解説者のプロフィール

西本真司(にしもと・しんじ)
西本クリニック院長。近畿大学医学部卒業。熊本大学医学部附属病院麻酔科、熊本赤十字病院麻酔科、山鹿市病院を経て、1996年、西本第2クリニックを開業。2006年、西本クリニックと第2クリニックを統合し、西本クリニック院長に就任。西洋医学的な医療と、東洋医学的な治療を併せて行っている。主な著書に『潰瘍性大腸炎は自分で治せる』(マキノ出版)などがある。
▼西本クリニック(公式サイト)
自己免疫疾患の患者さんにセルフケアを指導
私は29歳のときに潰瘍性大腸炎を発症しました。これは厚生労働省が難治性疾患(いわゆる「難病」)に認定している病気です。大腸に炎症が起こり、下痢や粘血便、腹痛、発熱、倦怠感などの症状が現れます。
私の場合は、大腸全体に炎症が起こる全大腸炎型というタイプで、主治医からは「99.999%完治しない」といわれました。しかし、7年間、再発をくり返しながらも、さまざまなセルフケアを実践し、病気を克服する方法を模索。4度めの再燃を起こしたあとは23年間、全く症状が出ることはなく、完治といえる状態になりました。
この経験を活かし、私は潰瘍性大腸炎やクローン病(小腸・大腸を中心に、消化管のどの部分にも病変ができる炎症性腸疾患)の治療を行うようになりました。
潰瘍性大腸炎やクローン病は、本来は外敵を攻撃して自分の体を守るべき免疫が、暴走して自分の体を攻撃してしまう「自己免疫疾患」です。
そこで私は患者さんたちに、免疫にかかわる自律神経(私たちの意志とは無関係に働き、内臓や血管をコントロールする神経)のバランスを整えるセルフケアや、免疫力にも関係する腸内環境を整える食事療法などを中心に指導しています。
ストレス性の便秘や下痢にもおすすめ
そうしたセルフケアのなかでも多くの患者さんが実践し、潰瘍性大腸炎やクローン病以外の人の〝腸活〟にも役立つお勧めの方法が「手振り体操」(やり方は下項参照)です。
私自身も含め「手振り体操」を毎日のセルフケアとして続けている患者さんの多くは、非常に良好な経過を保っています。
なぜ、手振り体操が腸疾患に効果があるのか。それは、「セロトニン活性を高める」ことにあります。
セロトニンは脳内の神経物質で、心の安定にかかわっています。セロトニンが不足すると、うつ病につながります。そして、潰瘍性大腸炎やクローン病の患者さんは、3分の1から半数くらいがうつ症状であるといわれています。
セロトニン不足で心が不安定では、免疫にかかわる自律神経のバランスは整いません。
しかも、セロトニンの9割は腸に存在します。潰瘍性大腸炎やクローン病のような腸の病気に、自律神経のバランスを整えるセロトニンが深くかかわっていると考えて間違いないでしょう。
セロトニン分泌を活性させるには、リズム運動、ゆったりとした呼吸、朝日を浴びるといったことを毎日20分ずつ継続して行うとよいとわかっています。
手振り運動は、このリズム運動やゆったりとした呼吸に該当し、セロトニンを活性化させるのに効果的な方法です。実際、血液中のセロトニン量を測定したところ、手振り体操を行うとセロトニン活性が高まることが明らかになっています。
特に、ストレスで下痢や便秘をしやすい人は、手振り体操を毎日の習慣にすることをお勧めします。腸の調子を整えるほか、肩こりの解消や姿勢がよくなる効果もあり、頭痛や不眠など、自律神経の乱れからくる不調全般に効果が期待できます。
潰瘍性大腸炎やクローン病だけでなく、どんな人にとっても、セロトニン活性を高めることは、腸の調子を良好に保つうえでたいせつなこと。ぜひ手振り体操をお試しください。
手振り体操のやり方
※ゆったりとした深呼吸をしながら行う。
※起きてすぐ、朝日が差し込む室内で行うのが効果的。
※1日合計15分~20分を目安に行う。一度に連続して行っても、1回5分を3~4回に分けて行ってもOK。

❶両足をまっすぐ正面に向けて肩幅くらいに開く。X脚の人は少し8の字に開く。背すじを伸ばし骨盤を立てた姿勢になり、ひざを自然に緩めて軽く曲げる。ひざは足先より前に出さない。

❷「1、2、3……」と頭の中で数えながら、両手を揃えて前後45度に振る。自分に合う一定のリズムをキープしながら、黙々と行う。

この記事は『壮快』2021年11月号に掲載されています。
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