疫学研究の調査の一つ、「1日2杯以上コーヒーを飲む高齢者には肺炎が少ない」というデータを紹介したいと思います。作用のメカニズムについてはまだ研究途上ですが、気管支拡張薬としてぜんそく治療に使われるテオフィリンなど、コーヒーに含まれる成分が、肺炎予防に効果を現したと思われます。【解説】近藤亨子(大阪市立大学医学部附属病院事務局・大学院医学研究科研究支援プラットフォーム生物統計部門技術職員)

解説者のプロフィール

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近藤亨子(こんどう・きょうこ)

1984年、大阪市立大学生活科学部卒業。医学博士。同年10月より同大学医学部公衆衛生学教室技術職員に着任。組織改編により同大学医学部附属病院事務局技術職員に役職変更、現在に至る。日本疫学会、日本公衆衛生学会、日本ワクチン学会に所属。主な研究テーマに「高齢者における肺炎と嗜好飲料の関連」「高齢者における肺炎とワクチンの関連」「ロコモティブシンドロームの関連因子」などがある。
▼専門分野と研究論文(CiNii)

肺炎とコーヒーの関係についての興味深いデータ

日本人の死因は長らく、「がん」「心疾患」「肺炎」の順に多いとされていました。近年は新型コロナの影響で、多くのかたが感染症予防に努めたこともあるのか、肺炎の順位が下がってきています。

とはいえ、高齢者にとって、肺炎はいまだ死亡リスクの高い疾患であることに変わりありません。ここでは、その肺炎と、「コーヒー」の関係について、興味深いデータを紹介したいと思います。

私は、公衆衛生学の研究者として、さまざまな疫学研究を行ってきました。今回取り上げるのは、その調査の一つ。結論からいうと、「1日2杯以上コーヒーを飲む高齢者には、肺炎が少ない」というものです。

この研究成果は2021年3月、イギリスのネイチャー・リサーチ社によるオンライン学術雑誌『サイエンティフィック・リポーツ』に掲載されました。

調査は、2009年から2014年の5年間にわたり実施。協力していただいたのは、この期間に、東京、愛知、福岡など1都6県、24ヵ所の病院を受診した患者のかたがたです。

65歳以上の肺炎患者199名を症例とし、その群と対照させるために、肺炎以外の疾患で同じ医療機関を受診した患者374人を抽出しました。対照群は性別や年齢が、肺炎群の患者と一致するように選んでいます。

そのうえで、患者さん全員の最近1ヵ月の嗜好飲料の摂取量を調べました。コーヒーのほかに、緑茶の摂取量も、併せて確認。緑茶は日本人の食生活になじみが深く、高齢者が好んで飲むと思われたためです。

そのうえで、コーヒーについては、1日当たりの摂取量に応じて「全く飲まなかった」、「1杯未満」、「1杯」、「2杯以上」の四つの群に分けました。

一方、緑茶については、1日当たり「1杯未満」、「1~2杯」、「3~4杯」、「5杯以上」の4群に分けました。

摂取量の区分がコーヒーと緑茶で異なるのは、それぞれ四つの群が同じくらいの人数になるよう、調整したためです。もし群の人数が同じように揃わず、一つの群だけ飛び抜けて多くなるような不均等が生じると、正しい統計が取れません。

緑茶は肺炎との関連は認められなかった

統計学に「オッズ比」という考え方があります。ある事象の起こりやすさを比較して示す、尺度の一つです。オッズ比が1より大きいと、その事象が起こる確率が高く、1より小さければ小さいほど、起こる確率が低い、というものです。

コーヒーと肺炎の関係性を示すため、「全く飲まなかった」群を1として解析したところ、「1杯未満」のオッズ比は0.69、「1杯」は0.67、「2杯以上」は0.50という結果が得られました。

これは、コーヒーを全く飲まないよりも、1日2杯以上飲んでいる人のほうが肺炎のリスクが低いということを示します。なお、この結果は、統計学的に有意でした。

画像: オッズ比が小さいほど起こる確率が低いことを示す

オッズ比が小さいほど起こる確率が低いことを示す

緑茶の場合も同様に「1杯未満」を1として調べたところ、「1~2杯」が1.22、「3~4杯」が1.18、「5杯以上」は1.08。緑茶の飲用と肺炎に、有意な関連は認められませんでした。つまり、「緑茶を飲んだら肺炎になりにくくなる、とはいえない」ということです。

では、なぜコーヒーでこのような結果が出たのでしょうか。

これについては、あくまでもさまざまな文献からの推測ですが、コーヒーに含まれるいくつかの成分が、肺炎予防に効果を現したと思われます。

例えば、コーヒーの成分の一つにテオフィリンがあります。

テオフィリンは気管支拡張薬として、ぜんそく治療に使われる物質です。コーヒーを飲むことで、テオフィリンが気管支によい影響をもたらしている可能性が考えられます。

また、コーヒーのポリフェノール(色や苦みの元となる成分)の一種であるクロロゲン酸には、抗菌作用があることが示唆されています。

作用のメカニズムについてはまだ研究途上なので、はっきりしたことはわかりません。とはいえ、コーヒーが健康に役立つという報告が多く見られるため、今も世界中で研究が進んでいます。

「1日に2杯以上飲む人は、肺炎になるリスクが低い」という今回のデータについても今後、作用機序が解明されると期待したいところです。

私自身、1日に2~3杯はコーヒーを飲んでいます。砂糖は入れずに、牛乳だけを加えたカフェオレを、朝食時と昼食後に飲むことが多いですね。

人にもよりますが、コーヒーが体質に合うようでしたら、新型コロナで肺の機能に注目が集まる今、意識して飲んでみてはいかがでしょうか。

画像: この記事は『壮快』2021年11月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年11月号に掲載されています。

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