腎臓病の治療指針において、たんぱく質制限はいわば常識でしたが、近年、変化が現れています。腎臓専門医のなかでも見解が分かれてはいますが、たんぱく質の摂取量と腎機能に関する研究から、低たんぱく食により栄養不足になる弊害のほうが大きいと考える医師が増えてきたのです。【解説】八田告(八田内科医院院長)

解説者のプロフィール

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八田告(はった・つぐる)

八田内科医院院長。1992年、島根大学医学部卒業。近江八幡市民病院内科、京都府立医科大学腎臓高血圧内科などを経て、近江八幡市立総合医療センターの腎臓センターと京都府立医科大学薬理学教室に兼務。2013年、腎臓センター顧問を務めつつ八田内科医院を開業。15年、京都大学大学院医学研究科非常勤講師。日本透析学会認定医・指導医。日本腎臓学会専門医・指導医。日本循環器学会専門医ほか。医学博士。
▼八田内科医院(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

近年になり治療指針の常識が変わってきた

私の医院は総合内科で、腎臓病、高血圧、循環器医療を専門としています。日々の診療のなかで、患者さんに食事を指導することも少なくありません。

腎臓の機能が落ちてくると、食事面で注意しなくてはならないことが、いくつかあります。

塩分制限と同じくらいよく知られているのが、たんぱく質制限です。患者さんからも、「肉や魚を控えたほうがいいのか」といった質問を受けます。

答えは「いいえ」。私は、「腎機能が低下していても、たんぱく質は普通にとるべき」という考えです。腎臓が相当悪い患者さんでない限り、たんぱく質を制限する必要はありません。

これまでの腎臓病の治療指針において、たんぱく質制限は、いわば常識でした。

根拠の一つが、以前に行われた研究報告です。腎機能障害のステージがかなり進んだ患者さんを対象に、たんぱく質を厳しく制限したところ、腎機能が安定したというものです。

また、腎臓の糸球体は老廃物や過剰物質をろ過する機能がありますが、たんぱく質を多く摂取すると、血液が一気に腎臓に流入。すると糸球体に負担がかかります。

加えて、糸球体を通過した原尿(尿のもとになる体液)が、尿細管を通るとき、たんぱく質の燃えカスである窒素化合物が尿細管にダメージを与えます。

こうした複合的な要素から、「腎機能低下を防ぐには、たんぱく質の摂取制限が有効」という考え方が広まりました。

ところが近年になり、そうした潮流に変化が現れています。

たんぱく質を制限しても、腎機能の変化に差がなく、むしろ低たんぱく食により栄養不足になる弊害のほうが大きいと考える医師が増えてきたのです。腎臓専門医のなかでも、いまだに見解が分かれています。

適量を摂取して筋肉量や免疫力の低下を回避

たんぱく質は、体をつくるうえで不可欠な栄養素です。安易に摂取量を減らすと筋肉量が減り、体力が低下します。免疫力も落ちて新型コロナのような感染症にかかりやすくなります。

腎機能は加齢により低下するので、患者さんの多くは中高年です。高齢になると食事の量が減ることも考慮したら、たんぱく質は優先してとるべきです。

医院に通う75歳の男性患者さんは、私がいくら「たんぱく質をとってください」と伝えてもかたくなに控えていました。そのうちに、免疫力が低下したのでしょう、帯状疱疹を発症。ようやく必要性を理解し、きちんとたんぱく質をとるようになりました。今は腎機能が回復し、症状も治まっています。

画像: 大豆製品は良質なたんぱく質が豊富

大豆製品は良質なたんぱく質が豊富

厚生労働省の日本人の食事摂取基準(2020年版)にも、「65歳以上の高齢者はサルコペニア(加齢による筋肉量の減少)やフレイル(心身の虚弱)を防ぐため、1日に体重1kg当たり1.0g以上のたんぱく質を摂取することが望ましい」と記載されています。

加えて、慢性腎臓病患者の低たんぱく食の実践についても、効果の確実さに結論は出ていないと書かれています。たんぱく質を控えても、腎機能の低下を防げるわけではないのです。

たんぱく質の摂取量は腎機能に影響しないという研究も、実際にあります。糖尿病性腎症の日本人112名を2群に分け、片方はたんぱく質の摂取量を体重1kg当たり0.8gと制限。もう片方は、同1.2gを摂取とし、人工透析に移行するまでの経過を比較したところ、有意差は見られませんでした。

そんなわけで私は、患者さんの年齢や体格にもよりますが、1日に体重1kg当たり0.8~1.0gのたんぱく質摂取を指導しています。

腎臓に負担をかけにくいたんぱく源は、赤身の肉よりは魚か卵。それより望ましいのは植物性たんぱく質で、豆腐や納豆などの大豆加工品は特にお勧めです。

併せて患者さんにお伝えしているのが、減塩の重要性です。ただ一つ問題があります。たんぱく質メインの食材は、味つけして食べるのが前提なので、減塩を意識し始めると、食べる量が減ってしまうのです。

そこでお勧めなのが、しょうゆをスプレー容器に入れて使うこと。直接かけるよりも、断然塩分をカットできます。薬味やだし、ポン酢などの活用も、減塩に効果があるでしょう。

画像: しょうゆはスプレーして塩分カット!

しょうゆはスプレーして塩分カット!

ことに夏は、「キュウリやトマトの野菜サラダと、そうめんだけ」など、食事をあっさりと済ませがち。実際、患者さんのなかにも、夏場に腎機能が低下する人が少なくないのです。

腎臓病でも、食の楽しみをあきらめることはありません。減塩しつつ、たんぱく質は適量をとって低栄養を防ぎましょう。

画像: この記事は『壮快』2021年10月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年10月号に掲載されています。

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