解説者のプロフィール

笹川大瑛(ささかわ・ひろひで)
一般社団法人日本身体運動科学研究所所長。理学療法士、教育学修士。一般患者だけでなく、プロスポーツ選手のリハビリなども担当。著書に、『運動能力が10秒で上がる サボリ筋トレーニング』(KADOKAWA)がある。
太ももの内側の筋肉を鍛えることで痛みが軽減
加齢に伴って増えるのが、ひざの悩みです。ひざの痛みや違和感などは、整形外科や治療院でも完全に治すことが難しく、一時的によくなってもまた痛み始めることが少なくありません。そうしているうちに、ひざの筋肉の組織はもろくなり、関節の変形も進んでしまいます。
私は、関節に痛みを訴える人のほとんどが、関節を支え、正しく動かす筋肉が衰えていることに着目しました。
人は、使いやすい筋肉ばかりを使う傾向にあります。ということは、意識しないとほとんど使われない筋肉もあるということです。使われないと、筋力はどんどん落ちてしまいます。
その結果、筋肉の使い方のバランスが悪くなり、関節がねじれて動くようになって、腱や靱帯に負荷がかかります。そのストレスで関節に炎症が起こり、痛みが生じるというわけです。
ひざの場合は、ひざ関節を伸ばすのに太ももの大腿四頭筋が主に使われます。大腿四頭筋は、内側広筋、外側広筋、大腿直筋、中間広筋の四つの筋肉で形成されています。これらが正しく均等に働けば、ひざに余分な負荷はかかりませんから、痛みもありません。

しかし、大腿四頭筋の筋力が落ちてくると、主として内側広筋や内転筋の筋力が落ちます。特に女性は太もも内側の筋肉が弱ってしまうため、O脚の傾向が強くなります。年齢とともに内側広筋が弱ってくるとO脚が進行してがに股になり、ひざが曲がってきて、変形性ひざ関節症が進行します。
内側広筋と外側広筋の筋力の、バランスの崩れが進行すると、ひざの曲げ伸ばしの度にひざ関節にねじれなどの負荷をかけることになり、ひざが炎症を起こして腫れてきます。そのまま放っておけば、ひざを動かすたびにねじれますから、炎症や痛みがひどくなります。
内側広筋が弱ると、ひざがピンと伸びず、ねこ背で重心が前方にかかって、トボトボとした歩き方になります。やがて、徐々に歩くスピードが遅くなり、階段が下りられない、正座ができないなど、日常生活の動作に制限がかかってきます。高齢者であれば、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)の始まりです。
ここまでの説明でおわかりいただけたと思いますが、ひざの痛みを取るには、太ももの内側広筋と外側広筋の筋力のバランスを崩さないことが重要です。内側広筋をしっかり鍛えれば、痛みは軽減します。
太ももの筋肉バランスが整うと姿勢も改善
そのための有効なトレーニングとして、私がたどり着いたのが「関節ゆるトレ」です。
関節ゆるトレとは、関節のトラブルを予防し、痛みを取り除くことが目的のトレーニングです。筋トレと大きく異なる点は、その目的にあります。
すべての筋トレが該当するとはいいませんが、筋トレは使いやすい筋肉を鍛えることが大半です。筋力のアンバランスが生じている状態で筋トレを行うと、やればやるほど関節を痛めることになります。
一方、関節ゆるトレは、筋力の落ちている筋肉をピンポイントで鍛えることで、関節が正しくスムーズに動くようになります。
ひざの関節ゆるトレのやり方を下項で紹介します。ひざの痛みにお悩みの人はぜひ実践してください。
関節ゆるトレはいつ行ってもかまいませんが、動き出す前の寝起きにするのがベストです。毎日、1〜2セット行うことを目標に続けてください。
正しいフォームで行えば、自然と太ももの内側が働いて内側広筋に力が入ります。トレーニングを行っている最中に、ひざに痛みを感じる場合は、やり方が間違っていないか、よく確認してください。
またふだん運動不足の人は、翌日に筋肉痛を感じることがありますが、これは筋肉に効いている証なので問題ありません。
なお、ひざの腫れがひどい場合は悪化させることもあるので、行わないでください。
大腿四頭筋がバランスよく鍛えられると、ゆがんだ姿勢や動作が改善されるので、見た目も若々しくなってきます。関節ゆるトレを毎日の習慣にして、健康なひざを取り戻してください。
ひざの関節ゆるトレのやり方
※両ひざを立てられる場合、左右同時に行ってもOK。
※ひざを曲げない側の足がつらい場合は、足を曲げてもかまわない。

❶あおむけになり、左足のつま先を内側に入れつつ、つま先とかかとが床から離れないように左ひざを外側に倒す。

❷左足のかかとで床を押し、左足の太ももの内側に力を入れながらまっすぐお尻を上げて10秒キープ。おしりを下ろして1回とし、3回くり返す。右足でも同様に行う。

この記事は『壮快』2021年10月号に掲載されています。
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