解説者のプロフィール

永井竜児(ながい・りょうじ)
東海大学農学部バイオサイエンス学科教授、医学博士。1999年3月、熊本大学大学院医学研究科修了・博士(医学)。専門分野は、食品機能学、生化学。熊本大学大学院医学薬学研究部病態生化学講座助教、東海大学農学部准教授などを経て、2017年4月同教授。著書に『間違いだらけの栄養学』(辰巳出版)がある。
▼専門分野と研究論文(CiNii)
トマトの有効成分が動脈硬化の進行を抑制
「トマトみそ」は、軽く炒めたトマトに、みそを合わせて作る、簡単で便利な調味料です。皆さんもよくご存じのように、トマトとみそは、ともに優れた健康効果を有する食品です。その二つを組み合わせたトマトみそを継続して摂取することで、さまざまな健康効果が期待できます。
では、どんな効果が期待できるでしょうか。最初にトマトの効能からお話ししましょう。
トマトの有効成分といえば、「リコピン」を思い浮かべるかたが多いでしょう。しかし今回は、まだ皆さんにあまり知られていない、トマトの新しい機能成分を中心に触れたいと思います。
それは、「エスクレオサイドA」という成分です。私たちは、このエスクレオサイドAが血管の老化を防ぎ、動脈硬化の予防に役立つことを突き止めました。
私は長年、老化予防の研究を続けてきました。特に関心があったのが、血管の老化です。
動脈硬化の原因にもなる、糖尿病などの生活習慣病やその合併症は、いずれも血管の老化と関連しています。そこで、血管の老化を遅らせ、動脈硬化を抑制する可能性のある有効成分を探し続けてきました。そして浮上してきたのが、トマトのエスクレオサイドAです。
一般的に、動脈硬化は血液中のLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が増え過ぎて、血管に沈着することで起こります。
本来、コレステロール自体は、私たちの細胞や、ホルモン合成の材料にもなり、欠かせない物質です。実は、悪玉と呼ばれるLDLコレステロールも決して悪者ではないのです。
コレステロールは脂なので、血液に溶けません。そのままだと血管を行き来できないので、体じゅうに運ぶための運搬用の船に乗せた形が、LDLコレステロールだと考えてください。
問題となるのは、飽食や運動不足によって、このLDLコレステロールが血液中に過剰になった状態です。
余ったLDLコレステロールは、外に放置された自転車のようにさびていき、酸化LDLコレステロールとなります。この酸化LDLコレステロールが、免疫細胞の働きで血管壁に付着し、こぶ(プラーク)となることで、動脈硬化が進行するのです。
動脈硬化の進行が総体的に抑えられる
トマトに含まれるエスクレオサイドAには、この動脈硬化を防ぐ、次のような作用があることがわかってきました。
体内のコレステロールの70%は、肝臓で作られます。合成されたコレステロールは、肝臓からLDLコレステロールとして全身に運ばれますが、その際、ある酵素が働きます。エスクレオサイドAは、この酵素の活性を抑えるのです。
その結果、血液中に送り出されるLDLの量が減り、血中コレステロール値も下がります。動脈硬化になりやすいモデルマウスを使った実験でも、エスクレオサイドAを投与すると、血中のコレステロール値が下がることが確かめられました。
さらに、酸化LDLコレステロールが血管の壁に付着する際や、摂取した食品中のコレステロールが腸から吸収される際にも、同じ酵素が働きます。
エスクレオサイドAは、このときも酵素の活性を抑えるため、血管へのコレステロールの付着や、コレステロールの消化吸収をも抑制すると考えられます。
このようにエスクレオサイドAが複数の場面でかかわることで、LDLコレステロールの吸収が抑えられ、動脈硬化の進行が総体的に抑えられるのです。さらには、動脈硬化の先にある、重篤な心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中など)などを防ぐ働きもあるといっても過言ではありません。
また、LDLコレステロールの吸収が抑えられることは、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病の予防にも役立ちます。
さらには、トマトを摂取することで、リコピンや、そのほかのトマトの有効成分が摂取でき、その健康効果を享受できることはいうまでもありません。
リコピンは、優れた抗酸化作用を有しています。老化と病気の原因物質である活性酸素を消去することで、アンチエイジングや、生活習慣病予防に役立つとされています。そこにエスクレオサイドAの効能が加わるので、リコピンのもたらす効果もより高まるといってもいいでしょう。
トマトにはさらに、美肌効果やカゼ予防に役立つビタミンC、老化予防に役立つビタミンE、塩分の排出を助けるカリウムなども含まれています。

トマトが血管の老化を防ぐ!
みそ汁にトマトを入れるだけでもよい
このようなトマトの健康効果を享受するためには、毎日継続的にトマトを摂取することがたいせつです。トマトみそのような調味料は、トマトの継続摂取の強い味方になるでしょう。
トマトみそはお湯に溶くだけでもおいしく、調味料としてさまざまな料理に活用できるので、毎日飽きずに食べられるからです。
さらに、トマトみそとして摂取すれば、当然ながら、みその効能も併せて享受でき、相乗効果も期待できます。
発酵食品であるみそは、腸内環境を整える作用があります。トマトに含まれたエスクレオサイドAも、腸内に届くと、その分子構造の一部が切り取られて吸収され、活性化して働きます。そのため、トマトとみそ、両方の力で、腸内環境の改善に寄与するのです。
また、流通段階で発酵を止めていないタイプのみそ(酒精等無添加で、加熱処理をしていない物)を使えば、トマトみそとして混ぜ合わせることで、エスクレオサイドAの活性化が進められるとも考えられます。みその酵素の働きにより、トマトの機能成分がより働きやすくなる可能性があるのです。
また、みそにはトマトにはない栄養成分が多く含まれているのもよい点です。
みその原料である大豆は、良質な植物性たんぱく質です。発酵によって、大豆たんぱくが分解されると、体内に吸収されやすく、不足しがちなたんぱく質の摂取源として有用です。
さらには、女性ホルモンと似た働きのあるイソフラボンや、ビタミンE、大豆レシチンなどの有効成分も多く含まれています。
高血圧のかたはみその塩分が気になるかもしれませんが、みそには血圧の上昇を抑制する働きがあります。1日にみそ汁1杯分程度の量なら、血圧が上昇する心配はないとわかっています。
ちなみに、エスクレオサイドAは熱に弱く、100度で30分加熱した場合、半分に減ってしまいます。ですから、長時間煮込む料理やオーブン料理などでは、エスクレオサイドAの効果は享受できません。その点、トマトみそは炒める時間が短時間なので、心配ありません。
もし、トマトみそを作る時間がなければ、みそ汁にトマトを加えるなど、トマトとみそをいっしょに食べるだけでもよいでしょう。
若々しい血管を末永く保ち、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を防ぐため、多くの健康効果が秘められたトマトみそを有効に活用してください。

トマトみその健康効果
●血管の老化予防
●動脈硬化の予防
●糖尿病、高血圧など生活習慣病の予防
●アンチエイジング効果
●美肌効果
●腸内環境の改善
[別記事:トマトみそは美味しい減塩調味料!基本の作り方&絶品レシピ→]

この記事は『壮快』2021年11月号に掲載されています。
www.makino-g.jp