解説者のプロフィール

北垣浩志(きたがき・ひろし)
佐賀大学農学部教授。東京大学農学部卒業。国税庁醸造研究所研究員、米国サウスカロライナ医科大学などを経て現職。専門は発酵醸造学。日本の伝統食品の機能性開発や、グリコシルセラミドの化粧品・機能性食品の開発などに携わる。こうじ研究の権威。科学技術分野の文部科学大臣表彰、日本農学進歩賞など受賞多数。
▼専門分野と研究論文(CiNii)
みそや納豆の摂取量が多いほど死亡リスクが低下
ご存じのとおり、近年の日本人の死因の第1位は「がん」。第2位は、「心疾患」です。
この2大死因のうち、がんは、医学研究の進展により対処方法がわかりつつあります。むしろ、第2位の心疾患のほうがやっかいです。いまだに治りにくく、死亡者数も増え続けています。
心疾患は、心臓に起こる病気の総称で、いい換えれば、心臓の筋肉に血液を送る血管の病気です。この血管の病気を減らすために最も重要な柱が、日々の食事です。
私たちの血管が若々しく健康に保たれるか、かたくなり老化が進むかは、毎日食べる物によって決まるといっても過言ではありません。
では、何を食べればよいでしょうか。その有力な指針の一つとして注目したいデータが、国立がん研究センターが行った疫学調査のなかにあります。
これは、大豆食品や発酵性大豆食品(みそ、納豆、豆腐)を食べている人と、その死亡リスクを追跡した大規模調査です。
そのデータによると、発酵性大豆食品の摂取量が多いほど、がんや心疾患などによる死亡全体(総死亡)のリスクが低下するということがわかってきました。特に女性は、みそや納豆の摂取量が多いほど、死亡リスクが低下しています。
このような疫学研究のデータからも、「トマトみそ」でトマトと組み合わせる、みその効能として、がんや心疾患などによる死亡リスクを下げる効果が期待できるといえるでしょう。
みその原料である大豆には、植物性の良質なたんぱく質や食物繊維、ミネラル、イソフラボンといった多くの有効成分が含まれています。しかし、みその有効成分は、それだけではありません。
私は以前から、みそなど日本の発酵食品に含まれる「こうじ」の健康効果の研究を行ってきました。
大豆からみそが作り出される発酵過程で、有効成分が新たに生み出されます。その一つが、こうじに含まれる「グリコシルセラミド」という物質で、さまざまな健康効果をもたらします。このグリコシルセラミドの働きと健康効果について、詳しくお話ししましょう。
「万病のもと」を抑制しメタボも改善
❶腸内環境の改善
グリコシルセラミドは、小腸ではほとんど分解・吸収されずに、大腸まで届きます。
特に大腸の奥の部分は、栄養源や酸素が少なく、過酷な環境です。ここまで届いたグリコシルセラミドは、腸内細菌のエサとなって、善玉菌を増やします。
その善玉菌が、「ブラウティア・コッコイデス」です。この菌には、抗不安作用や、腸の炎症を抑える作用があります。
グリコシルセラミドにより大腸の奥でこうした善玉菌が増えることで、悪化しがちな大腸の最奥の腸内環境が整います。腸の働き自体がよくなり、便秘の解消や免疫力のアップ、アレルギーの改善にもつながっていくと考えられます。
❷生活習慣病の予防
ブラウティア菌は、腸内の慢性炎症を抑制します。慢性炎症とは、弱い炎症が体内で持続的に起こること。生活習慣病やがんといった慢性疾患と密接に関連し、いわば、「万病のもと」ともいえる病態です。炎症が抑制されれば、ひいては生活習慣病の予防にもなるでしょう。
❸メタボ・脂肪肝の改善
腸から吸収されたグリコシルセラミドは、肝臓に運ばれ、PPARという因子に作用して、脂肪の代謝を活性化させることがわかっています。
また、マウスの実験で、グリコシルセラミドをエサとして食べた個体は、肝臓の代謝が活性化し、コレステロールが胆汁酸に変換され、その排泄が進んでいくことが確認できました。
これらにより、グリコシルセラミドは、余分なコレステロールを減らし、脂肪肝や、メタボの改善にも役立つといえるのです。
さて、グリコシルセラミドは加熱しても、ほとんど壊れないと考えられるので、トマトみそを作る際に加熱調理しても、その機能性を失うことはありません。
トマトみそとして、トマトと組み併せた際には、トマトが持っているさまざまな有効成分の効能も、併せて期待できます。
例えば、トマトには、抗酸化力の高いリコピンやβ-カロテンが含まれています。これらの働きで、動脈硬化予防の効果が期待できます。
冒頭でも触れた通り、発酵性大豆食品であるみそも、がんや心疾患による死亡リスクを低下させるなど、さまざまな疾患を抑制する効果が期待されます。つまり、これらの相乗作用によって、健康を維持するための強力なサポート食品となるのが、トマトみそなのです。
また、トマトみそには、トマトの旨みの力を借りた減塩効果もあると思われます。その点から、高血圧が気になるかたにも、トマトみそは大いに勧められるといえるでしょう。
[別記事:トマトみそは減塩調味料!基本の作り方&絶品レシピ→]

この記事は『壮快』2021年11月号に掲載されています。
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