手には繊細な動きを可能にするために小さな筋肉がたくさんあり、毛細血管が密集しています。その手には救急救命のツボが多いのですが、それは体調が悪化したときに、手の血流が真っ先に滞ることと関係があるのだと考えられます。【解説】松岡佳余子(アジアンハンドセラピー協会理事・鍼灸師)

解説者のプロフィール

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松岡佳余子(まつおか・かよこ)

アジアンハンドセラピー協会理事・鍼灸師。医師の中谷義雄博士の住み込み内弟子として鍼灸修行を始め、中国各地の中医薬大学、中医学院にて研修を行う。高麗手指鍼と出合って以来は、手に特化した鍼灸で効果を上げている。著書『輪ゴム健康法』(マキノ出版)など多数。

手のツボ刺激は全身に影響を及ぼす

私は、「手は全身の縮図」という考え方に基づき、手を刺激するさまざまな健康法を考案し、紹介してきました。中でも、手に洗濯ばさみを挟む「洗濯ばさみ療法」は、強力かつ即効性に優れたセルフケアになります。

血流を改善する効果がとても高く、東洋医学でいう瘀血(おけつ)(血の流れが悪くなり、滞っている状態)が原因の不調や病気の改善に非常に有効だと考えています。こりや痛み、冷え、のぼせ、高血圧、糖尿病、めまい、不眠など、およそ全身の問題に効果を発揮します。

以前、セミナーで血糖値が高い十数名の参加者にご協力いただいて、洗濯ばさみ療法の効果を検証したことがあります。すると、わずか2~3分の洗濯ばさみ療法によって、1人を除いて他の人は血糖値が10~30‌mg/dl‌も低下しました。

このとき、洗濯ばさみを使って刺激したのは、爪の生え際にある「井穴(せいけつ)」や指の股にある「八邪(はちじゃ)」というツボ(詳しい位置は下項参照)でした。

これらのツボは、昔から使われていて、即座に血流を上げる効果があるとされています。東洋医学では、呼吸困難や意識不明の緊急事態には、これらのツボに鍼を刺して血を抜くという療法(瀉血という)も行われてきました。いわば、救急救命のツボとして使われているのです。

手には、救急救命のツボが多いのですが、それはおそらく、体調が悪化したときに、手の血流が真っ先に滞ることと関係があるのだと考えられます。

そんな手には、繊細な動きを可能にするために小さな筋肉がたくさんあります。それらに栄養を届けるために、毛細血管が密集しています。手の血管を全てつなげると、400kmもの長さになるという説もあるほどです。

細い血管がたくさん集中しているので、手は体調変化による血流の変化に敏感に反応します。全身の健康状態を知る目安となる「血管年齢」は、手の指先で測るのですが、それは、指先の血流が全身の血流状態を表しているからです。

こうした関係性があるからこそ、手のツボ刺激は、全身の状態に強く影響を及ぼすのでしょう。

画像: 手は毛細血管が密集しており、血流をよくすることで全身の血の巡りの改善が期待できる

手は毛細血管が密集しており、血流をよくすることで全身の血の巡りの改善が期待できる

夜に行うと熟睡でき、朝に行うと元気が出る

私自身、手のツボ刺激に救われてきました。

私には、先天性弁膜疾患という心臓の持病があり、疲れると呼吸が苦しくなることがあるのです。以前は、自分で手のツボを指圧して、苦しいのをやわらげていましたが、あまりに調子が悪いと、指圧するのさえままなりません。

そこで、洗濯ばさみを使って井穴を刺激することをひらめいたのです。試してみたら、ただ挟んでおくだけなので、疲れませんし、数分もしないうちに苦しくなくなりました。そのことから、効率よくツボを刺激できるとわかりました。

洗濯ばさみ療法は、手の皮膚を引っ張ることによる効果も期待できます。皮膚を引っ張ることで、ツボだけでなく血管にも刺激が与えられ、血流もすみやかに上がると考えられます。その結果として、こりや痛みが取れるのです。

朝起きて、なんだか疲れが取れないと感じるときに、洗濯ばさみ療法を行っていますが、頭も体もスッキリとして、元気に1日をスタートすることができます。

また、夜、寝る前に行うと、体がリラックスし、よく眠れるようになるでしょう。

痛む指で調子が悪い部位がわかる

洗濯ばさみ療法では、体調が悪いほど、挟んだときの痛みが強烈に出ます。また、どの指が強く痛むかで、体のどの部位に不調があるかを、おおよそ把握することもできます。

親指が痛む場合、頭部の血流が悪いと思われます。

人さし指は胃腸、肝臓などの消化器系の調子が現れます。

中指は目や耳など顔面から胴体(体幹部)にかけて。

薬指は心臓や肺などの呼吸器系。

小指は脚部と泌尿器・生殖器系に対応します。

特に、薬指と小指は普段の手先の動作で比較的、動かさないため、血流が悪くなりやすい傾向があります。洗濯ばさみ療法を実践すれば、その場で全ての手指の血流がよくなり、少し間を置いて、全身の血流が改善すると考えられます。

なお、洗濯ばさみによる刺激はかなり強力で、特に「井穴」は痛みが強く感じられるツボですから、とても痛いという人も多いでしょう。

1ヵ所につき30~60秒ほど洗濯ばさみを挟んでておくのが基本ですが、慣れるまでは5~10秒ほどの刺激でも構いません。回数はできれば朝と夜の1日2回、行うといいでしょう。

なお、洗濯ばさみで挟んでいて、万が一、指先がうっ血して紫色になってきたら、すぐに外してください。その後、その部分を軽くもむようにするといいでしょう。

次項では、洗濯ばさみ療法が有効だった症例をさらに詳しく解説していきます。

体がスッキリしてポカポカと温まる

「洗濯ばさみ療法」を実践すると、ほとんどの方が最初は手指のどこかに強い痛みを感じます。「痛い、痛い!」と悲鳴を上げる方も、珍しくはありません。

でも、ほんのわずかな時間、痛いのを我慢してから洗濯ばさみを外すと、「体がスッキリした」「全身がポカポカと温かくなった」と、皆さんが驚かれます。

試しに、次のようにしてみてください。まず腕をぐるぐると回して、そのときの肩の感覚を覚えておきます。それから、基本の挟み方を行った後に、同じように腕をぐるぐると回してみましょう。

すると、挟む前よりも肩が軽いことに気付くはずです。これは、血流がよくなった結果、筋肉の緊張やこりが取れるためです。

特に、糖尿病や高脂血症などで、血液ドロドロ状態の方は、手指の血流が滞りがちなので、洗濯ばさみで挟んだときに痛く感じます。けれど、その後の体調の好転も劇的に現れることでしょう。

洗濯ばさみ療法をした後に、血糖値がすぐに下がった方が多数いたことは、前項でお伝えしました。ただ、これはあくまで一時的な変化なので、洗濯ばさみ療法をやめてしまえば、また血糖値は上がります。低い数値で安定させるためには、毎日継続して行うことが肝心です。

血糖値とヘモグロビンA1cが徐々に低下

63歳の女性Nさんは、洗濯ばさみ療法を継続したところ、血糖値とヘモグロビンA1c(過去1~2ヵ月の血糖状態がわかる数値)が明らかに低下しました。

Nさんは薬を飲んでいても、なかなか血糖値のコントロールがうまくいかず、2021年4月の検査では食後の血糖値が151mg/dl、ヘモグロビンA1cは7.8%でした。そこで相談を受け、洗濯ばさみ療法をお勧めすると、2ヵ月後の6月には、血糖値は92‌mg/dlと大きく低下。ヘモグロビンA1cも7.1%まで低下しました。

糖尿病の人のヘモグロビンA1cの治療目標値は、血糖値の正常化を目指す場合は「6%未満」で、合併症予防のための目標値が「7%未満」とされています。合併症予防の目標値までもう一息ですから、ぜひ今後も洗濯ばさみ療法を続けていただきたいものです。

高血圧にも有効です。50代の女性Oさんは、高血圧で薬を服用していたものの、上の血圧が150mm‌Hg前後(高血圧の基準値は上が140mmHg以上)から下がらなかったといいます。

洗濯ばさみ療法を行うと、最初は3~4秒でギブアップしてしまうほど痛かったそうですが、次第に慣れて、長く続けられるようになりました。そして血圧も徐々に低下し、現在は、基準値内の120mm‌Hg台まで下がって安定しているそうです。

寝付きがよくなって朝まで眠れる

不眠が改善した方もいます。40代の女性Iさんは、寝付きが悪くなり、夜中に何度も目が覚めてしまうことに悩んでいました。よく眠れないために、日中に眠くなり、ボーッとすることも増えたそうです。

そこで、夜寝る前に洗濯ばさみ療法をするようにお勧めしたところ、効果てきめんで、2日後から明らかに寝付きがよくなり、途中で目覚めることもなくなったといいます。眠れるようになって疲れが取れ、日中の睡魔はなくなって、家事や仕事の意欲も以前より増したと喜んでおられました。

また、Iさんは洗濯ばさみ療法を始める前は、舌の裏側の血管(静脈)が青黒く浮き上がっていましたが、これは典型的な瘀血(血の流れが悪くなり、滞っている状態)のサインです。しかし現在は、それもなくなりました。

ほかに、洗濯ばさみ療法で、ひざ痛や腰痛などが改善したという方も多くいます。

手指のむくみが軽減し動かしやすくなった

リウマチの症状が改善した方もいます。60代の女性Dさんは長年、リウマチによる手指のこわばりと痛みがあって、曲げ伸ばしも大変だったそうです。

指先は触るだけで痛いほどだったので、洗濯ばさみ療法は最初はとてもきつく感じられて、休み休み、どうにか行ってもらいました。すると、徐々に指先までしっかりと力が入るようになり、動かしやすくなってきたのです。今まではとてもつらかった、雑巾をしぼる動作も難なくできるようになったとのことでした。

また、リウマチの特徴で、以前は手指がむくんでおり、関節のシワがはっきりと見えなかったそうです。それが軽減して、関節のシワがはっきりしてきたと言います。これはおそらく、指先の血流が改善した効果によるものだと考えられます。

このように、洗濯ばさみ療法は多彩な効果を発揮します。ここでご紹介した高血圧、不眠、リウマチなどには基本のやり方を行いましょう(次項参照)。

テレビを見ながら行っても構いませんので、ぜひ続けてみてください。

画像: 指に洗濯ばさみをはさむだけなので、テレビを見ながらでも行える

指に洗濯ばさみをはさむだけなので、テレビを見ながらでも行える

洗濯ばさみ療法のやり方

注意点
●1日に朝と寝る前の2回、両手に行うとよい。
指先がうっ血して紫色になってきたら、洗濯ばさみはすぐに外すこと
●挟む場所に傷などがある、ヘバーデン結節などで関節に痛みがある場合は、その箇所は避けて行う。

用意するもの

画像1: 洗濯ばさみ療法のやり方

洗濯ばさみ5個
種類は問わないが、できれば先端の丸い、挟む部分にウレタンやゴムなどのソフトな素材がついているものがお勧め。このタイプの洗濯ばさみは、100円均一ショップなどで「ランジェリー用」として販売されている。手が大きい人は、大きいタイプの洗濯ばさみを使うとやりやすい。

やり方
井穴(せいけつ)五安穴(ごあんけつ)十宣穴(じゅっせんけつ)八邪(はちじゃ)のツボを片手から順番に挟み、その後反対の手でも同様に行う。
※人によってはかなり強い痛みを感じる。その場合は、我慢できなくなったら外してよい。

挟むツボ①
井穴

画像2: 洗濯ばさみ療法のやり方

手の爪の生え際の両端

画像3: 洗濯ばさみ療法のやり方

30~60秒ほど挟む。

挟むツボ②
五安穴

画像4: 洗濯ばさみ療法のやり方

手の爪の真下

画像5: 洗濯ばさみ療法のやり方

30~60秒ほど挟む。

挟むツボ③
十宣穴

画像6: 洗濯ばさみ療法のやり方

手の爪の中心

画像7: 洗濯ばさみ療法のやり方

30~60秒ほど挟む。

挟むツボ④
八邪

画像8: 洗濯ばさみ療法のやり方

手の指の股

画像9: 洗濯ばさみ療法のやり方

1~3分ほど挟む。

画像: この記事は『安心』2021年10月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年10月号に掲載されています。

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