変形性股関節症の手術は、変形の程度や年齢、状況によって総合的に判断し、最適な方法を選択する必要があります。関節温存手術は、自分の骨を利用した手術で、人工関節置換手術は、特殊な金属やポリエチレン、セラミックなどで作られた人工関節に置き換える手術です。【解説】高平尚伸(北里大学大学院医療系研究科長)

解説者のプロフィール

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高平尚伸(たかひら・なおのぶ)

1989年、北里大学医学部卒業。2007年、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻教授および北里大学大学院医療系研究科整形外科学教授。20年、北里大学大学院医療系研究科長。医学博士。日本股関節学会理事、日本人工関節学会評議員。北里大学病院整形外科では、さまざまな股関節手術・リハビリテーション、スポーツ医学、ロコモティブシンドローム、姿勢など、多くの分野の治療に従事。著書も多数。
▼北里大学病院整形外科(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

[別記事:変形性股関節症の保存療法 生活習慣とストレッチで進行を防ごう→

より体に負担の少ない手術法が開発されている

変形性股関節症の治療において、保存療法では痛みが取れず、生活に支障が出ている場合には、手術が選択されます。

変形性股関節症の手術方法はいくつもあり、変形の程度や年齢、それぞれの状況によって総合的に判断し、最適な方法を選択する必要があります。手術方法は、大きく分けて、「関節温存手術」と「人工関節置換手術」があります。

関節温存手術は、自分の骨を利用した手術で、「骨切り手術」と「関節鏡視下手術」の2種類に大別されます。

人工関節置換手術は、自分の股関節を、特殊な金属やポリエチレン、セラミックなどで作られた人工関節に置き換える手術です。最近ではナビゲーションやロボット技術を利用することで、正確性が増しています。

それでは、それぞれの手術法について解説しましょう。

骨切り手術

従来から行われてきた手術方法で、自身の骨を切って形を整えて固定し、軟骨へのダメージを回避したり、再生を促したりして治療を行います。骨切り手術の術式は非常に数が多く、病院や地域によってもその方法が異なります。

現在最も多く行われている寛骨臼回転骨切り術(RAO)は、寛骨臼を丸く切り取り、回すようにずらして、大腿骨頭へのかぶりを深くする手術です。

体を横に向け、お尻から股関節に向かって切り入っていきます。この際、大きな筋肉である一部の大殿筋と中殿筋をはがす必要があり、筋肉を傷めるリスクがありました。また、20~30cmと大きな切開跡が残ります。

RAOを改良し、患者さんの負担を軽減したのが、低侵襲寛骨臼回転骨切り術CPO)で、仰向けの状態で行います。

腹側から入り腸骨の内側から寛骨臼に到達して骨切りをし、外側に押し出すため、腸骨の外側にある中殿筋を傷めません。傷跡も7~8cmで、下着の下にかくれるため目立ちにくいのもメリットです。最近ではさらに改良を加えた手術も開発されています。

画像: CPO手術の例。画像右が手術後。[CPO症例画像提供/高平尚伸医師]

CPO手術の例。画像右が手術後。[CPO症例画像提供/高平尚伸医師]

その他、股関節のすぐ上で骨盤を横に切り、下部分を内側にずらして固定し、骨頭を覆うようにして寛骨臼を形作るキアリ骨盤骨切り術などの術式もあります。

画像: キアリ骨盤骨切り術

キアリ骨盤骨切り術

関節鏡視下手術

寛骨臼形成不全がないか軽度の、股関節症初期までの患者さんを対象に、主に関節唇損傷に用いられる術式です。

1cmほどの穴をあけ、筒を通してカメラで関節内をのぞきながら処置します。関節唇が断裂しているときは、この穴から器具を入れ、関節唇を縫合します。手術の傷が小さく、筋肉の損傷が少ないため、回復が早いメリットがある一方、難易度が高く医師の技量が問われます。

比較的新しい術式なので、合併症や後遺症など、まだ十分に解明できていない部分もあります。

人工関節置換手術

その名のとおり、自分の股関節を、人工の股関節に置き換える手術です。さまざまな原因で股関節が壊れてしまった場合、この手術が適応となります。

人工股関節は、それ自体の寿命や、土台となる骨の劣化などの問題によって、再置換が必要となることがあります。

しかし、近年は人工関節の精度が上がり、以前は10~15年と考えられていた人工股関節の寿命が伸びてきたため、若年層への手術も増えてきました。

現在、股関節手術の選択においては、「タイムセービング」という考え方が重視されています。骨切り手術で時間を稼ぎ、人工関節の手術回数をなるべく少なく済ませるなど、生涯の時間軸で考えることが重要です。

画像: 人工関節置換手術

人工股関節置換手術は、傷の小ささだけを重視する手術から、筋肉を傷めずに早期回復を目指す手術へと、この10数年で大きな進歩を遂げてきました。

かつては、患者さんは横向きの体勢で手術をしていたのが、仰向けの状態でも可能になったことで、より骨盤の位置が安定するため、狙った場所に確実に人工股関節を挿入できるようになっています。

また、前外側から切り込むことで、出血量が少なく筋肉を傷めにくいため、入院期間は2週間以内、若い人なら1週間と、かなり早い回復が見込めるようになりました。

また、仰向けで手術をすることで、常に左右の足を見比べることができるので、脚長差をできるだけ小さくできるという利点もあります。

「足の長さが変わるのは仕方がない。あとはインソールなどで調整すればよい」と考える医師が少なくありませんが、私は患者さんの生活の質を維持するためにも、できるだけ脚長差が出ないよう心がけながら、手術を行っています。

画像: この記事は『安心』2021年10月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『安心』2021年10月号に掲載されています。

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