インドの伝統医学アーユルヴェーダでは、スパイスは食品と薬の中間という位置付けで、生命エネルギーのバランスを整える観点からも積極的に用いられます。現代医学でも近年、スパイスの効用が注目されています。米国の研究では、多くのスパイスに「慢性炎症を鎮める作用がある」と報告されています。【解説】北西剛(きたにし耳鼻咽喉科院長)

解説者のプロフィール

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北西剛(きたにし・つよし)

きたにし耳鼻咽喉科院長。医学博士。滋賀医科大学卒業後、病院勤務を経たのち、故郷の守口市で2005年にきたにし耳鼻咽喉科を開院。日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本気管食道科学会専門医。日本アーユルヴェーダ学会理事長。
▼きたにし耳鼻咽喉科(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

スパイスは「生命エネルギー」のバランスを整える

私は耳鼻咽喉科医ですが、さまざまな代替医療や伝統医学についても学び、診療にも生かしてきました。その一つとして、「アーユルヴェーダ(インドの伝統医学)」も取り入れています。

アーユルヴェーダでは、人の体には「ヴァータ(風)」「ピッタ(火)」「カパ(水)」と呼ばれる生命エネルギーがあるとされ、これらを「ドーシャ」と呼びます。人によって3種類のドーシャのどれが優勢かというバランスが異なり、それが体質の違いとして表れます。

これらドーシャのバランスが取れた状態が「健康」なのですが、バランスがくずれると、不調や病気を招くと考えられています。例えば、消化の働きを「アグニ(消化の火)」と呼びますが、この働きが乱れると「アーマ」と呼ばれる未消化物が体内に蓄積していって、心や体に病気を引き起こしたり、肥満を招いたりすると考えられています。

ドーシャのバランスは個々でさまざまですが、全ての人にお勧めできるのは、好き嫌いせずにいろいろな食材を、満遍なく食べることです。

そのために上手に活用してほしいのが「スパイス」です。アーユルヴェーダでは、スパイスは食品と薬の中間という位置付けで、料理をおいしくする調味料としてだけでなく、ドーシャのバランスを整えるためにも積極的に用いられます。

現代医学でも近年、スパイスの効用が注目されています。

スパイスが日常的に使われているインドでは、がん患者が少ないことが知られています。その秘密が、スパイスではないかと考えられているのです。

そのことに着目した米国のMDアンダーソンがんセンターの研究では、ウコン、ショウガ、クミンを始めとした多くのスパイスに、「慢性炎症を鎮める作用がある」と報告されています。

慢性炎症とは、本来一過性で治まるはずの炎症反応がダラダラと長く続く状態を指します。それが生活習慣病やがん、アルツハイマー病などを引き起こすと考えられています。

スパイスが慢性炎症を鎮めるなら、これらの病気の予防に役立つ可能性があります。

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さて、鈴木亜美さんがお勧めする「あみーゴみそ汁」は、ショウガ、トウガラシ、クミン、シナモンを調合しています。

[別記事:鈴木亜美さん考案の「あみーゴみそ汁」の作り方→

ショウガは、アーユルヴェーダでは辛味スパイスのうち、胃腸に刺激を及ぼさない唯一の香辛料とされ、「偉大な薬」とも評されます。ショウガの辛味成分であるショウガオールは、消化力を高め、体を温める作用があります。

トウガラシには、カプサイシンという成分が含まれており、これは血行を促す作用や発汗作用が知られています。アーユルヴェーダでは、腸の内容物の排泄を促すともいわれます。

クミンは、疲労回復や美肌効果のあるビタミンB1やB2を含み、独特の香り成分でもあるクミンアルデヒドも含有しています。これには、胃の働きを助ける作用があるといわれます。

シナモンは、漢方として使われることもあるスパイスで、体を温め、消化を助けるともに、筋肉の緊張を緩和したり、のどを潤したりするとされます。

全体として、代謝や血行をよくする作用を持つスパイスの組み合わせなので、確かに減量をサポートする効果が高いものが多く使われています。

代謝を上げてダイエットに役立つ

一方、西川眞知子先生の「スパイスみそ」は、ショウガ、黒コショウ、ウコンの組み合わせです。こちらも代謝を上げてダイエットに役立つ他、抗炎症作用によって幅広い病気の予防効果を期待できそうです。

[別記事:インド伝統医学の力で健康になる「スパイスみそ」→

黒コショウには、ピペリンという辛味成分が入っています。ピペリンは、血管を広げて血液循環をよくしたり、体を温めて代謝を促進したり、冷えを改善したりする効果があるといわれています。

また、黒コショウは、消化液を分泌させて、脂肪を燃やす作用があり、鼻炎、貧血にも有効なスパイスとされています。

ウコンは、アーユルヴェーダでは解毒や血液浄化など多彩な効果があるとされています。科学的な研究からも、抗がん作用や認知症を予防する効果が期待されています。また、腸内細菌叢を改善し、腸を健康にしてくれる働きもあります。

なお、ウコンの有効成分として知られる「クルクミン」は脂溶性なので、油と一緒にとると吸収が高まります。スパイスみそ汁に、例えば、アマニ油やエゴマ油などオメガ3系脂肪酸の多い油を少量加えて飲むのもいいでしょう。

日本の伝統的な発酵食品で、良質なたんぱく質をはじめとして栄養成分の豊富なみそ。スパイスと組み合わせることで、きっと新たな味わいが楽しめるでしょう。その上、病気や老化防止にも役立つとあれば、試さない手はありませんね。

画像: この記事は『安心』2021年10月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年10月号に掲載されています。

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