中高年に起こりやすい「変形性ひざ関節症」の痛み対策として最も有効なのが、「負担をかけ過ぎない」ことと「適度に動かす」ことです。一見矛盾しているように思われるかもしれませんが、両方ともとても大事なことです。そしてもう一つ心がけてほしいのが「冷やさない」ことです。【解説】福井尚志(東京大学大学院教授)

解説者のプロフィール

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福井尚志(ふくい・なおし)

1960年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科教授。東京大学医学部卒業、整形外科専門医。医学博士。独立行政法人国立病院機構相模原病院臨床研究センター客員研究員。国際変形性関節症学会会員。ひざ関節症について、20年以上にわたり研究を続け、研究代表者として多くの論文を発表している。
▼専門分野と研究論文(CiNii)

軟骨がすり減っても痛いのは3人に1人

中高年に起こりやすい「変形性ひざ関節症」の痛みは、ひざの軟骨が滑らかさを失って、すり減ることから始まります。

もちろん、年齢による変化だけで軟骨がすり減るわけではありません。軟骨に加わる負担の程度も大きく関係します。例えば、肥満の人はひざ関節により体重がかかるので、軟骨がすり減りやすい傾向にあります。また、しゃがんで長時間作業するような仕事はひざを痛めやすいですし、けがによって軟骨が欠けてしまう場合もあります。

しかし、軟骨がすり減っても、それで直接痛みが出ることはありません。実際、軟骨がすり減った人のなかでひざの痛みに困っている人は、およそ3人に1人しかいません。

これには、軟骨には神経が通っていないことが関係しています。痛みに困る人は、軟骨がすり減ったことで直接痛みが出ているのではなく、すり減ったために痛みを生じるような変化が起こっているのです。

画像: ひざ痛に関係する骨・筋肉

ひざ痛に関係する骨・筋肉

その一つが、ひざ関節の炎症です。軟骨がすり減ったときに生じる軟骨の細かな破片が、ひざ関節を覆う滑膜を刺激して炎症を起こすことで痛みを感じます。ひざに水が溜まるのも同じ理由です。

もう一つの変化は、ひざ関節を構成している骨に起こります。軟骨は関節のクッションですから、軟骨がすり減って、ひざ関節の骨に直接、衝撃が加わるようになると、骨の内部に細かいひびが入り、それによって痛みが生じることもあります。

変形性ひざ関節症の患者さんは、女性に多い傾向があります。男性に比べて筋力が弱いことや、女性のほうが骨粗鬆症になりやすく、骨がもろい傾向があることなどが影響しているともいわれますが、はっきりとした理由はわかっていません。

軟骨がすり減っている人の9割以上は内側の軟骨が減っています。外側より内側の軟骨がすり減りやすいのは、歩くときにひざの内側により多くの体重がかかるためです。

内側の軟骨が一度すり減り始めると、O脚ぎみになり、ひざの内側にさらに体重がかかるようになって軟骨のすり減りが進むという悪循環が生じます。

「少し痛い」程度なら散歩や運動をしよう

加齢に伴って軟骨が老化するのは、避けられないことかもしれません。では軟骨が老化しても、ひざの痛みで困らないようにするには、どうすればよいでしょうか。

ひざの痛み対策として最も有効なのが、「負担をかけ過ぎない」ことと「適度に動かす」ことです。この二つは一見矛盾しているように思われるかもしれませんが、ひざの痛みを軽くするためには両方ともとても大事なことです。

ひざの痛みを感じるようになったら、ひざへの過度の負担は避けるようにしましょう。肥満傾向の人はぜひ減量に挑戦してください。体重が減ることでひざの痛みが減るばかりか、将来の軟骨のすり減りも防げることがわかっています。

負担をかけないようにとはいっても、動かさずにいると、ひざ周りの筋力が低下したり、ひざ関節がかたくなったりします。特にひざ周りの筋肉が弱くなると関節を筋肉で支えられなくなるため、痛みが悪化します。そうなると、さらにひざを使わなくなり、筋肉がもっと弱くなるという悪循環が生じます。

日常生活では、重い物を手に持つことは避けましょう。左右どちらかに負担が集中しないリュックがお勧めです。ただし、あまり重い物を背負うと、ひざはもちろん、腰にも負担がかかります。

ひざの曲げ伸ばしや階段の上り下りで「少し痛い」くらいなら、毎日、30分程度、少し早足で散歩することから始めてみましょう。ストレッチや筋力トレーニングもお勧めです。

ただし運動をして、痛みが強くなるようならすぐにやめましょう。また、じっとしていてもひざが痛む人や、痛みが強くて少し歩くのもつらいような人は、やはり医師による治療が必要です。

画像: 適度に動かすことが重要!

適度に動かすことが重要!

冷湿布と温湿布、どちらがいい?

もう一つ、変形性ひざ関節症の痛み対策として心がけてほしいのが「冷やさない」ことです。夏は油断しがちですが、エアコンや扇風機の風が当たって痛みを感じる人は少なくありません。そのため季節に関係なく、緩めの保温用のサポーターをひざにつけるよう、患者さんには勧めています。

サポーターのなかには、関節をしっかりと固定する物や、金属が入ったがっちりした物もありますが、長い時間つけていると足がむくんだり筋肉が弱くなったりすることがあります。まず、緩めの保温用のサポーターを試してください。

整形外科に通院している人は、冷湿布を処方されている場合もあると思います。先に「冷やしてはいけない」と説明したので、「冷湿布でいいの?」と思われるかもしれませんが、冷湿布は冷感はあってもひざの中まで冷やすことはありません。

最近の湿布は、炎症を抑えて痛みを和らげる成分が含まれていますから、冷湿布でも使用されることをお勧めします。保温が大事なら温湿布のほうがいいのでは、と思われるかもしれませんが、温湿布では含まれている唐辛子の成分がかぶれの原因になることがあります。その点が大丈夫であれば、温湿布でももちろん問題ありません。

ひざの痛みには個人差がありますが、初期のうちは、時間が経つにつれ痛みが落ち着いてくることがほとんどです。

しかし、痛みをくり返すと、しだいに治りにくく、慢性化するようになります。痛みを感じるようになったら、早めにしっかり対応して将来痛みが出にくいひざにしておきましょう

ひざが痛くて思うように活動できないと、外出の回数が減って、人と会う機会も減り、生活の質はどんどん低下します。いつまでも自分の足で歩くために、ふだんから適度な運動を行い、肥満を予防・解消するなど、日々の生活習慣を見直しましょう。

画像: この記事は『壮快』2021年10月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年10月号に掲載されています。

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