腸腰筋が縮んで硬くなると、股関節のかみ合わせは大きくずれ、一部に強い負荷がかかります。その結果、軟骨のすり減りや骨の変形が加速すると考えられています。腸腰筋エクササイズは、軽度の変形性股関節症の痛みや歩きづらさ、詰まり感などの改善が見込めます。【解説】安部元隆(綜合整体GENRYU院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

安部元隆(あべ・げんりゅう)

綜合整体GENRYU院長。理学療法士。大分県出身。体の表面から深部までの癒着やねじれを根本から取り除き、不調がない体を作る「GENRYUメソッド」を考案。2016年10月、綜合整体GENRYUを開業。全国各地から患者が訪れ、施術は常時2ヵ月待ちになっている。近著『YouTuber整体師GENRYUの はがトレ 「皮膚はがし」で痛み・コリ・たるみ、ぜ~んぶ解消!』(KADOKAWA)が好評発売中。YouTube「GENRYUチャンネル」は登録者数54万人。
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股関節の痛みを和らげ変形の進行を防ぐ

変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減って骨が変形することで、股関節に痛みや詰まり感、動かしづらさなどの症状が出る病気です。

この変形性股関節症の症状を和らげるセルフケアとして、私は「腸腰筋エクササイズ」をお勧めしています。

腸腰筋とは、骨盤の内側と股関節をつなぐ「腸骨筋」と、同じく股関節と背骨下部をつなぐ「大腰筋」という2つの筋肉の総称です。このうちの腸骨筋は、背骨・骨盤と下半身をつなぐため、この筋肉の状態が全身に影響を及ぼします。

画像: 股関節の痛みを和らげ変形の進行を防ぐ

しかし、座りっ放しの時間が長く、腸腰筋を使う機会が減った現代人は、この筋肉が縮んで硬くなりがちです。これでは腸腰筋がうまく伸び縮みできず、体の重心がずれて、姿勢を維持しづらくなってしまいます。

その上、無理にまっすぐに立ったり歩いたりしようとすると、本来使わない筋肉を過剰に使います。そのため、股関節はもちろん、腰やひざなどにも不調が生じてくるのです。

さらに、腸腰筋が縮んで硬くなると、股関節のかみ合わせは大きくずれ、一部に強い負荷がかかります。その結果、軟骨のすり減りや骨の変形が加速すると考えられています。

実際、治療の現場では、変形性股関節症の痛みや詰まり感などをはじめ、腰痛やひざ痛、肩こり、ネコ背などのさまざまな症状を患っている方の特徴として、腸骨筋が短縮しているケースが多く見受けられます。そのため、当院では、腸腰筋をゆるめる治療を行っています。

今回ご紹介する腸腰筋エクササイズは、それらのさまざまな症状のセルフケアとして、10年以上前に私が考案しました。

股関節への効果としては、軽度の変形性股関節症の痛みや歩きづらさ、詰まり感などの改善が見込めます。その上、変形の進行予防も期待できます。

今回は、毎日の習慣として手軽に続けられる、3つのステップをご紹介しましょう。

腸腰筋エクササイズのポイント!
まずは1日3回、朝昼晩に行う。慣れてきたら、回数を徐々に増やしてもよい。
STEP1~3は、必ず順番通りに行う。順番を変えると効果が減少する。
腰は反らしたり丸めたりせず、体をまっすぐにした状態で行う。
股関節痛の悪化や筋肉痛を防ぐため、やり過ぎは厳禁。無理のない範囲で、痛みを感じない程度に行う。
毎日少しずつ、股関節をほぐすイメージで続ける。最初から完璧にやろうとしない。

STEP1 皮膚はがし

股関節前面の硬くなった皮膚をほぐしたり、その下の筋膜(筋肉を覆う膜)の癒着を改善したりするエクササイズです。

変形性股関節症の患者さんは、股関節の前面の皮膚が硬くなりがちです。この辺りの皮膚やその下の組織が硬くなると、股関節を曲げたときに皮膚がうまく滑らず、詰まり感などの違和感が生じます。

また、筋膜が皮膚や筋肉などにくっついて固まると、筋肉を動かしづらくなります。

皮膚はがしは、こうした状態を改善することで、詰まり感などの違和感を解消したり、動きを滑らかにしたりします。

皮膚はがしを行う範囲

画像1: STEP1 皮膚はがし

やり方

画像2: STEP1 皮膚はがし

[30秒~1分]
股関節の出っ張り(上前腸骨棘)の辺りの皮膚を、片手の指2~3本で軽くつまんで持ち上げる。手を徐々にずらしながら、片側の股関節前面全体の皮膚をはがす。反対側も同じように行う。

画像3: STEP1 皮膚はがし

皮膚は無理に引っ張り上げるのではなく、指でつまんで持ち上げるようにする。
痛みを感じない力加減で行う。
片手で行うのが難しい場合は、両手で行ってもよい。

STEP2 腸腰筋ほぐし

自分で太ももを引き上げる力と、両手で上から太ももを下へ押す力の力比べを行います。これにより、硬くなって伸び縮みしづらくなった腸腰筋を動かしやすくします。

腸腰筋ほぐしは、座った姿勢で行い、腰を反らしたり丸めたりせず、骨盤を起こすように行ってください。

画像: STEP2 腸腰筋ほぐし

[左右各3セット]
いすに座って背すじをまっすぐにし、太ももの上に両手を置く。足を上に持ち上げるのと同じくらいの力で、太ももを抑え込む。3秒この体勢をキープ、3秒休むで1セット。反対側も同様に行う。

STEP3 腸腰筋ストレッチ

硬くなった腸腰筋や、股関節前面の皮膚を伸ばすストレッチです。後ろに引いた足と同じ側の腸腰筋などを伸ばす効果があります。

ポイントは、壁などに手をついて行うこと。バランスを崩すなどの危険がないか確認した上で、行うようにしてください。

画像: STEP3 腸腰筋ストレッチ

[左右各15秒×2回]
壁などで体を支えた状態で、片方のひざを立て、もう片方の足を後ろに伸ばす。腰を反らさずに、体を前に持っていき、15秒キープする。

足腰の痛みが改善し歩幅が広がる

腸腰筋エクササイズは、早ければその場で何らかの変化を実感できます。

Aさん(70代女性)は、両足の変形性股関節症に加え、腰やひざも悪くしていました。そのため、初診時は車いすで来院され、ご自宅でも車いすやつたい歩きで移動していたそうです。まず治療で腸腰筋をゆるめたところ、その場でつえを使わず軽く歩けるようになりました。

その後、この治療と並行して腸腰筋エクササイズも行い、3~6ヵ月ほどで、車いすもつえも使わずに外出できるようになったのです。「自分で買い物に行けるようになった」と、Aさんは喜んでいました。

腸腰筋エクササイズは、変形性股関節症の他に、腰痛やひざ痛、座骨神経痛、反り腰、ヘルニアなどへの効果も期待できます。また、以前よりも大股で歩けるようになったという人も少なくありません。

高齢者の多くは、加齢の影響で腸腰筋が硬くなり、ひざ下だけでちょこちょこと歩きがちです。腸腰筋エクササイズで歩幅が広がったのは、腸腰筋がきちんと伸び縮みできるようになった証でしょう。

皆さんも、ぜひこのエクササイズを習慣化してください。きっと、股関節がらくになるはずです。

画像: この記事は『安心』2021年10月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年10月号に掲載されています。

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