解説者のプロフィール

塚見史博(つかみ・ふみひろ)
塚見鍼灸治療室院長。都内のメディカルクリニックに20年間勤務。その後、自然治癒力を高めて病気を根本から治す「塚見式耳鍼療法」を確立。さまざまな痛みや生活習慣病、ストレス性の疾患などを中心に、治療に当たっている。
耳鍼療法は脳を元気にする
私の治療室では、患者さんの耳に鍼を打つ「耳鍼療法」を行っています。これは、約70年前にフランスの医学博士・ノジェ氏が提唱した「耳介医学」の理論に沿った治療法です。
この治療法は、ひと言でいうと「脳を元気にする」治療です。脳が元気なら、自然治癒力が活性化されて、さまざまな症状が改善していきます。
実際にこれまで、糖尿病や高血圧などの慢性疾患、腰痛、肩こり、耳鳴り、めまい、難聴、うつ、アレルギー性疾患、自律神経失調症(内臓や血管の働きを調整する神経の不調によって起こる症状)など、数多くの疾患や症状に効果を上げてきました。
中でも、ほとんどの人に効果があるのが、目の症状と慢性痛の改善です。他の症状で来られた方が、治療が終わると「目の疲れが取れた」「ハッキリ見えるようになった」とか、「腰痛がらくになった」「ひざ痛が軽くなった」などとおっしゃいます。
その顕著な例をご紹介しましょう。「ニキビを治したい」と来院されたAさん(40代男性)です。お母さんが、当院の治療で肌がとてもきれいになったのが、来院のきっかけでした。1ヵ月ほど治療を続けた頃、Aさんが「この治療を受けると、腰が痛くならない」とおっしゃいました。
聞くと、脊柱管狭窄症(背骨内部の神経の通り道が狭くなり、神経が圧迫されて痛みやしびれが出る病気)があり、家から歩いて10分の駅まで、2回も休まないと行けなかったそうです。しびれが強く、足の感覚もマヒしており、「手術しても治らないかも」と医師から言われたとのこと。それが、駅まで休まず歩けるようになりました。
耳鍼療法は、ギックリ腰のような急性の痛みを除く、痛み全般に効果があります。中でも、腰痛、肩こり、ひざや股関節の痛み、帯状疱疹、神経痛、昔の古傷など、血流が悪くなって起こる慢性的な痛みや、自律神経に関わる痛みに、特に効果があります。
目についても、ほぼ全員の方が、「見え方がよくなった」とおっしゃいます。私は、耳鍼療法の前後に患者さんに視力測定をしてもらっていますが、ほとんどの方が、治療前より視力が向上するようです。
視力や見え方だけでなく、ドライアイ、眼精疲労、飛蚊症(目の前を蚊が飛ぶように見える症状)も改善します。具体例をご紹介しましょう。
Bさん(40代男性)は、2~3年前に左目の飛蚊症になりました。眼科で検査を受けましたが、目に異常はなく、ストレスなどの影響によるものではないかと言われたそうです。それが、耳鍼療法を行って1回でなくなったそうで、とても驚いていらっしゃいました。治療の間隔が空くと、飛蚊症がまた出てくるとのことですが、それでも、以前に比べると、頻度は減っているそうです。
耳にある三つの万能反応点を刺激する
耳鍼療法で病気がよくなるメカニズムは、痛みも目の症状も同じです。耳の穴の近くにある、星状神経節を中心とした脳中枢の反射点を刺激することによって、脳の血流がよくなるからです。
この反射点に対応する星状神経節は、のどの横にあり、ここには自律神経のうちの交感神経(心拍数や血圧を上げるなど、全身の活動力を高める神経)が集まっています。
西洋医学では、この星状神経節にブロック注射を打ち、交感神経の過剰な働きを遮断します。それによって脳の血流がよくなり、体温調節や内分泌機能をつかさどる視床下部の働きが活発になって、免疫機能(病気に抵抗する働き)が正常化します。その効果は痛みの緩和だけでなく、240種類もの病気の治療に及ぶとされています。
私は、星状神経節ブロック療法の第一人者である、故・若杉文吉先生とともに、耳に行う星状神経節の刺激療法を研究し、実際に治療に用いてきました。そして、西洋医学のブロック療法に劣らない多様な効果があることを確かめたのです。
この治療法を、家庭でも手軽に行えるように考案したのが、今回ご紹介する「耳もみ」です。
耳の穴に真横から人さし指をまっすぐ伸ばして入れると、指の腹に軟骨が当たります。そこに、星状神経節、中頸神経節、上頸神経節という交感神経に作用する3つの反射点が縦に並んでいます。
この3点は、全身の症状をカバーする万能の反射点です。ここを刺激して脳の血流がよくなると、脳が正常に働くようになり、自然治癒力が向上します。中には、毎年かかっていたインフルエンザに、治療を始めてから10年間一度もかかっていない人もいます。
脳の血流が増えれば、全身の血流障害が改善して、痛みが取れていきます。また、目の周辺の毛細血管の血流も増えるので、目を取り囲む筋肉の働きがよくなります。加えて、自律神経のバランスが整うこともあり、視力が上がったり、飛蚊症や眼精疲労、ドライアイなどの症状が改善したりするのです。
最近気づいたのは、3点のうちの上頸神経節を刺激すると、目の表面に油を供給するマイポーム腺の働きがよくなり、目が乾かなくなることです。耳の3つの反射点は、少しずつ作用範囲が異なりますが、ドライアイの人は、上頸神経節の刺激が特に効果的です。
とはいえ、耳もみでは、そこまで意識する必要はありません。指で広い範囲を刺激できますし、多少位置がずれても、どこかの反射点に当たっていれば、効果はあります。
耳もみのやり方は、下項の通りです。行う時間に決まりはありませんから、時間のあるときに、こまめに行う習慣をつけるとよいでしょう。
なお、反射点を押すときは、爪を立てず、指の腹で押してください。こすったり指を滑らせたりすると、耳の皮がむけて痛くなります。また、耳を傷つけないように、爪を切ってから行ってください。
「耳もみ」のやり方
※耳の皮がむけてしまうことがあるので、耳を強く引っ張ったり、こするように触ったりしない。
※耳の中を傷つけないように、必ず爪を切ってから行う。
※やり過ぎると、耳にすり傷を作ってしまう可能性があるので、ほどほどに行う。
3つの反射点

❶人さし指を耳の穴に真横からまっすぐ入れ、指の腹を耳の穴の外側にある軟骨に当てる。親指を耳の後ろに当てて、耳を挟むように持つ。
※こうすると、人さし指の腹がちょうど3つの反射点に当たる。

❷両方の耳を①のように挟んだら、ギュッギュッと20回以上押して刺激する。押して硬いところや痛いところを重点的に、肩が温まってくるまで行うとよい。

テーブルに両ひじをついて行うと、らくにできる。1日に何回行ってもよい。

この記事は『安心』2021年10月号に掲載されています。
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