執筆者のプロフィール
上谷さくら(かみたに・さくら)
弁護士(第一東京弁護士会所属)。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。
岸本学(きしもと・まなぶ)
弁護士(第一東京弁護士会所属)。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。人権擁護委員会第5特別部会(両性の平等)委員。大阪大学法学部卒。民間企業のコンプライアンス統括部門を経て、2008年横浜国立大学法科大学院を卒業。同年司法試験合格。金融庁証券調査官を経て、2010年弁護士登録。
本稿は『おとめ六法』(KADOKAWA)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/Caho
女性のための六法全書
日々、法律相談を受ける中で、女性たちが多くの困難に直面していることを実感します。
満員電車での痴漢、駅での盗撮被害。男友達と楽しくお酒を飲んでいたつもりが、酔いにつけ込まれてレイプされたり。一生懸命勉強したのに、入学試験では女性という理由だけで点数が減点されて不合格になったり。楽しいはずの恋愛が、デートDVやストーカーに悩まされたり、実は不倫だったり。部活や会社で起きるセクハラにパワハラ、インターネット上のトラブルも多発しています。また、「子どもが万引きで補導されてしまった」「不倫がバレて、相手の奥さんから訴えられた」といった、加害者的立場に置かれてしまう場合もあります。
いざトラブルに巻き込まれたときは、どうしていいかわからないものです。警察に行けばいいのか。親に相談すべきなのか。誰にも知られたくない。でも黙っていても解決しないし……と、次から次に湧き上がる不安……。
どんな解決方法が正しいのか、一概に言えないケースも多数あります。しかし、万が一のとき「道しるべ」になるような対応策と根拠となる法律をまとめたのが、『おとめ六法』(KADOKAWA)です。弁護士として相談を受ける中で、女性が遭遇することの多いトラブルをシーン、そしてライフステージごとにまとめました。

法律を知っておく意味はある?
トラブルにあったとき、「わたしが悪かったからだ」と思い込み、一方的に自分を責めてしまう人がたくさんいます。「あなたが悪いんでしょ」などという言葉を投げかけてくる人もいます。「わたしが悪い」、だから「我慢しよう」「諦めよう」「忘れよう」……そんな思いから、泣き寝入りしたり、自分を貶めて心の傷を広げてしまったりします。
しかし、本当にあなたが悪かったのでしょうか?あなたはなにか法律に触れるようなことをしたのでしょうか?相手の行いのほうが正しかったのでしょうか?相手に「違法な行為」があれば、あなたは悪くありません。トラブルにあうきっかけはさまざまですが、「わたしが悪い」と思い込まないでください。
「法律とは何なのか」を正確に説明するのは難しい話です。ここではざっくりと、「法律とは、国が時に“国家権力”を用いて国民に守らせる“決まり”や“ルール”である」と考えてください。法律を知るということは、あなたは時に「国家権力」を味方にできるということです。たとえば、誰かが法律に違反してあなたが被害を受けたとき、警察や裁判所が、その誰かにペナルティ(刑罰)を科したり、財産を取り上げてあなたの損害を埋め合わせてくれたりします。
法律を知っていれば、いま目の前で起きていることが「当たり前」なのか、「法律違反」なのか、その判断ができます。「法律違反」だとわかれば、それを指摘し、改めさせることもできます。いますぐは無理でも、いずれそのチャンスが来る可能性もあります。犯罪の被害を受けても警察が十分な対応をしないときには、法律を指摘する、それでもだめなら弁護士に依頼する、という判断ができるようになります。
法律についての知識は、あなたがトラブルに巻き込まれたとき、行動の指針になります。法律を知っていて、無駄なことは決してないのです。
「しつこいナンパ」や「ウザ過ぎる絡み」は犯罪?
たとえば、こんな経験はありませんか?

ナンパされてつきまとわれ、無視すると「ブス!」「ババア!」などと暴言を吐かれたり、暴力を振るわれたりした。

一人でカラオケを楽しんでいたら知らない男性が入ってきて出て行ってくれない。
不安を感じたら110番してよい
しつこいナンパで困ったら、ためらうことなく110番へ通報しましょう。それほど被害を受けていると感じなくても「大きな被害を受けそう……」と不安を感じたら「110番」をしてよいです。110番につながったら「事件ですか? 事故ですか?」と聞かれますので、「事件です。いま○○にいるのですが、知らない男性につきまとわれて、犯罪の被害にあうのではないかと不安です。警察官を向かわせてください」などと伝えましょう。たいていの場合、通報しただけで相手は逃げ出します。
相手が逃げていったら、そのことを110番か、駆けつけた警察官に伝えればOKです。
あなたを守る法律
あまりにしつこいナンパは軽犯罪法第1条第1項第28号、「一人カラオケ」の邪魔は軽犯罪法第1条第1項第5号にあたる可能性があります。暴言を受ければ侮辱罪、暴力を受ければ暴行罪、傷害罪などになる場合があります。
【軽犯罪法】第1条
(略)該当する者は、これを拘留、または科料に処する。
5 公共の会堂、劇場、飲食店、ダンスホールその他公共の娯楽場において、入場者に対して、または汽車、電車、乗合自動車、船舶、飛行機その他公共の乗り物の中で乗客に対して著しく粗野、または乱暴な言動で迷惑をかけた者
28 他人の進路に立ちふさがって、もしくはその身辺に群がって立ち退こうとせず、または不安、もしくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとった者
【刑法】第204条 傷害
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役、または50万円以下の罰金に処する。
【刑法】 第208条 暴行
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金、または拘留、もしくは科料に処する。
【刑法】第231条 侮辱
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留、または科料に処する。

不快で迷惑を感じるつきまといは軽犯罪法違反の疑いが強いです。警察が対処してくれますので、怖いと思ったらその場で110番しましょう。カラオケボックスの中なら、店員を呼びましょう。もちろん、いきなり110番してもかまいません。
※本稿に掲載されている法律は、以下の内容に基づきます。
民法:2020年4月施行の改正民法の内容
そのほかの法令:2020年3月現在の内容
各条文は、女性に関係の深いものを選定し、読みやすく掲載しています。一部、完全な正確さより、わかりやすさを優先した表現に置き換えています。
条文の正確な内容が知りたい場合、電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」の参照をおすすめします。
なお、本稿は『おとめ六法』(KADOKAWA)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。