解説者のプロフィール

長谷川嘉哉(はせがわ・よしや)
医療法人ブレイングループ理事長。1990年、名古屋市立大学医学部卒業。医学博士。日本神経学会専門医、日本内科学会専門医、日本老年医学会専門医、介護支援専門員。2000年、岐阜県土岐市に、認知症専門外来および在宅医療の普及のため土岐内科クリニックを開業。月に1000人以上、これまでに延べ20万人以上の認知症患者を診察した経験から予防医学の重要性を訴えるとともに、医療法人ブレイングループ理事長として、在宅医療の推進に注力。著書多数。
▼土岐内科クリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
カロリーよりも血糖値への影響を重視
私の専門は認知症ですが、糖尿病になると認知症の発症リスクが高まるので、糖尿病を防ぐ食生活は重要な課題としています。
また、私自身は、糖尿病ではないのですが、血糖値スパイク(食後高血糖)があることが、昨年判明しました。血糖値スパイクは、食後の血糖値が急激に乱高下する耐糖能異常です。
健康な人なら、食後に血糖値を測っても、140mg/dlを超えることはありません。しかし血糖値スパイクがあると血糖値が急激に上昇し、140mg/dlを超え、また急激に正常値に戻ります。血管の内皮に負担をかけるので、心筋梗塞や脳梗塞のリスクも増加します。
自分に血糖値スパイクがあるとわかって以降は、カロリーよりも血糖値への影響を重視して食事を選ぶようになりました。
そうしたわけで、私のおやつや食習慣は、糖尿病患者さんやその予備軍、および認知症を予防したい皆さんの、一つの参考になるかと思います。
私が口寂しくなったとき、まず手に取るのは、ガムです。糖質を含まず、原材料表示に、キシリトール、ソルビトール、マルチトールなどと書かれている物を選ぶようにしています。
キシリトールは、シラカバの木などを原料に作られる天然の甘味料。プラーク(歯垢)の量を減らし歯磨きで落としやすくする、酸を作らない、虫歯(う歯)の原料であるミュータンス菌を減らす、歯の再石灰化を助けるなどの働きがあります。
一般に、「○○トール」という甘味料はキシリトールと同じ糖アルコール類です。虫歯にならないので、安心して口にできます。
認知症を遠ざけるには糖尿病予防が肝心と述べましたが、歯周病もまた、認知症と深い関連があることがわかっています。
歯周病菌が血液中に送り出した炎症物質が脳に入ると、アミロイドβという物質が増えます。この物質が脳に蓄積することが、アルツハイマー型認知症の発生・悪化メカニズムと考えられています。歯周病予防が、認知症対策になるのです。
虫歯や歯周病の予防に役立つガムを噛めば、口の中をきれいに保つことができます。また、噛むことで脳の血流がよくなりアミロイドβを押し流します。
さらに、噛む行為は脳を刺激して、記憶力や判断力、集中力を向上させます。このようにガムを噛むことは、三つの側面から認知症予防に有効です。
加えて、咀嚼は脳の満腹中枢を刺激します。ガムは空腹感を紛らわすのにも、うってつけのおやつといえるのです。
長谷川先生のおやつは
歯にいいガム

歯にいいガム
3つの側面から実は、認知症予防に有効
スイーツは間食ではなく食後のデザートに
ガムのほかにおやつを挙げるなら、ゆで卵をお勧めします。
卵には認知症予防に役立つ成分が含まれるうえ、糖尿病リスクも下げることが研究でわかっています。腹持ちもよく栄養もとれて、いいことずくめです。
おやつ以外の、私の食生活についてもお伝えしましょう。
私はいつも、朝5時に起床します。以前は朝食にバナナを食べていました。バナナは、ご飯1膳や食パン1枚よりも、カロリーも糖質も低いからです。
けれども、バナナを食べると食後血糖値が毎回180mg/dlを超えることがわかったので、やめました。今は、ハムやサラダ、チーズなど、糖質抜きのメニューです。それも、野菜を最初に食べて食物繊維を先に胃腸に入れることで、血糖値の上昇を抑えるようにしています。
どうしてもパンが欲しくなったら、オリーブオイルをつけて食べることも。炭水化物を油といっしょにとると、血糖値の上昇が緩やかになるからです。
また、急いで食べるのも血糖値スパイクを招くので、食事はゆっくりと。食後は軽くトレーニングをして、新聞や本を読みブログ記事を書いてから、午前の診療に入ります。
昼食は外食のときもあれば、買った物でパパッと済ませることもありますが、やはり糖質の少ない物を選びます。昼食後はコーヒーを飲み、10~20分ほど仮眠をとるのが私流です。
昼間、短時間の仮眠を取ることが午後の仕事の効率を高め、認知症のリスクも下げることがわかっています。コーヒーを飲んですぐに仮眠を取ることで、カフェインが作用し始めたころに目が覚めます。満腹感による眠気を感じることなく、スッキリと仕事に向かえます。
人からいただいたスイーツなどを食べるときは、間食ではなく、昼か夜の、食後のデザートにするのも、工夫の一つ。先に食べ物が入っているぶん、糖の吸収が妨げられ、血糖値が上がりにくいからです。
夕食は、和食もいいですが、野菜や魚介類、豆類やナッツ、オリーブオイルを多用した「地中海食」を意識してとるようにしています。こうした食事が、認知機能の低下を防ぐという論文が複数発表されています。
食生活に気をつけるだけで、脳も体も健康度を上げることができます。皆さんも、できることから始めてみませんか。

この記事は『壮快』2021年10月号に掲載されています。
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