夏は水分摂取の調整が難しい季節ですが、透析を受けていないのであれば、意識して控える必要はありません。また、コーヒーと腎臓病の関係についての研究結果から、腎機能に悪影響を及ぼすことはなく、むしろ積極的に飲んでいいと判断できるでしょう。【解説】中尾俊之(腎臓・代謝病治療機構代表/望星西新宿診療所院長/東京医科大学名誉教授)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

中尾俊之(なかお・としゆき)

1947年、東京慈恵会医科大学卒業、同大学病院講師・第2内科勤務。82年、東京都済生会中央病院腎臓内科科長・透析室長を経て、92年、東京医科大学病院腎臓内科科長・透析センター部長。99年に同大学教授。2013年、東京医科大学名誉教授および腎臓・代謝病治療機構代表に就任。日本透析医学会認定専門医、日本腎臓学会認定専門医。
▼望星西新宿診療所(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)

夏場のむくみやだるさ貧血、息切れに注意

腎臓は、背中の腰の辺りに左右1個ずつある、こぶし大ほどの臓器です。重量は150g程度ですが、心臓が全身に送り出す血液量のうち、25%もの供給を受けています。腎臓はそれだけ人体に重要といえます。

ところがこの腎臓、相当忍耐強いため、自覚症状がなかなか現れません。気づいたときにはすでに病状が進行している場合が多いのです。夏場のむくみやだるさ、貧血、息切れなどの症状は、そんな疲弊した腎臓のSOSサインかもしれません。

まずは、腎臓の機能についてお話ししましょう。

腎臓の働きは、
尿の生成
ホルモンの分泌・代謝機能
の、二つに大別されます。

腎臓は、いわば体液のフィルター、ろ過装置です。腎臓の中にはネフロンと呼ばれる構造体が約100万個あります。ネフロンは、毛細血管が球状に絡まり集まった糸球体と、糸球体からつながる尿細管という長い管の、二つから構成されます。

画像: 夏場のむくみやだるさ貧血、息切れに注意

血液は、糸球体でろ過されたあと、尿細管を通ります。このとき、体に必要な栄養素(アミノ酸など)や電解質(ナトリウムなど)が再吸収され、伴走する血管に戻されます。一方、老廃物や過剰物質は、そのまま尿細管を通過。集合管を経由し、尿管から膀胱へ進み、最終的に尿として排出されます。

ここまでが❶の尿の生成ですが、その過程で、体液の量と性質、電解質濃度を、適切に調整するなどの働きもします。

❷については、赤血球の数や血圧を適正に保つホルモンを産生します。これも、腎臓の重要な役割です。

これほど大事な臓器なので、万一なんらかの障害が一部に起きても、機能をほかで補えるようになっています。仮に腎臓を一つ失っても健康上問題なく過ごせるのは、このおかげです。

生活習慣病の予防・改善が腎臓を守る

腎機能の異常を見過ごさないために、重要なのが検査です。

尿検査や血液検査、画像診断や病理所見で腎障害があると認められる場合
GFR(糸球体ろ過量)が60ml/分/1.73㎡未満

これらの項目のいずれか、もしくは両方が3ヵ月以上続くと慢性腎臓病(CKD)と診断されます。

ふだんの診療では、血液検査からわかる血清クレアチニン値に基づいて算出する、eGFR(推定糸球体ろ過量)が使われるのが一般的です。実際のGFRは、「24時間畜尿検査」という方法で調べることができます。

腎機能の悪化が進むと、人工的に血液を浄化して体内へ戻す透析療法が必要となります。しかし透析は負担が大きく、誰しも避けたいものです。

そこで、透析患者さんの抱える腎臓疾患の、トップ3を見てみましょう。1位は糖尿病性腎症。2位が慢性糸球体腎炎。そして3位は腎硬化症。この3つが全体の6割を占めます。

これらの疾患の原因は、糖尿病高血圧、そして免疫異常です。つまり、生活習慣病を予防・改善することが、腎臓を守ることにつながるのです。

例えば、有効なのが減塩。ご存じのとおり、塩分のとり過ぎは高血圧の原因になります。特に夏場は、塩分と併せて、水の飲み過ぎにも要注意です。

塩をとり過ぎると、体は体液の塩分濃度調整のため、水を保持しようとします。健常なら不要な水分は尿となって出ますが、腎機能が低下していると、排出できず、むくみが生じます。

一方、降圧薬を服用中の人が夏に脱水ぎみになり、いつもより血圧が低くなると、腎機能が低下傾向を示すとの研究報告もあります。腎臓が悪い人は特に脱水症や熱中症を起こさないよう、炎天下のマラソンや登山は避けましょう。

夏は水分摂取の調整が難しい季節ですが、透析を受けていないのであれば、意識して控える必要はありません。高齢のかたは、のどの渇きに気づきにくいものです。ふだんより、こまめな水分補給をお勧めします。

腎機能を守るため、ほかにどんなことが役立つでしょうか。下項では、ある飲み物によるセルフケアを紹介します。

毎日飲む習慣のある人はより腎機能がいい

前項では、腎臓病とはどんな病気かという解説に加え、夏の水分補給のしかたについても触れました。

飲み過ぎには注意が必要ですが、基本的には、のどが渇いたら我慢せず、普通に水分をとってください。腎臓には体液を常に一定に保とうとする機能があり、よほど状態が悪くなければきちんと尿として排出されるので、心配はいりません。

そんな話を患者さんとしていると、「コーヒーが腎臓に及ぼす影響は?」と、聞かれることがあります。そんなとき私は、「コーヒーが腎臓にいいという研究がありますよ」と答えています。

コーヒーはさまざまな角度から、その機能性が世界中で研究されており、健康に寄与することがわかっています。コーヒーと腎臓病の関係についても、調査されるようになりました。ここでは、そうしたいくつかの研究をひもといてみましょう。

まずは、2010年に学術雑誌に掲載された、日本人を対象とした研究です。

健康な成人342名を対象とし、コーヒーを1日1杯以上飲む習慣がある人と、そうでない人のeGFR(推定糸球体ろ過量)を計測しました。eGFRとは、腎臓の糸球体(上項参照)がどれだけの量の血液をろ過できているかという、腎臓の能力を表す指標の一つです。

その結果を、A=eGFRが正常範囲の人と、B=腎機能がすでに低下している人と、二つのグループに分けて比較。

すると、Aのうちコーヒーを飲む習慣のある人は、飲まない人に比べ、eGFRの値が有意に高いことがわかりました。もともと正常でも、毎日コーヒーを飲んでいるほうが、より腎機能がよいということです。

一方、Bのなかで比べたところ、コーヒーを飲む習慣がある人とない人では、eGFRの値に有意差はなし。腎機能が低い状態にあることと、コーヒーを飲む習慣の有無は、関連しないと示されました。

日本人の成人を対象とした、また別の研究もあります。1日1杯以上コーヒーを飲む習慣がある人57名と、ない人57名の、eGFRを計測。その平均値を比較したところ、コーヒーを飲む人のほうが、eGFFRが有意に高かったと確認されました。

コーヒー独自の苦み成分が多様な機能性を持つ

世界の研究にも、目を向けてみましょう。

韓国では、女性を対象とした全国規模の調査を実施。35~84歳の女性2673名を、コーヒーを飲む量に応じて「1日に1杯未満」の1007名、「1日に1杯」の789名「1日に2杯以上」の877名と、3群に分けました。

それぞれ、eGFRが基準値以下の人がどのくらいいるかを調べたところ、「2杯以上」の群は、「1杯未満」の群に比べ、腎機能が低い人が有意に少ないと判明しました。

オランダでも、多くの人を対象としたコホート研究(仮説として考えられる要因・特性を持つ集団と持たない集団を追跡し、その要因・特性と疾患との関連性を明らかにする研究方法)が行われています。

26~65歳の男女4722名を、5年ごと、15年かけて追跡。コーヒーを飲む量に応じて「1日に1杯未満」から「1日に6杯以上」まで、5群に分けて解析したところ、飲む量が多いと、eGFRが有意に高いという結果が得られています。

さらに大規模な調査を行ったのは、多人種・多民族国家のアメリカです。

腎臓病による死亡リスクとコーヒー飲用の関連性を、45~75歳の一般住民18万人が参加したコホート研究のデータから、検証しました。

コーヒーを飲む習慣がない人を参照基準としたうえで、飲む人を、その飲用量に応じて区分して比較。その結果、コーヒーの飲用量が多いと、腎臓病による死亡リスクが有意に低い傾向があると示されました。

画像: ※Park SY et al. Ann Intern Med. 2017;167(4): 228-235より作図

※Park SY et al. Ann Intern Med. 2017;167(4): 228-235より作図

どの研究も「コーヒーを飲んで腎機能がよくなった」とは証明していませんが、見る限り、腎機能にコーヒーが悪影響を及ぼすことはなさそうです。むしろ、積極的に飲んでいいと判断できるでしょう。

では、コーヒーのどんな成分が、腎機能に関係しているのでしょうか。

やはりアメリカで行われた、末期腎疾患に関するコホート研究によると、コーヒーで確認されたリスクの低下が、緑茶や紅茶、カフェインの摂取では認められませんでした。

考えられるのは、コーヒーのポリフェノール(植物の色素や苦み成分)です。ポリフェノールは、老化や病気の元である活性酸素を体から除去する、抗酸化作用があります。

コーヒーはクロロゲン酸などのポリフェノールを多く含み、含有量トップを誇る赤ワインと、同程度といわれます。

クロロゲン酸は、コーヒー独特の色や香り、苦味の元になる成分です。脂肪の蓄積を抑えたり、脂肪燃焼を促進したりする健康効果があります。こうした機能性が、腎臓にもいい影響を及ぼしているのではないかと推察されます。

飲んだコーヒーの量は、もちろん、水分量に含まれます。透析患者さんは飲む量に気をつけつつ、暑い日はアイスコーヒーにして、コーヒーブレイクを楽しんではいかがでしょうか。

画像: この記事は『壮快』2021年10月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2021年10月号に掲載されています。

www.makino-g.jp

This article is a sponsored article by
''.