表的な食品は、キノコやトウモロコシ、落花生、そしてコーヒーです。

画像1: ホットでもアイスでもOK

もちろん、キノコやトウモロコシを毎日食べてもいいのですが、なかなか難しいものです。

コーヒーなら「ニコチン酸のため」とあえて意識しなくても口にしますし、日常的な習慣にできます。

ニコチン酸は水溶性なので、体に取り込みやすい点もメリットです。しかも加熱に強いため、ホットでもアイスでも大丈夫。カフェインの影響を受けないので、カフェインレスの、デカフェでも問題ありません。

インスタントでもOKです。ドリップする場合は、深煎りしたコーヒー豆のほうが、ニコチン酸の含有量が多いそうです。参考にしてください。

下のグラフは、ヒトにして70歳相当のマウスの肝臓に、ニコチン酸と、対照として生理食塩水を、それぞれ投与した実験結果です。あくまで肝臓でのNADレベルですが、ヒトにして20歳相当まで若返りました。

画像2: ホットでもアイスでもOK

ニコチン酸をコーヒーで摂取する場合の目安を示すのは難しいところですが、1日に2~4杯くらいが適当ではないでしょうか。とはいえ私は、もともとコーヒーが好きなので、デスクワークが多い日は、5~6杯飲むこともあります。

若返りや長寿につながると思えば、毎日のコーヒータイムがより楽しくなりますね。

画像: この記事は『壮快』2021年11月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年11月号に掲載されています。

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