「ストーカー」といっても、元配偶者や元恋人が復縁を迫るものから、面識のない人からの電話やメール、SNS上での執拗な書き込みなど、さまざまなものがあります。「どこからストーカー行為になるのか、判断がつかない」と、ひたすら耐えている人も多いのではないでしょうか。よくあるストーカー被害のケースとその対策、さらに「ストーカー行為等の規制に関する法律」(ストーカー規制法)の内容について、弁護士の上谷さくらさんと岸本学さんに解説していただきました。

執筆者のプロフィール

上谷さくら(かみたに・さくら)

弁護士(第一東京弁護士会所属)。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。

岸本学(きしもと・まなぶ)

弁護士(第一東京弁護士会所属)。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。人権擁護委員会第5特別部会(両性の平等)委員。大阪大学法学部卒。民間企業のコンプライアンス統括部門を経て、2008年横浜国立大学法科大学院を卒業。同年司法試験合格。金融庁証券調査官を経て、2010年弁護士登録。

本稿は『おとめ六法』(KADOKAWA)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。

イラスト/Caho

法律で禁止されている「つきまとい」と「ストーカー行為」

「ストーカー行為等の規制等に関する法律」は、「ストーカー規制法」と一般的に呼ばれます。この法律は、同じ人に対してつきまとい等を繰り返すストーカー行為者(加害者)に、警察署長等から警告を与えたり、悪質な場合に逮捕したりすることで、被害を受けている人を守る法律です。

【ストーカー規制法】第1条 目的
1 この法律は、ストーカー行為を処罰する等ストーカー行為等について必要な規制を行うとともに、その相手方に対する援助の措置等を定めることにより、個人の身体、自由および名誉に対する危害の発生を防止し、あわせて国民の生活の安全と平穏に資することを目的とする。

ストーカー規制法で規制の対象となるのは、「つきまとい等」と「ストーカー行為」の2つです。具体的に、次の8つの行為が「つきまとい等」として禁止されており、繰り返すと「ストーカー行為」になる場合があります。

● つきまとい、待ち伏せ、見張り、住居等への押しかけ
 例)学校や職場で待ち伏せ、尾行、自宅への押しかけやうろつき

● 行動を監視していることがわかることを告げる
 例)帰宅したとたんに「お帰りなさい」と電話する

● 面会、交際などの要求
 例)拒否しているのにしつこく面会や復縁を求める

● 著しく粗野、乱暴な言動
 例)自宅まで来て大声で叫んだり、罵ったりする

● 無言電話、拒否したのに連続して電話、FAX、メール、SNS
 例)しつこい電話やメッセージの送付、コメント欄へしつこく書き込む

● 汚物や動物の死骸などを送りつけ、嫌悪感や不安を与える

● 名誉を害することを告げる
 例)名誉を傷つけるようなことを言う、そのような内容の文書を送り付ける

● 性的羞恥心を害することを告げる、文書等を送付する
 例)わいせつ写真を送りつける、電話や手紙で卑わいなことを言う

遠慮せず早めに相談しよう

ストーカー被害にあっている場合は、遠慮せず早めに各自治体の「配偶者暴力相談支援センター」や警察に相談することがなによりも大切です。ストーカーは、性犯罪や殺人といった凶悪犯罪にエスカレートする可能性があるためです。相談する場所がわからない場合は、「#9110」に電話をすれば、相談窓口となる最寄りの警察署につないでくれます。

自宅についても対策を立てましょう。ストーカーに自宅を知られている場合は、避難先となるシェルターを紹介してもらえたり、ホテル代を補助してもらえたりする場合があります。ストーカーにあなたの自宅を知られていない場合は、身の安全を守るために、絶対に住所を知られないようにします。住民票を置いている市区町村に相談すると、住民票の交付を制限する手続きをすることができます。

警察にストーカー被害の相談をすると、ストーカー規制法に基づいて、図のような流れで対応がなされます。

画像: 出典:『おとめ六法』(KADOKAWA)

出典:『おとめ六法』(KADOKAWA)

ストーカー行為の証拠は保存しておく

つきまといやストーカー行為は、いろいろなケースがあります。いずれの場合も、自分ひとりで思い悩まず、警察に相談しましょう。

画像1: 【ストーカー規制法とは】加害者への警告や逮捕で被害者を守る法律  証拠を保存して早めに相談しよう

どこからがストーカーになるのか判断がつかない。

画像2: 【ストーカー規制法とは】加害者への警告や逮捕で被害者を守る法律  証拠を保存して早めに相談しよう

自分だけで判断せずに、まずは警察に行って相談しましょう。仮に法律上のストーカーとはいえなくても、警察が相手に電話などで警告をしてくれるケースも多くあります。なお警察に行く際は、場合によっては事前に相談予約を取り、信頼できる友人や親族に同行してもらうとよいです。

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画像3: 【ストーカー規制法とは】加害者への警告や逮捕で被害者を守る法律  証拠を保存して早めに相談しよう

ストーカー行為を受けている。ただ、相手は仕事や立場的に社会的な信用がある。警察はこちらの言い分を信じてくれない気がする。

画像4: 【ストーカー規制法とは】加害者への警告や逮捕で被害者を守る法律  証拠を保存して早めに相談しよう

まずはストーカー行為を受けている証拠を残すことが重要です。電話は着信記録を保存し、通話したときは録音しましょう。SNSの投稿はスクリーンショットなどで保存するとよいです。待ちぶせは、可能であれば防犯カメラを設置するなどして記録しましょう。こうした証拠があれば、警察もスムーズに動けます。後日、刑事事件や民事訴訟になった場合にも、これらの証拠はとても役に立ちます。

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画像5: 【ストーカー規制法とは】加害者への警告や逮捕で被害者を守る法律  証拠を保存して早めに相談しよう

SNSでつきまとわれている。ブロックすれば収まる?

画像6: 【ストーカー規制法とは】加害者への警告や逮捕で被害者を守る法律  証拠を保存して早めに相談しよう

いきなりブロックすると、拒絶されたと感じて逆上される危険がありますのでやめてください。居場所を探されたり、家に押し掛けてくる可能性もあります。返信するのも、ストーカーとの関係性を継続することになってしまうため、やめるべきです。ブロックも返信もせず、画面を保存して警察に相談してください。

あなたを守る法律

ストーカー行為は、刑法の脅迫罪や強要罪にあたる場合もあります。関連する条文を以下に挙げます。

【刑法】第222条 脅迫
1 生命、身体、自由、名誉、または財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役、または30万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉、または財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

【刑法】第223条 強要 
1 生命、身体、自由、名誉、もしくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、または暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉、または財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、または権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3 前2項の罪の未遂は、罰する。

ストーカー行為についてもっと詳しく知りたいときは、各都道府県警のホームページが参考になります。

※本稿に掲載されている法律は、以下の内容に基づきます。
 民法:2020年4月施行の改正民法の内容
 そのほかの法令:2020年3月現在の内容
各条文は、女性に関係の深いものを選定し、読みやすく掲載しています。一部、完全な正確さより、わかりやすさを優先した表現に置き換えています。
条文の正確な内容が知りたい場合、電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」の参照をおすすめします。

なお、本稿は『おとめ六法』(KADOKAWA)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。

画像7: 【ストーカー規制法とは】加害者への警告や逮捕で被害者を守る法律  証拠を保存して早めに相談しよう
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2021-11-11 10:24

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