解説者のプロフィール

西崎泰弘(にしざき・やすひろ)
東海大学医学部付属東京病院病院長。1986年東海大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部大学院、UCLAリサーチフェローを経て、現在に至る。東海大学医学部付属東京病院健診センター長、東海大学医学部基盤診療学系健康管理学主任教授、日本総合健診医学会副理事長、国際健診学会理事なども務める。著書・監修本に『検査のしくみ 検査値の読み方』(日本実業出版社)などがある。
▼東海大学医学部付属東京病院(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
アブラナ科植物の成分が肝臓に好影響
近年、肝臓の治療において、野菜など食品に含まれる成分にも期待が寄せられており、なかでも「スルフォラファン」という成分が注目されています。
この成分は、ブロッコリーやキャベツ、カブ、ダイコンなど、アブラナ科の植物などに「スルフォラファングルコシノレート(SGS)」として存在し、体内で分解されることでスルフォラファンに変わります。
これまでの研究で、スルフォラファンには解毒作用、抗酸化作用、抗炎症作用が示唆されていました。しかし、いずれも培養細胞や実験動物を用いた実験成果だったのです。
そこで2014年、私たちの研究グループは、カゴメ株式会社との共同研究で世界初のヒト介入試験を行いました。協力いただいたのは、当院に通院していたAST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPのいずれかが正常値より高い52名の患者さんです。年齢は40~60代、ほぼ全員に脂肪肝がありました。
試験では二つのグループに分け、2ヵ月間毎日1日1回、片方のグループはSGSを10mg含むカプセルを3粒、他方はSGSを含まないカプセル(プラセボ)を服用してもらいました。
その結果、SGSを服用したグループは、ALTとγ-GTPが統計学的に有意に改善。プラセボを服用したグループでは、改善は見られませんでした。

(第40回日本肝臓学会東部会発表用資料をもとに作図)
これは、まず抗酸化作用による効果だと考えられます。脂肪肝の人は、肝臓への血流が妨げられ、活性酸素(酸化ストレス、老化やがんの原因となる物質)が多く発生し、肝臓がダメージを受けています。SGSを服用した人は、酸化ストレスマーカー値が下がったのです。
ほかに本研究では、コレステロール値が下がる結果が得られました。より長期的にスルフォラファンを摂取すれば、脂質代謝の改善により、脂肪肝自体の解消も期待できます。さらに、従来から唱えられている解毒作用や抗炎症作用も働き、肝機能の改善が見られたのでしょう。
なお、ASTの改善は見られませんでした。ALTやγ-GTPは、ほとんどが肝臓にある酵素ですが、ASTは心筋や骨格筋にも存在する酵素です。このことから、スルフォラファンは肝臓に直接働きかけることが考えられます。
この臨床研究は、肝機能値が正常でない人、脂肪肝のある人が対象でしたが、そうでない人にも、炎症の予防など、肝臓にいい影響が期待できます。
またSGSを服用したかたから、寝つきがよくなったという声を多く聞きました。そこで後日、私たちはスルフォラファンが睡眠に与える影響の臨床研究も行いました。
すると、睡眠の質を向上するという結果が得られました。これはメラトニン(睡眠や覚醒をつかさどるホルモン)の分泌を促す働きと、炎症を鎮める働きによると考えられます。この研究結果は近日、医学雑誌に掲載予定です。
スープに入れるなら汁ごととるのがポイント
日常生活でスルフォラファンを摂取するには、SGSが特に豊富なブロッコリースプラウトがお勧めです。なかでも、3~7日までの新芽(スーパースプラウト)に多く含まれます。継続して食べると、肝機能を回復する効果が期待できます。
生のままが最もよい食べ方ですが、スルフォラファンとしてとり入れるには、かなり咀嚼する必要があります。また、前述の研究に相当するブロッコリースーパースプラウトの量は、およそ1パック半。そのまま食べるにはかなりの量です。
そこでお勧めしたいのが、さっと湯通ししたおひたしです。かさが減り、半パック分を2~3口で食べられます。ポトフやスープに入れるのもいいでしょう。SGSは熱に強いものの、水溶性ですので、汁ごといただくのがポイントです。
私は、よくカレーに入れて食べています。ブロッコリースプラウトの辛みが中和されつつ、サクサク感がほどよいアクセントになります。
ほかにも、冷奴や麺類の薬味にするなど、いろいろな食べ方が楽しめます。ブロッコリースプラウトで肝機能を回復させて、質のよい睡眠をとってください。

この記事は『壮快』2021年10月号に掲載されています。
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