解説者のプロフィール

田中勝(たなか・まさる)
田中鍼灸指圧治療院院長。1948年北海道出身。鍼・灸・あんまマッサージ指圧師。治療にとどまらず、鍼温灸や経絡あんま、関節運動法講習会を開催するなど、精力的に活動している。DVD『よくある症状への手技療法』(医道の日本社)が好評発売中。
▼田中鍼灸指圧治療院(公式サイト)
その人に合った適切な食欲になる
伝統的な医学では、胴体に対して出っ張っているところ、例えば耳や手足の先に全身が投影されている、という考え方があります。耳のツボに鍼を打つ「耳鍼療法」も、その考えに基づいた治療法の一つです。
耳鍼療法は、ダイエットに役立つことでよく知られています。私も、鍼灸師になったばかりの30年前に勉強したことがありますが、当時は思うような効果が得られず、治療で使うことはありませんでした。
しかし、その後再挑戦し、私なりに「やせる耳ツボ」を探しました。従来の耳ツボにとらわれず、耳の中をつまようじの頭(とがっていない側)で細かく刺激したところ、これまで誰も知らなかったツボを発見したのです。それが今回ご紹介する、「田中流やせる耳ツボ」です。
なぜそれがやせるツボなのかといえば、「中脘(ちゅういん)」というツボと深い関係があるからです。
中脘は体の前面の正中線上の、みぞおちとへその中間点にある、胃に関係の深いツボで、「胃の診断点」と呼ばれています。押すと痛みがありますが、やせる耳ツボを刺激しながら押すと、中脘が軟らかくなり、痛みや不快感が軽減されます。これは、胃の機能が改善したからです。
「胃の機能がよくなれば、食べ過ぎてしまうのでは?」と思うかもしれませんが、そうではありません。食べ過ぎている人は食欲が抑えられ、食べられない人は食欲が増します。つまり、その人に合った適切な食欲になるのです。
また、胃(内臓)の機能がよくなると、胃を弱らせるようなことを、体がしなくなります。したがって食べる量だけでなく、食べる物も変わってきます。
それを確認するために、私はやせる耳ツボへの刺激前と後に、患者さんに白砂糖をなめてもらっています。刺激後に白砂糖をなめると、甘味が薄かったり濃過ぎたりして、おいしく感じられません。そのため、甘い物を食べたくなくなります。
甘い物には、代謝されてブドウ糖になる炭水化物も含まれます。したがってご飯やパン、イモなども欲しくなくなります。反対に、今まで嫌いだった物でも、体に必要な物をおいしく感じられるようになります。
このように、目で見て脳が食べたいと思う物でなく、体が欲する物を食べたくなるのです。こうして乱れた食欲が整い、本当に体が必要としている物を食べるようになれば、自然に、健康的にやせていきます。
食べる前に押すとご飯やパンの量が減る
【ツボの位置】

私が発見したやせる耳ツボは、耳輪脚(耳の顔側の付け根)にあります。ここを耳の穴に向かって指でたどっていくと、ちょうど耳の穴の上辺りに小さな硬い出っ張りがあります。そこがツボの位置です。出っ張りの大きさや硬さには個人差がありますが、指で押すと痛みを感じます。
【刺激のしかた】

まずは、両耳のやせるツボに人さし指の先を当てて、斜め下に向けてぐっと押してみてください。痛さに左右差があることがわかるでしょう。
痛みが強い側のツボを、人さし指で、痛みが軽くなるまで斜め下に向けて押し続けます。だいたい1~3分ほどが目安です。痛みに左右差がない場合は、両側のツボを同様に押してください。
やせる耳ツボ刺激は、1日にいつ行っても、何度行っても構いませんが、次のようなときに行うと、即効的な効果があります。
①食事の前
食欲が抑えられ、ご飯やパンの量が減ります。
②小腹がすいたときや、おやつを食べたくなったとき
あまり食べたくなくなり、甘い物をおいしいと思わなくなります。
③買い物の前
パンやお菓子など、余分な物を買いたいと思わなくなります。
また、仕事中についおやつを食べてしまう人は、1時間おきに耳ツボを刺激すると、食べずに済みます。
耳ツボを押す際は、爪ではなく人さし指の先で押してください。爪が伸びていると耳に傷がついて、炎症を起こすことがあるので、爪が伸びていないことを確認してから行ってください。
食習慣が変わるのでリバウンドしにくい
このやせる耳ツボを使って22kg減量した、A子さん(50代女性)の例を紹介しましょう。
A子さんは病気が見つかり、すでに手術が決まっていました。しかし、「どうしても手術を受けたくない」と、来院されました。そのときのA子さんは、身長159cmで体重が74kg。この5年間で12kgも太ってしまったそうです。
A子さんはアイスクリームやお菓子が大好きだというので、まずは甘い物をやめてもらい、青い葉物野菜をたくさんとるようにアドバイスしました。
そして、それと同時に全身の気(一種の生命エネルギー)の流れを整える鍼灸治療を行い、やせる耳ツボに円皮鍼(ごく細く短い鍼のついたシール)をはりました。
A子さんは、私のアドバイスをよく守ってくれました。すると、みるみるうちに体重が減少。最初の1ヵ月で8kg、次の1ヵ月で8kg、その後の2ヵ月で6kgやせて、合計22㎏も減量。52kgになったのです。病院での再検査でも病状が改善したとのこと。
やせる耳ツボ刺激を2〜3ヵ月続けると、食べ過ぎてしまう人は食欲が抑えられて、ご飯の量が減ります。反対に食の細い人は、たくさん食べられるようになります。
また、味覚が変わって、甘い物が欲しくなくなります。試しに砂糖をなめて、3分ほどやせる耳ツボを押した後、もう一度砂糖をなめてみてください。最初になめたときと砂糖の甘味が違っておいしいと思えなかったら、効果が出ています。
こうして、自然によい食事が身についてくれば、自然にやせて、健康になっていきます。食習慣が変わるので、リバウンドもしにくいでしょう。健康的にやせたい方は、ぜひ、お役立てください。

この記事は『安心』2021年10月号に掲載されています。
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