ひざの痛みの予防体操というと、筋力アップを目的とするものが主流でしたが、かたくなった組織を無理に動かすと炎症を悪化させ、痛みがひどくなることもあります。そこで、実践していただきたいのが、ひざの関節包や滑膜といった、軟部組織をやわらかくする「ゆるひざ体操」です。【解説】今屋健(関東労災病院中央リハビリテーション部主任理学療法士)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

今屋健(いまや・たけし)

関東労災病院中央リハビリテーション部主任理学療法士。平成4年、九州リハビリテーション大学校卒業。同年、関東労災病院に入職。主任理学療法士として、多くの患者の痛みを取ることに尽力する傍ら、日本体育協会認定アスレティックトレーナーとして、プロスポーツ選手のリハビリなど体のケアも行う。医療関係者向けの著書やセミナー等も高い評価を得ている。
▼関東労災病院(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

ひざ周りの軟部組織をやわらかくする

これまで、ひざの痛みの予防体操というと、ひざに関連する筋肉の筋力アップを目的とするものが主流でした。しかしそれだけでは痛みの改善は難しく、患者さんの多くが痛みを何年も我慢している、というのが実情です。

筋トレは確かに重要です。しかし、その筋トレが痛む場所へ正しく対処できていなければ、痛みが改善されないのです。

リハビリに訪れる患者さんに、「痛いのは、ひざのどの辺りですか?」と質問すると、ほとんどの人がひざのお皿(膝蓋骨)周りを指します。つまり、そこが炎症を起こして痛みを発していると考えられるのです。

ひざのお皿の内側や周辺には、 関節包や滑膜、滑液包といったジェル状の軟部組織があります。この組織が潤滑油のような働きをすることで、ひざはスムーズに動くのです。

画像: ひざ周りの軟部組織をやわらかくする

しかし、炎症を起こした軟部組織はかたくなり、放っておくと組織が癒着を起こすこともあります。

かたくなった組織を筋トレで無理に動かすと炎症を悪化させて、痛みがひどくなることもあります。ですから、ひざの痛みの予防体操は、軟部組織をやわらかくする動きがよいのです。

そこで、つらいひざの痛みを抱えている人にぜひ実践していただきたいのが、「ゆるひざ体操」です(やり方は下項参照)。かたくなった軟部組織に対処して、炎症を解消していきます。

それと同時に、かたくなった関節の可動域を改善するので、ひざをスムーズに動かすことができるようになります。

ひざが伸ばせなかった高齢の男性にゆるひざ体操を指導したところ、リハビリを終えて帰るときには、ひざの伸びが大きく改善されていました。

また、整形外科でレントゲンを撮って変形性ひざ関節症と診断され、足を引きずりながらリハビリにきた女性も、ゆるひざ体操をしたあとには、足を引きずることなく歩くことができるようになりました。

ひざの変形と痛みは、「年だからしかたない」とあきらめている人が多いと思います。しかし、正しく対処すれば改善するのです。

歩くのがつらい人でもできるセルフケア

ゆるひざ体操には、いくつかの種類があります。ここでは軟部組織をやわらかくするマッサージ「お皿の下ゆらし」と「ひざ伸ばし」を紹介します。いずれも1分ぐらいでできるので、両方をセットで行うのがお勧めです。

◎お皿の下ゆらし

まず初めに、「お皿の下ゆらし」でひざ周りをやわらかくしましょう。

高齢者に多いのが、お皿の下辺りの痛みです。ひざの奥の脂肪体がかたくなって炎症を起こしていると、お皿の下に痛みを感じます。また、脂肪体周辺の滑膜が炎症を起こしている可能性もあります。お皿の下ゆらしで、脂肪体と滑膜をやわらかくしましょう。

軟部組織がかたくなっていると、お皿を動かしにくいですが、やわらかければスムーズに動かせます。動きが悪くてもお皿の下ゆらしを継続していくことで、スムーズに動くようになります。

なお、太ももに力が入っていると、お皿を動かしにくい、と感じることがあります。リラックスして太ももの力を抜き、できるだけひざを伸ばして行ってください。

◎ひざ伸ばし

次に、「ひざ伸ばし」です。ひざの裏をしっかり伸ばすと、関節の柔軟性が高まります。ひざの腫れや曲げ伸ばしの痛み、動き始めの痛みや、ひざにこわばりがある人にお勧めの体操です。

上半身の力を使って、ひざを伸ばし、縮ませることで無理なくひざを動かすことができます。ひざ痛対策として歩くことは重要ですが、歩くのがつらい人でも、ゆるひざ体操なら座ったまま行えます。

■ポイント

なお、お皿の下ゆらしもひざ伸ばしも、イスを使って行ってもかまいません。浅く腰かけてひざを伸ばし、かかとを床に着けて行いましょう。

行うベストタイミングは、入浴中や、お風呂上がりです。ひざが温まると軟部組織がやわらかくなるので、負担をかけずに動かすことができ、効果も出やすくなります。

なによりいちばん大事なのは、継続することです。お風呂のほかにも、テレビを見ながらなど、習慣にすれば続けやすいでしょう。

ただし、ひざが腫れているときや、熱を持っているとき、行っていて強く痛みを感じるときはやめてください

痛みを10段階で表した場合、3くらいまでの痛みなら問題ありません。しかし、それより強い痛みを感じたり、その痛みが翌日まで続いたりする場合は、医療機関で診察を受けることをお勧めします。

ひざの調子は日によって変化します。その日の調子に合わせながら、根気よく続けましょう。ひざの曲がる角度が20度から10度になっただけで、ひざが格段に伸びたように感じるでしょう。動きもよくなり、歩きやすさも変わります。

そのくり返しで、ゆるひざ体操を続けていけば、曲がっていたひざが伸びてくるのです。あきらめる前に、ゆるひざ体操をぜひ実践してください。

ゆるひざ体操のやり方

※1日何回行ってもOK。
※入浴中、入浴後など体が温まった状態で行うのがお勧め。

お皿の下ゆらし

画像1: お皿の下ゆらし

ひざをなるべく伸ばして床に座り、左ひざのお皿に両手を添えて、すねに近い縁の部分を親指で押さえる。

画像2: お皿の下ゆらし

お皿の縁を左右の親指で30秒間押し合う。右ひざも同様に行う。

画像3: お皿の下ゆらし

親指で行うのがつらく感じる場合は、人差し指で押してもいい。

ひざ伸ばし

画像1: ひざ伸ばし

ひざを伸ばして床に座る。

画像2: ひざ伸ばし

両手で左足の太ももを持ち上げながら、痛気持ちいいと感じられるところまで、左ひざを曲げる。

画像3: ひざ伸ばし

左足の太ももに両手を添えて、親指で押しながら、かかとを滑らせて左ひざを伸ばす。

画像4: ひざ伸ばし

伸ばせるところまで伸ばしたら、両手のひらで太ももをグッと下に押して、3秒間キープ。右足も同様に行う。
左右それぞれ10回ずつ行う。

画像: この記事は『壮快』2021年10月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年10月号に掲載されています。

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